ブロードウェイミュージカル『ニュージーズ』観劇レポート!「時は来た」岩﨑大昇が踏み出したグランドミュージカル界への大きな一歩
アラン・メンケンの音楽×小池修一郎の演出によって初演が高い評価を得たブロードウェイミュージカル『ニュージーズ』待望の再演が、2024年10月9日(水)より東京・日生劇場にて上演中。
1899年のニューヨークを舞台に、新聞を売って生計を立てる孤児やホームレスの新聞販売少年たち“ニュージーズ”が、未来に向かって懸命に生きる姿を描く物語。本作は1992年に公開(日本公開は1993年)されたディズニーによるミュージカル映画『ニュージーズ』の舞台版で、日本ではミュージカル界の巨匠・小池修一郎が演出・日本語訳・訳詞を手掛ける。2021年に上演された初演では、オリジナル版とは異なる演出・振付も高く評価され、第29回「読売演劇大賞作品賞」も受賞している。
初演で主演を務めた京本大我からバトンを受け取り、今回新たに主人公・ジャック役に抜擢されたのは美 少年の岩﨑大昇。新キャストとしてキャサリン役の星風まどか、クラッチー役の横山賀三、ピュリツァー役の石川 禅が加わり、続投組のデイヴィ役・加藤清史郎、メッダ役・霧矢大夢とともに、希望に満ちたディズニー・ミュージカルを再び作り上げた。
今回は、ゲネプロの模様をレポートする。
※作品内容に一部触れています。
ニュージーズの希望となった主人公・ジャック同様、岩﨑大昇はグランドミュージカル界の新たな希望になるのではないか。観劇後、作品の余韻とともに、そんな予感が胸に広がった。
ジャック(岩﨑大昇)はニューヨークで新聞を売りながらその日暮らしをする少年。足の不自由な友人のクラッチー(横山賀三)に、いつかサンタフェに行きたいという野望を語って聞かせるが、それは夢のまた夢。それでも憧れるサンタフェへの想いを歌う最初のナンバー「Santa Fe」は、夜明けの静けさと相まってなんとも心地良い。
グランドミュージカル初主演とは思えない岩﨑の伸びやかな声に、劇団四季ミュージカル『ライオンキング』のヤングシンバ役をはじめ子役時代からミュージカル界で経験を積んできた横山の歌声が重なり、初演に負けず劣らずの完成度の高さを感じさせてくれる。
「Santa Fe」は1幕の始まりと終わりで歌われるナンバー。夢が詰まった希望の象徴として歌われた楽曲は、1幕ラストで無力感に苛まれるジャックが“ここではないどこか”に想いを馳せる切ないナンバーへと纏う色を変えた。ミュージカル俳優・岩﨑大昇としての表現力、観客を引き込む力を存分に味わい、休憩に入る頃にはすっかり鳥肌が立っていたほどだ。
ジャックは弱冠17歳だが、仲間を率いるカリスマ性と、大人にNOを突きつけられる勇気と、親のいない環境で生き抜いてきたたくましさを持つ。岩﨑は持ち前の穏やかな包容力を活かしながらジャックのリーダーとしての強さを表現するとともに、17歳らしい年相応な未熟さも併せ持つジャック像を作り上げた。
1幕ではジャックやクラッチー、新たにニュージーズに加わった博識なデイヴィ(加藤清史郎)が中心となって、ニュージーズの労働組合を組織。彼らが売っている「ワールド」紙のオーナーであるピュリツァー(石川禅)が一方的に引き上げた卸売価格に対して、ストライキを起こすが……というストーリーが展開される。
見どころはなんといってもニュージーズのナンバー。夜明けとともにオーケストラピットからぞろぞろと出てくる新聞売りの少年たちのたくましく生きる日々を、バレエやタップ、アクロバットの要素を取り入れたエネルギッシュな群舞と歌で生き生きと描き出す。約20人でのニュージーズのナンバーはどれも力が溢れている。明日を生きるための力、仲間のために立ち上がる力、理不尽に立ち向かう力、そして今を楽しむ力。未来あるキャスト陣が全身から放つエネルギーは、いつの間にか客席に伝播し、観客の心にも活力を与えてくれる。
一度の観劇では目が足りなかったのだが、群舞の中でのちょっとした仕草や周りとの関わり方から、ニュージーズ一人ひとりのバックボーンらしきものが浮かび上がってくる。ストーリーの中ではジャックとクラッチーとデイヴィとその弟レス(糸山寛人、大久保壮駿、中優真のトリプルキャスト)が軸となるが、本作はニュージーズ全員が主人公なのだと思わせてくれる。こういった点も、観劇後に爽快な気持ちで帰路につける要因なのだろう。
ニュージーズのストライキに興味を持ち協力するようになる新聞記者キャサリン役を演じるのは、元宝塚歌劇団花組トップ娘役で本作が退団後初舞台となる星風まどか。働いて自立する女性がまだ珍しい時代に、強い意志を持って自分を貫くキャサリンをチャーミングに表現。宝塚時代から高く評価されていた柔軟性のある芝居と、彼女自身が持つ朗らかな雰囲気が、ディズニー作品らしい前向きでたくましいヒロイン像にぴたりとハマっていた。
2幕では、ニュージーズのストライキと同時に、ジャックとキャサリンの恋も描かれていく。気の強い二人の“ケンカップル”なやり取りはあまりに可愛らしく、思わず口元が緩んでしまった。その中でも、岩﨑は出自の違いから「自分なんかが彼女に選ばれるわけない」と一歩引いてしまうジャックの年相応な弱さを繊細に滲ませ、ジャックをより愛しい人物に仕上げていたのが印象的。
続くデュエットナンバー「Something To Believe In」は、せり上がっていくセットに浮かび上がる二人のシルエットが、まさにプリンスとプリンセス。二人の歌声の相性も良く、その瞬間だけはおとぎ話の1ページをめくっているような感覚に陥った。
ジャックを支える親友のクラッチーは、片足が不自由でいつも松葉杖をついている。そんなクラッチーだが、群舞では仲間とともに踊り、ストライキを阻止する大人たちとは戦い、片足を引きずっていることを感じさせないくらい溌剌と動き回る。「僕にはこれが当たり前だから」そんなクラッチーの声が聞こえてきそうなほど、横山の身体に役が馴染んでいるのだ。ハンデをものともせずひょうきんに笑うクラッチーが、2幕で見せる心の叫びは涙なくしては観られない。
もう一人のジャックの戦友・デイヴィは、初演から続投となる加藤が演じる。澄んだ歌声と、長年培ったキャリアに裏打ちされた芝居は、抜群の存在感を放つ。それでいて、引き算の芝居とでも言うべきか、周りの登場人物の魅力を引き出すことに長けていたのが印象的。
ジャックの良き理解者であり若者たちの覚悟を応援するメッダ(霧矢大夢)と、若者たちの前に立ちはだかるヴィラン役であるピュリツァーという大人たちの対比も、霧矢と石川の骨太な芝居もあって見応えがある。
本作の音楽は数々の名曲を世に送り出したアラン・メンケンが手掛け、2012年には本作でトニー賞作曲賞を受賞している。そんな楽曲の力も追い風に、岩﨑はグランドミュージカル界への一歩を大きく踏み出した。岩﨑は開幕前に「『時は来た』といったところでしょうか」と、少年たちが決起するナンバー「Once And For All」の歌詞を引用して意気込みをコメントしていた。ニュージーズが“その時”を逃さず、自らの道を切り拓いていく姿は、忙しなく日々を生きる観客に大きな感動と勇気を与えてくれるだろう。ミュージカルファンが待ちに待った再演。やっとやって来た“この時”をお見逃しなく。
文:双海しお
ブロードウェイミュージカル『ニュージーズ』開幕コメントはこちら
公演概要
ブロードウェイミュージカル『ニュージーズ』
作曲:アラン・メンケン 作詞:ジャック・フェルドマン 脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
演出/日本語訳/訳詞:小池修一郎(宝塚歌劇団)
出演:岩﨑大昇、星風まどか、加藤清史郎、横山賀三、霧矢大夢、石川禅 ほか
【公演日程】
東京公演:
10月9日(水)~10月29日(火)
日生劇場
兵庫公演:
11月3日(日・祝)~11月4日(月・休)
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
福岡公演:
11月9日(土)~11月11日(月)
福岡サンパレス ホテル&ホール
製作:東宝/TBS
【作品公式サイト】https://www.tohostage.com/newsies/