海宝直人インタビュー ミュージカル『アリージャンス〜忠誠〜』「今この時代に上演することに大きな意味を感じます」
――実話に基づいた、戦時下のアメリカを生きた日系アメリカ人が題材という難しい作品になりますが、本作を日本で初上演するにあたり、どんな思いで臨もうと考えていますか?
出演のお話をいただいた時には、世界はまだこういう状況になっていなかったんですが、今年になりコロナウイルスが大きな影響を及ぼすようになって。アメリカの大統領選もそうですけど、なんだかすごく分断されていっている気がするんです。人種間もそうだし、思想信条においても、人々が分断してしまうことが今、世界的な問題になっている。コロナの影響で、フランスではアジア人差別も起きているんですけど、そういう感覚は日本に住んでいると肌で実感することができないんですよね。
――たしかに。日本に暮らす日本人は、圧倒的にマジョリティ側の立場になりますから、差別をされる側にはなりにくいですよね。
僕がロンドンで公演に出演させていただいた時にも思ったことなんですが、ロンドンはヨーロッパ圏なので、ニューヨーク以上にさまざまな国の人たちが来て俳優をやっているんです。そういう場所に身を置くと、自分というのは世界の一員で、周りから見たらやはりアジア人であるし日本人であるということを、自分のアイデンティティとして認識される立場なんだと、すごく感じました。それが、日本にいると実感できないんですよね。
――そう思います。
日本にいたら周りは基本的には日本人で、こうして舞台をやっていてもお客様はほぼ日本人で、そうやって完結できる環境にあるんだと、この作品に関わって感じました。今求められていて、我々が持たなきゃいけない視点は、コロナ禍において日本はどういう立ち位置で世界と向き合っていくのか……あるいは、アメリカ大統領選によっても、世界が大きく転換していくかもしれない、その中で日本はどう世界と付き合っていくのか、そういう視点なんだと思うんです。
多民族国家で生きている人たちはこれらを否応なく意識せざるを得ないし、政治的な信条や自分の思いをはっきり表明して生きていかなきゃならない環境にある。サミーはまさに、そういうメンタリティーを持っている人なんだと思うんですよ。日系人ではあるけれども、中身はほぼアメリカ人としてのメンタリティーを持ち、愛国心も強くて、という。
――それが彼の劇中での行動にも現れていますよね。
愛国心であったり、国へ忠誠を尽くす感覚というのは、僕も含めてなかなか実感できないものなので、そういった部分をとにかくしっかりと掘り下げて構築していかなきゃなと感じています。アメリカ人を分かりやすくアメリカンに表現するのではなく、そこの根幹にある部分を、丁寧に掘り下げていく必要があるというか。
この作品をお客様に観て感じていただくことで、今の社会と向き合うことにも繋がるのではと思うので、今この時代に上演することに大きな意味を感じますし、価値があることなんじゃないかと思っています。