市村正親、松雪泰子、本田響矢、豊原功補ら登壇。音楽劇『エノケン』製作発表記者会見レポート!
2025年10月より、日比谷・シアタークリエにて、音楽劇『エノケン』が上演される。
戦前・戦中・戦後……と、昭和の日本をとびきりの笑いで照らしつづけ、“エノケン”の愛称で親しまれた榎本健一。彼は、東京・浅草の小さなレビュー劇団「カジノ・フォーリー」の舞台に登場し、一躍注目されると、わずか数年のうちに、座員150名、オーケストラ25名を擁する日本一大きな劇団「ピエル・ブリヤント(エノケン一 座)」の座長となった。
当時流行していたジャズと、スピーディーでナンセンスなギャグにあふれたその舞台は、エノケンの天賦の感性と体技、音楽性なくしては実現できない、まったく新しい喜劇として人気を博した。浅草のエノケンは、やがて、数々の喜劇映画がヒット、日本劇場、東京宝塚劇場、芸術座などの名だたる劇場で喝采を浴び、日本における喜劇俳優の第一人者となった。
エノケンの波乱の人生を新作戯曲として又吉直樹が書下ろし、演出をシライケイタが務める。主演の榎本健一を演じるのは市村正親。共演には、松雪泰子、本田響矢、豊原功補ら豪華キャストが揃った。
今回は、市村正親、松雪泰子、本田響矢、豊原功補 、作・又吉直樹、演出・シライケイタが登壇した製作発表記者会見の様子をお届けする。
まずは、主演の市村正親による『私の青空』の歌唱披露があり、今回は、作曲・音楽監督の和田俊輔の伴奏によるスペシャルバージョンで届けられた。


その後は、登壇者それぞれより本作への意気込みが述べられた。
又吉直樹「今回、脚本を担当しました又吉直樹です。僕は1980年生まれで、榎本健一さんのことは伝説として知っている程度でしたが、脚本を執筆するにあたって資料や映像をいろいろと見ていくうちに、年表だけではわからない「生き様」のようなものにどんどん惹かれていきました。公演を楽しみにしております。よろしくお願いいたします」

シライケイタ「演出のシライケイタです。オファーをいただいた時は、身が引き締まる思いでした。演劇界の大先輩方、そして新しい才能とご一緒できるのは、ワクワクしかありません。また、又吉さんが本当に素晴らしく面白い脚本を書いてくださいました。一部、セリフを引用させていただきます。100%正確な表現ではないかもしれませんが、これは市村さんが演じるエノケンが劇中で語るセリフを一部引用させていただきます。
『自分は賢い人がしつらえるようような作品は作りたくない。誰もが笑える、人間の血の通った作品を作りたい。客を緊張させてもしょうがない。自分が馬鹿をやらなければ始まらない。全部ひっくるめた人間の営みを表現したい』
この言葉こそが、今回の作品のテーマだと感じています。みんなで力を合わせて、現代に蘇らせたいと思っています。よろしくお願いいたします」

市村正親「榎本健一を演じる市村正親です。このお話をいただいた時、「エノケンを演じるとはどうなるのだろう」と、正直思いました。これはもう又吉さんの脚本次第だなと思って、楽しみにしていましたが、1か月ほど前に脚本をいただいて、少し暗くなってきた時間帯に自分の部屋にこもって、コーヒーを片手に読ませていただきました。本当に素晴らしい脚本ができたと感動しました。又吉さんはすでに十分責任を果たしてくださいましたので、これからは我々俳優陣がこの作品を素晴らしいものにして、お客様に届けていきたいと思います」

松雪泰子「花島喜世子と榎本よしゑを演じさせていただきます。オファーをいただいたときは飛び上がって喜びました。こんな素敵な座組に参加できることは、本当にうれしいことです。脚本も、ずっとワクワクしながら待っていて、先日読ませていただきました。少しだけお伝えすると、時間軸がシームレスに展開していく構造が本当に魅力的で、その中で私たちがどれだけエネルギーを注げるかだと思いますので、しっかりと務めさせていただきます」

本田響矢「榎本健一さんの息子・榎本鍈一と、若き劇団員・田島太一を演じさせていただきます、本田響矢です。この2役をやらせていただけると聞いた時は、とてもうれしかったです。というのも、父としてのエノケンさん、大先輩としてのエノケンさんという2つの視点から、このエノケンという大きな人物を見ることができるのがとても貴重で、稽古や本番に入っていくのが本当に楽しみです。また、シライさんや又吉さん、そして大先輩方と一緒にお芝居ができることが、これ以上ない幸せだと感じています。たくさんのことを吸収していきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします」

豊原功補「菊谷 榮を演じます、豊原功補です。菊谷という脚本家は、酒場で飲んでいた時にエノケンと出会い、信頼を得て座付き作家となっていきますが、その後戦地に赴くことになります。今年はちょうど戦後80年という節目でもあり、喜劇を書くということと、戦争の中に身を置くという、その狭間にある人間をどう演じるかが問われていると感じています。又吉さんの素晴らしい脚本、シライさんの演出、そして共演者の皆さんと共に、責任を持ってしっかり演じていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします」

その後は、記者からの質疑応答の時間に。榎本健一について、どんなところに魅力を感じているかという質問に、又吉は「いろいろありますが、まずは、常人離れした動きや表情、声などに惹かれます。当時も面白い芸人はたくさんいたと思いますが、榎本健一さんがその場にいるだけで、みんながつい注目してしまうような、特別な存在感があるんです。誰かと同じことをやっていても、エノケンさんがやると全然違って見える。理屈を超えた、言語化できないような魅力があると感じています。また、笑いに対してとても貪欲で、何もないところからでも笑いを生み出そうとする姿勢にも強く惹かれました」とエノケンの魅力について語り、

市村も「エノケンは“喜劇王”と呼ばれていますが、役者として本当に魅力的で、尊敬する部分がたくさんあります。僕自身も舞台を中心に52年やってきましたが、やはりお客様の前で「いい芝居」「いい人生」を見せるという意識を、エノケンさんも持っていたんじゃないかなと感じます。
特に、喜劇という部分で、「笑わせよう」とするよりも、「真剣に生きること」が結果的に笑いにつながるというのは、僕らのやっている芝居と一緒だなと。僕も最近まで『屋根の上のヴァイオリン弾き』をやっていたのですが、やっぱりどこかで“お客様をくすっと笑わせたい”という気持ちが常にあるんですよね。
そういう意味で、これはエノケンさんの物語であると同時に、自分の舞台人生そのものでもあるような気がしています。役者・市村正親が“榎本健一”という人物に入り込んで、良い人生を舞台の上で生きられたらと思っています」と榎本健一を演じるにあたっての熱い思いを述べた。

又吉が手掛けた台本を読んだ印象について、松雪は「私はまず、エノケンさんの人間関係にとても惹かれました。ご友人や作家の方々との会話のシーンがとても魅力的なんです。そういったやり取りを通して、エノケンさんという人物像がとても鮮やかに、明確に浮かび上がってくる。それがとても素敵だなと感じました」と本の魅力を語り

本田は「やはり、又吉さんが脚本を書かれているからこそ生まれる笑いのシーンが随所にあって、僕自身、読んでいて思わず笑ってしまう場面がいくつもありました。 「これは又吉さんが書かれた本だな」と実感できるような瞬間がたくさんあって、演じるのがとても楽しみです。また、エノケンさんの“生き様”がすごく色濃く書かれていて、それを知ることができたのも大きかったです。今まで表面的なことしか知らなかったので、これから稽古に入って、一緒に演じさせていただくことがとても楽しみです」と稽古への期待を膨らませた。

豊原は「台本に描かれている人物たちの出会いや、演劇を作り上げていく様は、僕自身が10代・20代の頃に感じていたものと重なる部分がありました。 とにかく舞台のことしか考えていなかったような、あたたかくて、面白くて、少し乱暴で……そんな時間がしっかりとこの脚本に刻まれているんです。タイトルに“音楽劇”とあり、そして“喜劇”であることは間違いないのですが、全体を通して人間の奥深さを感じさせる内容にもなっていて、非常に心を動かされました。
僕が演じる菊谷は、戦地で亡くなる役柄です。その出会いから喜劇に惚れ込み、命を懸けるほど愛したという人物であり、戦争の影が背後にある中で、それでも喜劇をやっていたという、その落差がとても印象的です。僕自身もしっかりとかじりついていきたいと思っています」と自身との共通点についても触れた。

本作の演出プランについて、演出のシライは「皆さんもおっしゃっていたように、又吉さんの笑いの感覚というのは、やはりものすごいものがあります。その面白さは何としても表現したいと考えています。同時に、戦争というものが背骨としてこの物語の背景に流れていて、その時代における「笑い」の振れ幅は非常に大きいのだと思います。
悲劇と悲しみ、そして喜び。振り幅が本当に大きな時代ですし、台本にもそういったものがしっかりと刻まれています。ですから、そういった点にしっかりと触れていけたらと考えています。
また、榎本健一さんという存在は、大正から昭和を駆け抜けた稀代のエンターテイナーです。そしてそのエノケンさんと、現代の舞台でトップエンターテイナーとしてご活躍されている市村正親さんの人生が重なるような、先ほど市村さんご自身も、「エノケンの中に入り込んでいきたい」とおっしゃっていましたが、本当にその二人の人生が重なっていくような演出ができたらと願っています」と本作の演出についての思いを話した。

その後は、市村正親、松雪泰子、本田響矢、豊原功補に向けて、囲み取材が実施された。これから稽古に向けて取り組もうと思っていることについて市村は「今は読み合わせに向けて、台本を一生懸命読み込んで、イメージを膨らませている段階です。手応えはかなりあります。内容がとても濃いので、稽古は相当大変になると思います。でも、そういう大変なものの方が、最終的にはお客様に喜んでいただけるものになりますから」と稽古への期待を述べた。

1番目の妻、2番目の妻の両方を演じることについて松雪は「役柄を交互に演じることになるので、しっかりと意識を持って臨みたいと思っています。稽古にも心して向かいたいです」と語り、旦那役となる市村についても「これからご一緒するのが本当に楽しみです」と期待をのぞかせた。

今年は昭和を描いたドラマで注目を浴びた本田。何か周囲の環境に変化はあったかという質問には「環境も大きく変わりましたし、この2025年の半分くらいは、昭和の世界に生きていて、ほぼ令和がない年になりそうだと思っています。何か昭和とご縁があるのかなと感じています」と語り、具体的にどのようなことがあったかという問いには「街中で声をかけていただく機会が増えました。それから、学生時代の友人のお母さんからサインを求められたのは驚きでした。昔からよくお会いしていた方だったので、とても新鮮な気持ちになりました」と自身の環境の変化について話した。

今回、座付き作家役を演じる豊原。どんなカンパニーになっていきそうかという質問には「とにかく賑やかになりそうです。今の時代ではなかなか味わえない、コンプライアンスなどを気にしていたら作れないような、昭和的な勢いのある内容になるんじゃないでしょうか」と語り、自身も、昭和どっぷりな感じでしょうか?という問いには「自分ではそんなつもりはないのですが……いや、まあ、昭和だと思います」とはにかんだ。

最後に主演の市村より「いよいよ10月に、シアタークリエでお客様のもとに『エノケン』をお届けいたします。 音楽劇ということで、エノケンが歌っていた楽曲もありますし、オリジナルの曲もあって、松雪さんも歌ってくださいます。
(本田さんに)(歌唱シーンは)あるのかな? 演出家に一曲くらい歌わせてくれと僕からも頼んでおこうか。
(豊原さんに)どうする? 台本にないのか。それならないということで(笑)
そういう素晴らしい作品を、皆さまにお届けしたいと思います。ぜひ、シアタークリエ、そして旅公演の方にもお芝居を観に来てください」とメッセージが語られ、囲み取材は終了した。

文・撮影:THEATER GIRL編集部
本田響矢インタビュー 『エノケン』 「新たな一面を見ていただけるように頑張りたい」
公演概要
音楽劇『エノケン』
2025年10月7日(火)~10月26日(日)
シアタークリエ
出演:
榎本健一:市村正親
花島喜世子・榎本よしゑ:松雪泰子
榎本鍈一・田島太一(劇団員):本田響矢
小松利昌
斉藤 淳
三上市朗
菊谷榮:豊原功補
作:又吉直樹
演出:シライケイタ
音楽監督:和田俊輔
美術:伊藤雅子
照明:佐々木真喜子
音響:戸田雄樹
衣裳:中原幸子
ヘアメイク:宮内宏明
稽古ピアノ:久田菜美
演出助手 :斎藤 歩
舞台監督 :幸光順平/鈴木拓
題材監修:原 健太郎
製作:ホリプロ/東宝
チケット:
全席指定:12,800円(税込)
【ツアー】
<大阪公演>
2025年11月1日(土)~11月9日(日)
COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
<佐賀公演>
2025年11月15日(土)~16日(日)
鳥栖市民文化会館 大ホール
<愛知公演>
2025年11月22日(土)~24日(月祝)
名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)
<川越公演>
2025年11月28日(金)~30日(日)
ウェスタ川越 大ホール
