渡邊圭祐インタビュー 『無駄な抵抗』「決して悲劇的ではなくポジティブなメッセージが隠れています」(前編)
2023年11月11日(土)から、世田谷パブリックシアターを皮切りに『無駄な抵抗』が上演されます。
本作は、ソポクレスの「オイディプス王」に代表されるギリシャ悲劇を着想の源とし、「運命」と「自由意志」をテーマに、前川知大さんが作・演出を手掛けた意欲作です。
キャストには、前川さんが主宰を務める劇団「イキウメ」公演ほか、数々の前川作品に出演している池谷のぶえさんをはじめ、松雪泰子さん、清水葉月さん。また、前川作品初出演となる渡邊圭祐さん、穂志もえかさんといった多彩な顔ぶれが集結。そして、前川作品には欠かせないイキウメの俳優、安井順平さん、浜田信也さん、盛隆二さん、森下創さん、大窪人衛さんが脇を固めます。
今回は、舞台出演が3作目となる渡邊圭祐さんにインタビュー。前編では、ご自身の役どころへの解釈、稽古場の様子や前川さんの演出に対する印象などをお話しいただきました。
“子どもっぽい視点で物事を考える大人”という印象
――渡邊さん演じる鈴木理人はホストという役どころ。どんなキャラクターだととらえていますか?
いろんなものを背負っているけど、他人にそれを見せない強い子です。人に対しての自分なりの距離感みたいなものをちゃんと持っていて、愛を原動力に動くような。性格的には特別明るいわけでも暗いわけでもなく普通の子ではあるんですけど、ものすごくピュアで、“子どもっぽい視点で物事を考える大人”という印象です。
――役へは、どのようにアプローチしていったのでしょうか。
理人は、芽衣(池谷のぶえ)や同じ孤児院出身のりさ(清水葉月)と一緒のシーンが多いんです。いわゆるホストっぽいキャラクターではないんですが、ホストとしてのお客様をもてなす精神は持っていると思うので、のぶえさんと掛け合いをしながら、その絶妙な塩梅を探っているところです。
最初に本読みをしたとき、“意図的に感情を入れず、セリフをそのまま読む”というスタイルだったので、立ち稽古が始まってもその感覚が抜けなくて。そうやって読むことによって生まれてくる感情があるんですが、今はそれを受けとめて、どうにか自分のなかで消化してついていっている感じです。
――自然に生まれる感情を大切にしているということですか。
そうですね。もちろん、自分の出演シーンがこの作品のなかでどんな役割を担っているのかというのは考えつつ、キャストのみなさんと“こうなったらいいよね”とディスカッションをしながら作っています。特に葉月さんとは、よくお話しをします。
僕、りさとのシーンは、ほかの人とのシーンとは質感がちょっと違うように感じていて。登場人物全員、何かしらの目的があって会話が進んでいくことが多いんですけど、僕と葉月さんのシーンに関しては、明確なものがあまりない気がしているんです。“こういうバックボーンを持つ二人が、作品のなかでこういう役割を担っている”ということが、語られはしないけどシーンからにじみ出るのがベストかなと思うので、その温度感を探っているところです。
――稽古中、清水さんとはどんなお話をしていますか?
理人とりさの関係性の近さとか、二人の間にある信頼感みたいなものが言葉で表現されているわけではないので、「言葉の交わし方だったり“間”だったりというもので表していきたいね」みたいなことを話しています。その合間に、二人でセリフの言い方を試しながら「今のよかったんじゃない?」みたいなことを言い合ったりしているんですが、もしも前川さんがそれを見ていたら、「今、どんな感じでした?」と聞くこともあります。
今は、リアルと演劇的なものの間を行き来しているところ
――前川さんの思いをどのように汲んで、台本を解釈しましたか?
前川さんが『オイディプス王』というギリシャ悲劇を下敷きに(台本を)書いたとおっしゃっていたんですが、思ったより分厚くオイディプス王が敷かれているという印象を受けました。現代に置き換えて作ってはいるんですけど、(『オイディプス王』に描かれている)事象をすごくなぞっているんです。ただ、ギリシャ悲劇では最後が劇的に描かれることが多いんですが、本作はそこまで劇的ではないというか。現代の生活に寄り添った、リアルな目線で描かれているんです。
台本が届く前に、前川さんから本作は「ポジティブ」がキーワードだと聞いていたので、キャストは“リアル”を求められているのかなと。それに、前川さん自身が大切にしたいところもそこなのかなと思ったので。今は、そのリアルと演劇的なものの間を行き来しているところです。今までのイキウメ的なやり方とは違うものにしたいのかなという、そんな意志を何となく感じました。
――実際に前川さんのモノづくりに触れてみて、いかがですか。
僕が舞台に出演するのはまだ3作目ではありますけど、今までご一緒した演出家のお二人とはまた全然違う作り方なので新鮮です。前川さんが書く台本って、“こうなりました”じゃなくて“こうなっちゃったけど、さぁどうしましょう”というスタンスなんです。それに対して、イキウメの劇団員のみなさんが「これがこうなっているんだから、こうやってみたらこう見えるんじゃない?」「あっ、それいいかも!」みたいにディスカッションを始めて。実際にやってみて「やっぱり違うわ」となることもあるし、最終的にジャッジをするのは前川さんなんですけど、キャスト全員が演出家なんだなって感じるんです。
もちろん、ほかの舞台でも僕ら演者が提案することはあるんですが、あくまでもそれは芝居についてなんです。今回は、それもありつつ全体の話についてもみんなで話し合うから、全員で作り上げていくという感覚が強いんですよね。ただ、前川さんは抽象的な言葉を使って説明されることが多いので、受け取り方が人それぞれになってしまったりするんです。
――抽象的なことに対しては、人によってとらえ方が違ったりもしますもんね。
概念的なことだし、話も二転三転するから、“結局、これをどうすればいいんだ?”ってなることが、いまだにあるんです。ただ、そういうときはイキウメのみなさんが“こういうことですよね”と噛み砕いて前川さんに投げかけてくださって、みんながちゃんと理解できるように進めてくださるので。すごく恵まれた環境でやらせていただいているなと思います。
――桜役の松雪泰子さんが、Xで「『無駄な抵抗』は壮絶だ」とポストされていましたね。
たしかに、森を進んでいるような感覚はあります。
――キチンとした道がない感じでしょうか?
そうですね。おまけに、木々に遮られて光も差さないもんだから、どうしましょうね、みたいな。一歩進んで二歩下がる日もあったりしますし。でも、そうやって悩むごとにたくさんある選択肢が削れていくという意味では、結果的に前進しているんです。すごくキレイに型にはめていくのではなく、這いつくばりながらどうにか正解に持っていこうって、ドロ臭く芝居を作っている感じがします。
――そういう作業は大変ではある反面、楽しくもありますか?
楽しいですね。すごく頭を使いますが、今は本番初日までにいいものができると信じて、みんなで進んでいるところなので。どうなるんだろうというワクワクも含めて楽しいです。
――そういった状況のなかでも、ご自身なりの手応えもあったりしますか?
まだ確信がない状態なので今はないです。とはいえ、現段階で確信を持つことがあまりいい状態とも思わなくて。でも、なんとなく自分のなかに確固たるものがほしいなと思い始める時期でもあるし、というジレンマがあります。早く何かをつかめたらいいなと思います。
――前川さんの言葉で、印象に残っているものがあれば教えてください。
僕は、自分のやりやすい温度で芝居をしてしまうクセがあるんです。前川さんからは「その枠からはずれた姿を見たい」と言われたので。それを心に留めて、自分の枠からはみ出した新しい芝居を見せられたらなと思います。
取材・文:林桃
Photo:梁瀬玉実
ヘアメイク:小林正憲(SHIMA)
スタイリスト:九(Yolken)
【衣裳】
ジャケット/¥190,300-
プルオーバー/¥52,800-
パンツ/¥75,900-
(全て エンポリオ アルマーニ)
<問合せ先>
ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社
東京都中央区銀座5-5-4 アルマーニ/銀座タワー
℡03-6274-7070
公演概要
『無駄な抵抗』
【作・演出】 前川知大
【出演】
池谷のぶえ 渡邊圭祐 安井順平 浜田信也
穂志もえか 清水葉月 盛隆二 森下創 大窪人衛
松雪泰子
【日程】 2023 年 11 月 11 日(土)~11 月 26 日(日)
【会場】 世田谷パブリックシアター
【お問合せ】 世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515 https://setagaya-pt.jp/
【主催】 公益財団法人せたがや文化財団 【企画制作】 世田谷パブリックシアター
【制作協力】 エッチビイ 【後援】 世田谷区
<兵庫公演>
【日程】 2023 年 12 月 9 日(土)~12 月 10 日(日)
【会場】 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【主催】 兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
【『無駄な抵抗』 公式 Twitter 】 ユーザー名 : @muda_na_teikou
【『無駄な抵抗』 公式 Instagram】 ユーザーネーム: muda_na_teikou
【世田谷パブリックシアター公式 twitter】 @SetagayaTheatre
【『無駄な抵抗』公式ホームページ】 https://setagaya-pt.jp/stage/2140/