森崎ウィンインタビュー　ミュージカル『ジョン＆ジェン』「怖さもあるけど、脚本を信じて飛び込んでいく」（前編）

2023.12.04

INTERVIEW

1985年から現代のアメリカを舞台に、“姉と弟”“母と息子”というふたつの家族に焦点を当てて自分の人生と向き合っていくことを描き出すミュージカル『ジョン＆ジェン』。

音楽は『アダムス・ファミリー』『ビッグ・フィッシュ』のアンドリュー・リッパが手掛け、1995年にオフ・ブロードウェイで初めて上演されました。

日本初演となる今回、ジョン役に森崎ウィンさんと田代万里生さん、ジェン役には新妻聖子さんと濱田めぐみさんという実力派を起用し、演出・翻訳・訳詞・ムーブメントは音楽座および劇団四季での活動を経て、ロンドンとニューヨークで研修を積み、国際的に活躍している市川洋二郎氏が手掛けます。

1幕では姉ジェンと弟ジョンの幼少期から青年期を描き、2幕では母親となったジェンと息子ジョンの関係性を森崎ウィンさん・田代万里生さんと新妻聖子さん・濱田めぐみさんがWキャストで演じます。

THEATER GIRLは、ジョン役の森崎ウィンさんにインタビュー。前編では、本作のオファーを受けたときの気持ちや演じる役柄について、Ｗキャストの田代万里生さんの印象などをうかがいました。

インタビュー後編はこちら

たった二人、頼れるもののない舞台上。緊張もあるけど刺激的な状況を楽しみたい

――最初に本作のオファーを受けられた際の気持ちを伺えますか？

僕にとって、この作品は５作品目のミュージカルになります。今までのミュージカルは規模の大きい作品が多かったのですが、二人ミュージカルというものに興味がわいてきたタイミングでのオファーだったので、純粋にうれしかったですね。

この作品について全然知らなかったのですが、初めて台本を読んだ時は僕が演じるジョンが5歳のシーンもあると知り「え？　子役がいるの？」と一瞬思ってしまうくらい幅の広い年齢を演じることに驚きました。それと同時に非常に「演じがいがあるな」とワクワクもしました。

――具体的には何歳から何歳までのジョンを演じるのでしょう？

一幕は“ジェンの弟”のジョン、二幕は“ジェンの息子”のジョンというように全く違う人物になりますが、5歳から18歳までを演じることになります。

――かなり振り幅がある役で大変かと思います。

いくら頭で考えても実際に体を動かさないと分からないことだらけなので（笑）。年齢的な部分での演じ分けは、例えば自分の声のレンジや音色の幅は経験と共に出来ることも増えてきているはずなので、そこを駆使しつつ……。例えば過去の作品で演じた役を思い出しながら「あの時に出していた“あの音（＝声）”でちょっとやってみよう」というふうに稽古で探っていくことになるでしょうね。

役者として試されている状況であると同時に成長できるチャンスをいただけたとも感じています。演者が二人しかいない上に音楽も生演奏という誤魔化しの効かない状態で観客の前に立つのは正直めちゃめちゃ怖い……でも多分、僕自身そういう刺激が好きなので、そんな状況すらも楽しみたいです。

Wキャストの田代万里生さんから、学べるところは学んでいきたい

――Wキャストで同じくジョンを演じる田代万里生さんの印象は？

田代さんとはまだ作品で共演した経験はなくて、一度ミュージカルライブでお会いしたことがあるくらいなんです。その時も一緒に歌う曲がなくて残念に思っていました。以前からお名前は知っていましたし、経歴も長く経験も豊富な方なので、本作の稽古場で彼から学べるところは学んでいきたいですね。あと田代さんは違う作品で幅広い役柄をご経験されているそうなので、役を演じるうえでヒントになるお話を聞けたらいいなと思っています。

――Wキャストは、演者によっては話し合いながら役を一緒に作り上げていきたいタイプの方と、相手の芝居は見ないで「僕は僕で」というタイプとに別れるという話も聞くのですが、森崎さんはどうでしょう？

演出上の決まりごとはもちろん共有しなければなりませんが、演劇とは本来“役者自身の持つものがすべて”です。この作品に関しては「一緒に作る」というよりは、それぞれの良さが出る作り方をしていくのがベストなのではと思っています。あえて田代さんの稽古を見ないのも一つの選択なのかもしれませんが、これも実際に始まってみないと分からないことですね。

Wキャストは観る人によって好みが分かれるところですし、「どちらが正解」ということもない。お客様が両方を見て「なるほど、こういうとらえ方も“あり”だな」という楽しみ方が出来るのはいいことだと思いますが……。ただ、個人的にWキャストはあまり好きではないんですよ。

――それはなぜでしょう？

レポート記事とかでキャストを比べるような書かれ方をすることが時々あるのですが、それは好きじゃないです（苦笑）。何回かWキャストを経験した中で精神的に強くなってきたのか、最近は気にならなくなってきましたけどね。

逆に自分以外の誰かがWキャストで演じていらっしゃるのを見るのは大好き。昨年夏に出演させていただいたミュージカル『ピピン』では、バーサ役を中尾ミエさんと前田美波里さんがWキャストで演じられていて、僕は間近でお二人が演じる魅力的なバーサを見ながら、すごく楽しくお芝居をさせていただきました。

――ちなみに、森崎さんご自身は本作でジョンを演じるうえで「自分らしさ」を、どんなところで出していきたいと考えていますか？

自分ではよく分からないけど、演出の市川洋二郎さんがすごく「ピュアなウィンくん」って言ってくれるんです。今日はそれをイメージして白シャツを着て来ました（笑）。まだそんなにミュージカルを経験していない僕だからこそ出せるものがあると思うし、市川さんにも「ウィンくんは、そのままでいけるんじゃないかと思う」とおっしゃっていただいたので、その言葉を信じて“そのままの僕”でいこうと思っています（笑）。

田代さん、新妻さん、浜田さんというベテランの方々との共演になりますが、無理に背伸びして肩を並べようとせず、演出と脚本を信じて素直に作品の中に飛び込んでいくので、そこに“僕らしさ”を感じていただけたらいいなと思っています。

――楽曲の魅力についてもぜひ教えてください。

楽曲がかなり難しくて、いわゆる「このミュージカルと言えばこの曲だよね！」という分かりやすい曲ではないんです。もちろんキャッチーなポイントもありますが、メロディーラインがセリフに近いように作られている“歌セリフ”“歌芝居”といいますか……うまく言葉にできないけど、作品全体を通じて流れが出来ていて、「ミュージカルである意味ってこういうことなのかな？」と感じるような曲なんですね。

本当に歌の上手い人じゃないと表現できないような曲だと思うので、今までの感覚とは違って計算的に稽古をしていかないとコレはちょっとむずかしいのかも。でもそこがクリアになった時に、この楽曲の真の魅力が自分の中に落とし込まれるような気がします。とりあえず現段階で僕がやらなければいけないのは曲をよく聴いて耳慣れしておくこと。そうすることでスムーズに作品の世界に入ることが出来るんじゃないかと考えています。