林翔太インタビュー『わが歌ブギウギ－笠置シヅ子物語－』「この時代ならではの空気を共有できたら」（後編）

2025.12.26

INTERVIEW

2026年1月2日(金)より東京・三越劇場、1月24日(土)より京都・南座にて『わが歌ブギウギ－笠置シヅ子物語－』が上演されます。

令和での初上演では、劇団新派の演出家・齋藤雅文氏の補綴・演出により作品をさらに練り上げ、『わが歌ブギウギ－笠置シヅ子物語－』と題して届けられます。笠置シヅ子を演じるのはキムラ緑子さん。様々な舞台や映像作品などで圧倒的な存在感を見せ、ミュージカルやライブにも出演経験があるキムラ緑子さんが“ブギの女王”に挑みます。

笠置シヅ子の数々の出会いや試練を乗り越えるドラマチックな人生を、「東京ブギウギ」をはじめ「ラッパと娘」「ジャングル・ブギー」など珠玉の名曲を織り交ぜて上演。

そして、早くからシヅ子の才能を見出し、シヅ子の生涯の友となった作曲家・服部良一役を松村雄基さん、周囲に反対されながらも愛をつらぬいた最愛の人・花森英介役を林翔太さんが演じます。

THEATER GIRLは、林翔太さんにインタビュー。後編では、林さんご自身が「エンターテインメントの力」を強く感じた瞬間や「この経験があったから成長できた」と感じた出来事などについてお聞きしました。

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他ではできない経験をさせてもらっている

――現在、様々な作品でご活躍されていらっしゃいますが、俳優業について俯瞰してどのように感じていらっしゃいますか？

改めて考えると、他ではできない経験をさせてもらっているお仕事だなと思います。他人の人生を生きることなんて、普通はなかなかできませんし、年代も国も違う役を演じることができる。その意味では、純粋に楽しい仕事だと感じています。

以前、大竹しのぶさんがおっしゃっていた言葉が、今でも印象に残っていて。「私たちって偉いよね」とお話しされていて、舞台では毎日同じ時間に、同じ言葉を発して、同じ感情になる。それを繰り返しているだけでもすごいことだよね、と。

確かに、この仕事をしていなければ、毎日同じ時間に同じ感情で、同じ言葉を発するなんて、まずありえないことです。その話を聞いてから、俳優という仕事は本当にとんでもないことをやらせてもらっているんだなと実感するようになりましたし、改めてありがたい仕事だと感じるようになりました。

――本作はショービジネスの世界をテーマにしていますが、林さんご自身が「エンターテインメントの力」を強く感じた瞬間はありますか？

僕自身も観劇する機会が多いので、作品からさまざまな刺激を受けることが多いです。迷っている時に作品を観ると、自然と答えをもらえたような気持ちになることもありますし、「もう一度頑張ろう」と前向きな気持ちになれることもあります。

一度は諦めかけていたことに対して、「やっぱり挑戦してみよう」と背中を押してもらえるような力もありますし、観ている人みんなが元気になれる。自分がその時に求めているものに、自然と出会える感覚もあるんですよね。だからこそ、エンターテインメントはやっぱり必要なものだと、強く思います。

すべてが今の自分につながっていると感じる

――物語の中では、困難を乗り越えていく姿も描かれますが、林さんご自身が「この経験があったから成長できた」と感じた出来事はありますか？

先ほどお名前を挙げた鈴木裕美さんと、石丸さち子さんという、僕にとって“二大巨頭”のような存在の、とても厳しくて熱量の高い演出家の方にご指導いただいた経験ですね。

最初にご一緒したのは石丸さんだったのですが、その時は本当にボコボコにされました（笑）。主演だったこともあり、台詞量もとんでもなく多くて、一度も舞台袖にはけられないような作品だったんです。さらに、一幕と二幕の間の休憩も、誰よりも早く切り上げて、お客様が休憩している間から舞台に立ち、すでに芝居が始まっている、というような演出もあって。

稽古中は正直かなりきつかったですが、その経験があったからこそ、芝居の本質のようなものを教えてもらえたと思っています。裕美さんからも多くのことを学びましたし、これまで関わってきた演出家の方々の指導のおかげで、自分の引き出しは確実に増えました。

――お二人から指導いただいた経験がとても糧になったのですね。

そうですね。ただ、僕は、稽古場がすごく苦手で（苦笑）。スタッフの皆さんが前で見ていて、共演者の方々も出番がない時は客席側で見ている。まるでオーディションを受けているような感覚なんです。でも、考えてみると、まさにオーディションなんだなとも思います。

でも、最近は少しずつ楽しめるようになってきて。緑子さんと初めて共演した時も、段田安則さんをはじめ、大先輩方ばかりで、芝居もうまくできず、正直「嫌だな」と思っていたんです。でも、そうした厳しい現場を乗り越えてきたからこそ、「何が来ても大丈夫」だと思えるようになったのだと思います。

――稽古でボコボコにされたとのことですが、どのように気持ちを切り替えていたのでしょうか。

僕は、意外と引きずらないタイプなんです。稽古場を出たらケロッとしていて、次の日に稽古場へ向かう道では、「今日は逆にボコボコにしてやるぞ」くらいの気持ちで行っていました（笑）。なので、乗り越えたというよりも、その日に言われたことを一度整理して、あとは寝るだけ、という感覚でしたね。

――共演者の方との関係性も、支えになったのではないでしょうか。

そうですね。先輩方がたくさん出演されていて、自分に時間がかかることで待たせてしまうのがつらいなと思うこともありましたが、「主演なんだから、気にしないでいくらでも時間を使っていい」と言ってもらえたことがあって、その一言で本当に気持ちが楽になりました。

相手がどう思っているかは、話してみないと分からないですし、もしかしたら「長いな」と感じていた方もいたかもしれません。それでも、ああやって言葉をかけてもらえるだけでとても救われて。当時は稽古場が苦手でしたが、その経験も含めて、すべてが今の自分につながっていると感じています。

チャンスが来た時に、きちんと掴める自分でいたい

――先ほど、エンターテインメントからさまざまな刺激を受けているというお話がありましたが、俳優として同じフィールドで活躍されている原嘉孝さんや寺西拓人さんらが、音楽活動など別のフィールドでも活躍されている姿から刺激を受けることはありますか？

テラと原ちゃんに関しては、俳優班のような形で活動していましたが、あのタイミングで新しい挑戦をして、僕自身も「絶対に入るだろうな」という確信があったので、名前が呼ばれた時は本当にうれしかったですね。自分の夢を叶えて、努力し続けている彼らの姿を見ると、純粋に刺激をもらえます。

「いいな」と思うというよりは、「自分もやりたいことをどんどんやっていこう」という前向きな刺激です。きっと誰かが見てくれていると思いますし、だからこそチャンスが来た時にそれを逃さず、きちんと掴める自分でいたいと思っています。

――先輩方から掛けられた言葉で、今でも印象に残っていることはありますか？

グループを抜けるかどうか悩んでいた時期は、先輩に相談することも多かったですね。その中でも特に印象に残っているのが、松本潤くんから言われた「もうやりきったと思えるなら、いいんじゃない？」という言葉でした。僕も中途半端な形で終わらせるのは嫌だなと思いましたし、何事も自分が納得できるところまでやりたいと、強く感じました。

芝居で悩んだ時には、大野智くんが「テクニックでやる人もいるけど、最後は気持ちだから」と言ってくださって、何度か舞台も観に来てくれたりもしました。「翔太なら大丈夫だよ」と声をかけてもらえたのは、本当に心強かったですね。

――今後の抱負についても聞かせていただけますでしょうか。

芝居一本でやり始めてから、もう何年かが経ちました。今年は誕生日にイベントを開催させていただいて、久しぶりにファンの皆さんの前で歌う機会もありましたし、そういった経験を通して、これからは芝居だけでなく、歌などにも積極的に挑戦していきたいと思っています。

――では最後に、本作を楽しみにしている皆様へメッセージをお願いします。

きっと多くの方が知っている物語で、知っている曲もたくさんあると思いますし、幅広い年代の方に観ていただきたいです。

僕自身はこの時代を生きていたわけではないので、想像を膨らませながら調べて役を作っていますが、当時の空気感を劇場で皆さんと共有できたらと思っています。

たくさんのパワーをもらえる作品になると思いますし、僕自身もこの作品を通して、多くのエネルギーを受け取るはずです。一緒に楽しい時間や、この時代ならではの空気を共有できたらうれしいです。

取材・文：THEATER GIRL編集部
撮影：遥南碧

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