牧島 輝インタビュー 『明日を落としても』「人の生きる姿からエネルギーを受け取ってほしい」(後編)
2025年10月11日(土)より兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、10月22日(水)より東京・EX THEATER ROPPONGIにて、舞台『明日を落としても』が上演されます。
『明日を落としても』は、六甲山系の麓に佇む創業80年の老舗旅館を舞台に、阪神・淡路大震災から30年となる2025年と、震災発生当時の1995年を巡る、神戸「あの時」の物語。主人公の桐野雄介は、自身が営む旅館でアルバイトとして働く神崎ひかるに昔の自分を重ね、ボクシングを教え始めます。そこに震災が起こり……。当たり前のように思えている生きることの大切さ、明日を迎えることの奇蹟を描いた作品です。
演出の栗山民也氏が、阪神・淡路大震災をテーマに、演劇界注目の脚本家、ピンク地底人3号氏が立ち上げた物語を、兵庫県立芸術文化センターのプロデュース作品として創り上げます。
出演は、ドラマ、映画、舞台から、バラエティ番組まで幅広く活躍する佐藤隆太さん、多くの舞台で存在感を示す牧島 輝さんのほか、川島海荷さん、酒向 芳さん、尾上寛之さん、春海四方さん、田畑智子さん、富田靖子さんと、個性豊かな実力派俳優が揃いました。
THEATER GIRLは、牧島 輝さんにインタビュー。後編では、30歳を迎えての演技への取り組み方の変化や作品に出演する際に大切にしていること、ご自身の「声」について感じることなど、たっぷりとお聞きしました。
今では舞台に立たない自分を想像できないほど
――牧島さんは、8月に30歳を迎えられましたが、演技への取り組み方や考え方に変化はありましたか?
もともとは漠然と「演じることが好き」くらいの気持ちでこの仕事を始めたのですが、続けていくうちに舞台そのものが大好きになりました。今では舞台に立たない自分を想像できないほどです。20代の頃は、とにかく目の前の仕事をがむしゃらに頑張っていただけだったように思いますが、気づけば「自分が本当に好きなもの」になっていたことがうれしいなと、この10年くらいを振り返って思いました。
すごく不安定な仕事ではあるので、「自分は俳優をどれだけ続けられるのだろう」と考えることもありました。でも気がつけば30歳になっていて、今こうして素晴らしい作品に関わらせていただけるのは本当にありがたいことだと実感しています。
――20代はがむしゃらに取り組んできて、気づいたら舞台が大切な場所になっていたのですね。
そうですね。自然と好きになっていきました。
――30代になると、役の幅も広がりそうですね。
そう思います。今回のように実年齢より若い役を演じることもあるでしょうし、だんだん父親のような役をいただくこともあるのかなと。だからこそ、いい年の取り方をしたいですね。
とはいえ「学生服がいつまで着られるだろう」と考える瞬間もあります(笑)。着られるうちは着たいですし、今回の役でも「17歳に見えない」と言われたら、ちょっと悲しい気持ちになるかもしれません(苦笑)。でもそれもまた演劇の面白さだと思うので、これからも幅を広げながら挑戦していきたいです。

いただいた作品に真摯に取り組むことだけを大事にしてきた
――今回はストレートプレイへのご出演になります。牧島さんは、ミュージカルなどの舞台作品から映像作品まで幅広く出演されている印象がありますが、作品に出演する際に大切にしていることはありますか?
幅広い作品に出ていると感じていただけるのはうれしいです。ただ、実際には様々な役をもらえるように、いろいろな表現をしようと意識してきたわけではなくて。その都度いただいた作品に真摯に取り組むことだけを大事にしてきました。
自分が出演する以上は、胸を張って「良い作品です」「面白い作品です」と言えるよう努力したいと思っています。今回の台本を初めて読んだときも「すごく好きだな」と感じました。震災をテーマにしていますが、それだけではなく、今を生きる人間たちのドラマとして多くの方に観てもらいたいと思っています。
――ストレートプレイならではの魅力や、演じていて楽しい部分はありますか?
今回の作品は、ショーアップされたものとは違い、より日常に近いものになると思います。その分、観客の心にストレートに届く部分が多いと思いますし、普段の自分自身に近い姿を重ねやすい。観てくださる方にとっても日常と地続きの世界に共感できる場面がたくさんあるのではないでしょうか。
――等身大の姿で挑めるイメージでしょうか。
そうですね。無理にかっこよく見せたり派手に演じたりするよりも、自然な目線を大切にできる作品だと感じています。台本を初めて読んだときの気持ちや、栗山さんの演出を初めて受けたときの新鮮な印象を忘れずに、そこから生まれるリアルさを大事にしながら取り組んでいきたいです。
――これまでさまざまな役を演じられていますが、今後挑戦してみたい役柄やジャンル、作品はありますか?
今回の現代劇はもちろんですが、古典にも挑戦してみたいです。これまで実年齢よりも若い役をいただくことが多かったので、今の自分と等身大の年齢に近い役にも興味があります。
今回の役もそうですが、自分の欲望や思いをまっすぐ言葉にする人物を演じることが多いように思っていて。僕自身は少しひねくれた性格だと思っていたのですが、演じてみると意外と素直な人間なのかもしれないと気づかされることもありました。
――なるほど。では、これまでとまったく違うような役柄にも挑戦してみたいですか?
思いっきり意地悪な役もやってみたいですし、いろいろな役に挑戦し続けていきたいですね。

当時はあまり自分の声が好きではなかった
――牧島さんは、「声」がとても印象的だと感じます。ご自身で声について大切にされていることや、ケアなど取り組んでいることはありますか?
全くないですね。親に感謝しています(笑)。昔は自分の地声が低い方で、中学生くらいの頃は見た目が中性的だったので、よく「お嬢ちゃん」と間違えられたんです。でも話すと声が低いので驚かれたり、からかわれたりすることもありました(笑)。
声が低くていじられることもあって、普通に「はい」と返事しただけで、「わざと低い声を出さなくてもいいよ」なんて言われることもあって。そんなつもりはなかったのですが、笑われることもあり、当時はあまり自分の声が好きではありませんでした。
――そこから、今は受け止め方が変わってきたのでしょうか。
年齢を重ねるうちに、声と自分の見た目や雰囲気が馴染んできたように感じます。
ただ、居酒屋のようにざわざわした場所だと、自分の声が空間に届かないのが分かるんです。声の周波数が通りにくいんでしょうね(笑)。そういう時は本当にしんどいです。ツーンと通る声ではなく、ふわっとした響きなので、どうしても届かないことがあって。そういう場面では諦めてしまうことも多いですね。
――舞台の上では、とても通りますよね。
ありがたいことに、舞台では「声が良い」と褒めていただくこともあり、すごくうれしいです。

――先ほど「ご飯を食べることが生きがい」とおっしゃっていましたが、最近のマイブームや気分転換にされていることはありますか?
僕は料理が趣味で、普段からよく作るんです。ただ今はダイエット中なので、大好きな揚げ物は控えています。その代わりに、脂質や糖質を抑えた料理を工夫して作ることにハマっていますね。美味しくできたときは「今日はなんて良い一日だったんだろう」と思えるくらい幸せです。
――レシピを参考にされるのですか?
見ることもありますが、基本的には自分で考えて作ることの方が多いです。普通のレシピを参考にして、それをどうアレンジすればダイエット食になるかを工夫するのが楽しくて。食材を置き換えたり、調理工程を変えたりして試しています。
――最近「これはうまくできた」と思った料理はありますか?
酸辣湯(サンラータン)ですね。油を一切使わずに作ったのですが、すごく美味しくできました。唐辛子を入れているので代謝も上がるし、体も温まる。簡単なのに満足度が高くて気に入っています。
――では最後に、本作を楽しみにしている皆様へメッセージをお願いします。
震災という大きなテーマはもちろんありますが、それだけにとどまらず、一人ひとりの生き方や前へ進もうとする力強さを描いた作品だと思っています。観に来てくださる方には、暗い気持ちで臨むのではなく、人の生きる姿からエネルギーを受け取ってほしいです。明日から頑張ろうと思えるような力を持ち帰っていただける舞台にしたいですし、今少し落ち込んでいる方にもぜひご覧いただけたらうれしいです。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:髙橋 耀太
公演概要
『明日を落としても』
作:ピンク地底人3号
演出:栗山民也
出演:佐藤隆太、牧島 輝、川島海荷、酒向 芳、尾上寛之、春海四方
田畑智子、富田靖子
【兵庫公演】
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
日程:2025年10月11日(土)~16日(木)
チケット料金:一般 8,500円、U25 2,500円(全席指定/税込)
お問合せ:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255(10:00~17:00 月曜休、※祝日の場合は翌日)
主催:兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
【東京公演】
会場:東京・EX THEATER ROPPONGI
日程:2025年10月22日(水)~27日(月)
お問合せ:サンライズプロモーション 0570-00-3337(平日12:00~15:00)
主催:サンライズプロモーション
公式サイト:https://asuoto2025.com
X(旧Twitter):@asuoto2025
制作:サンライズプロモーション
企画製作:兵庫県立芸術文化センター
