小池徹平インタビュー ミュージカル『ある男』「ゼロから作品をつくり上げていくワクワク感は格別」(前編)
2025年8月4日(月)より東京建物 Brillia HALLにて、ミュージカル『ある男』が上演されます。
人間の存在の根源と、この世界の真実を描き、読売文学賞を受賞した長編小説平野啓一郎著『ある男』。
映画化もされた名作が、ブロードウェイでも数々の新作を生み出し高い評価を受ける、ジェイソン・ハウランド氏の音楽、人間の心を深く表現することで定評のある瀬戸山美咲氏による脚本・演出、日本ミュージカル界に欠かすことのできない高橋知伽江氏の歌詞で世界初演されます。
キャストには、W主演の浦井健治さんと小池徹平さんをはじめ、濱田めぐみさん、ソニンさん、上原理生さん、上川一哉さん、知念里奈さん、鹿賀丈史さんなど、オリジナルキャストにふさわしい、豪華キャストが揃いました。
THEATER GIRLは、ある男・Xを演じる小池徹平さんにインタビュー。前編では、本作で演じる“ある男=X”の印象や『デスノート THE MUSICAL』以来8年ぶりとなる浦井健治さんとの共演について、ジェイソン・ハウランドさんの音楽の魅力など、たっぷりとうかがいました。
Xと城戸との関係性がより印象的になっている
――本作で演じられる“ある男=X”についての印象や、現時点での役作りについてお聞かせください。(取材は稽古開始直後)
台本が大きくガラッと変わったわけではないのですが、ミュージカル化にあたって、構成や舞台設定が少し変更されています。もちろん原作がベースになっているので、根本的には同じですが、原作とは違った形でまとめられている印象を受けました。
ある男・Xという人物に関して言うと、(浦井健治演じる)城戸章良との関係性の描かれ方が変わってきていると感じました。特に城戸がXとはどんな人物なのかを追っていく過程で、Xの登場の仕方や関係性に、空想や別の次元のような要素が加わり、より印象的になっていると思います。
――城戸にとっての“X”という存在の捉え方が、より複雑になっているということでしょうか。
城戸にとっての“X”は、実際の人物としての存在と、彼の創造の中にある存在、その両方が描かれているように感じます。そこにある種の切り分けがあって、演じる上でもその違いを意識する必要が出てきました。原作を元にしたXの演じ方はもちろんあるのですが、城戸の想像上のXとしても存在しなければならないという点が、今作の面白さになっていると感じています。
――ミュージカルならではの演出や、舞台上でお二人が交差するような場面も見どころになるのでしょうか。
今回、ミュージカルにするので楽曲が生まれていて、城戸とXの関わりがより強調されていると感じています。本来はもっと城戸とのナンバーは少ない予定だったのですが、制作発表でも披露させていただいた「暗闇の中へ」という楽曲をはじめ、二人で歌うナンバーが増えているんです。
最初は、城戸の歌うナンバーにXが登場するようなイメージだったのですが、そこからさらに城戸とのやり取りが濃くなり、楽曲としてもより立体的になりました。城戸とXの心がどこかでシンクロするような、似た部分に惹かれていくような、そんな印象を受ける楽曲が増えたと思います。
そういった意味でも、ミュージカルならではの表現が広がっていて、観る方にとっても楽しみ方の幅が広がったのではないかと感じています。

8年ぶりの共演は「久しぶりな感じがしない」
――『デスノート THE MUSICAL』のときも初演に参加されていましたが、今回もまた新作ミュージカルの初演。そして浦井さんとの共演ということで、約8年ぶりの再タッグになりますね。まずは、浦井さんと再びご一緒されることへのご感想と、ゼロから作品を立ち上げていくことへの意気込みをお聞かせください。
健ちゃん(浦井健治さん)とは『デスノート THE MUSICAL』以来の8年ぶりの共演になるのですが、不思議とそんなに久しぶりな感じがしないんです。
というのも、共通の知人がいてその方から健ちゃんの近況を聞いていて、自然と情報がアップデートされていたんです。「今こんな現場で頑張っているみたいだよ」とか「健ちゃん本当にずっと忙しいね」とか、毎回そんな話をしていたので、なんとなく身近な存在であり続けていた感覚がありました。
逆に健ちゃんも、僕のことを聞いてくれていたみたいで、今回『ある男』の取材などで久々に顔を合わせたときも、「うわ、久しぶり!」というよりは、「健ちゃんまたよろしくね」みたいな、自然に会話が始まった感じでした。
ただ、お芝居でちゃんとご一緒するのは本当に久しぶりですし、稽古もまだ始まったばかりで、同じシーンに入るのはこれからです(取材時)。でも本読みが始まって、健ちゃんのお芝居を間近で見たときに、懐かしさもありつつ、まったく違う世界観と役どころに新鮮さを感じました。
――『デスノート THE MUSICAL』とはまったく異なる作品ですものね。
『デスノート THE MUSICAL』のときは完全に対立関係でしたが、今回は僕が演じる“X”という人物を、彼(浦井さん演じる城戸)が自分自身と向き合いながら、探っていくという関係性なんです。なので、芝居の構造や役の距離感もまったく異なります。
でも、不思議と少しリンクする部分もあって。「なぜここで懐かしさを感じるんだろう?」という場面があったりもします。たとえばデュエットのシーンなどは、以前『デスノート THE MUSICAL』でLと夜神 月が掛け合うように歌ったことを思い出させるような雰囲気もあって、決してオマージュではないのですが、どこか通じるものを感じたりします。
だからこそ、今回は共演するからには、まったく違う構図をしっかり見せていきたいという気持ちが強いです。似ているからこそ、「やっぱり違うな」と思っていただきたいですね。

お互いに身を預けられる安心感がある
――キャストの顔ぶれを拝見すると、音楽のジェイソン・ハウランドさんも含めて、『デスノート THE MUSICAL』でご一緒された鹿賀丈史さんや濱田めぐみさんのお名前もありますが、小池さんとしても、懐かしさや嬉しさがあったのではないでしょうか。信頼関係があるからこそ、深い芝居に挑めるという面もあるのでは?
まさにそうだと思います。芝居以外の部分で親しい関係を築けているというのは、僕にとってはとてもありがたいことです。信頼できる相手だからこそ、芝居の中で思いきって飛び込める。お互いに身を預けられる安心感があるので、役に集中することができます。
特に今回は、ミュージカル界で第一線を走っている方々が集まっていて、本当に贅沢な環境だと感じています。確かに、『デスノート THE MUSICAL』を思い出すようなメンバー構成になっているのも事実ですし、他にも過去に共演したことのある方が多くて、不思議な感覚になります。顔合わせのときには、ちょっとした“同窓会”のような気分にもなりました。
でも、今回の作品はとても重たいテーマを扱っていますし、Xという役もかなり心に負担のかかる人物なんです。なので、役のイメージに引っ張られそうになる中で、このキャスト陣の存在に救われている部分があると思います。
――精神的にも支え合える関係なんですね。
はい。この作品には、原作そのものが持つパワーもありますが、演じるXという人物は多くのものを抱えていて、演じながらも心にグッと来る瞬間がたくさんあるので。だからこそ、安心できるメンバーがいるというのは本当に心強いです。今は、そんな支えの中で、この作品と向き合っているところです。

――今回の『ある男』は、日本発のオリジナルミュージカルということで、小説を原作としていてミュージカルにするには一見難しそうな題材にも思えます。オファーを受けられたときは、どのような形だったのでしょうか? たとえば、すでに台本があったのか、作品の方向性が示されていたのでしょうか。
いえ、台本がある状態ではありませんでした。ただ、最初にお話をいただいたとき、プロデューサーさんがマネージャーに直接お声がけくださったんです。その話をマネージャーから聞いたのですが、その時点で「『ある男』をミュージカルにしたい」という熱量がとにかくものすごくて。
マネージャーも「そのままの熱を伝えたい」と言ってくれて、その気持ちごと受け取ったのを今でも鮮明に覚えています。2年ほど前のことでしたかね。
本作を手掛けているのは、『デスノート THE MUSICAL』の制作チームでもあり、あのときも驚きと衝撃を与える作品を作り上げた方々です。そんなチームが、また今回『ある男』という意外な題材を選び、同じように強い熱意で作品づくりに挑もうとしているのが伝わってきて、「これは絶対に面白いものになる」と、直感で感じました。
脚本もまだなくて、「こんな感じの流れになります」といったおおまかな説明だけで、楽曲も当然ない状態でした。でも、そういうゼロからの立ち上げに自分を必要としてくれたことがうれしくて、「ぜひやらせてください」と即答しました。スケジュールをなんとか調整してでも参加したい、そんな気持ちでしたね。
――その後、原作や映画をご覧になったそうですね。そのときの印象はいかがでしたか?
原作と映画も拝見しました。そのときに率直に思ったのは、「これを、本当にミュージカルにするの?」という驚きでした。でも、同時に「これをミュージカルにしたら、きっと今までにない作品になる」とも思ったんです。
いわゆる“ハッピーなミュージカル”でもなければ、ただの“悲劇”というわけでもないし、恋愛ミュージカルとも違う。全く新しいジャンルに挑戦しようとしているんだなという印象を受けました。さすがの着眼点だなと思いましたね。
いま実際に台本も手元にあり、稽古も始まりつつありますが、これがオリジナルとして完成したとき、日本発の新たなミュージカルとして、新ジャンルを切り拓くような作品になるのではと感じています。
――再演や海外展開など、広がりも見据えた構想を感じたと。
はい。僕が出演した作品はありがたいことに再演されることが多くて、最近はそういう“再演ブーム”のような流れもあると思います。今回の『ある男』も、完成度次第では日本だけにとどまらず、海外へ展開していくことも視野に入れているのではないかなと感じています。
そうした野心的な意気込みも含めて、ものすごく挑戦的で、かつ魅力的なプロジェクトだと思いました。

ポジティブに捉えて見守ってくださっているのがうれしい
――原作者の平野啓一郎さんとは、これまでどのようなタイミングで、どんなお話をされたのでしょうか?
お会いしたのは、作品の製作発表の時が初めてでした。ご挨拶をさせていただいた程度で、そこまで深いお話はできていないのですが、会見の場で「とても期待しています」「楽しみにしています」とおっしゃってくださって。
正直、ミュージカル化に対して原作者の方がどう受け止めていらっしゃるのか、少し不安な部分もあったんです。でも、そうやってポジティブに捉えて見守ってくださっているのがすごくありがたかったですし、とてもうれしかったです。
やっぱり平野さんにとっても『ある男』という作品は、特別な思い入れのある大切なものだと思います。だからこそ、原作のファンの方々にも失礼のないように、僕たちキャストも、全力でこの作品に向き合っていこうと、あらためて感じました。
――役作りについても、原作や映画を意識されていらっしゃるのでしょうか。それとも、まったく新しい解釈で臨まれていますか?
僕はどちらかというと「まったく新しいもの」として捉えている感覚が強いです。
もちろん原作や映画の内容はしっかり把握していますし、ある程度ベースとして落とし込んではいます。ただ、今回のミュージカル版では、時系列の構成や展開がアレンジされている部分も多くて、そのまま同じように表現してしまうと、むしろズレが生じてしまうんじゃないかと感じるんです。
原作として正解なアプローチと、音楽を含めたミュージカルとして正解な表現は、やはり違ってくるところがありますので、今は“ミュージカル版の『ある男』”としての新しい物語を立ち上げていくイメージでいます。
なので、演じるXという人物も、原作や映画とはまた異なる、新たな形で役作りをしているという感覚です。
――お二人で歌を作り上げていく過程は、これからさらに深まっていくのだと思いますが、現時点で大切にされていることはありますか?
実際のシーンの状況やセット、立ち位置などによっても変わってくる部分は多いと思います。特に製作発表の段階では、まだ自分の中でも明確にイメージできていなかったところがありました。あのときは、歌詞に込められた想いをただ真っ直ぐぶつけ合うという形だったと思います。
ただ、今後はその場面の前後の流れや、Xという人物が置かれている状況などを踏まえたうえでの表現に変わっていくはずです。お披露目のときとは、歌い方や感情の乗せ方もきっと違ってくると思います。
それに伴って、細かい部分――たとえば歌うパートや歌詞の一部なども、稽古を通して少しずつ調整が入る可能性はあると思います。そういった意味では、観てくださる方にも変化を楽しみにしていただけたらうれしいです。

ジェイソンさんの楽曲は「キャラクターの心情に寄り添ってくれている」
――先ほど、浦井さんとの楽曲が増えたというお話もありましたが、披露された楽曲以外にも、さまざまな雰囲気の楽曲があると思います。ジェイソン・ハウランドさんの音楽については、どのように感じていらっしゃいますか?
ジェイソンさんの楽曲は、とにかく幅が広いなという印象を強く受けました。すごくシンプルな感想で恐縮ですが、曲ごとに雰囲気がガラッと変わって、それぞれのキャラクターの心情にしっかり寄り添ってくれているような印象があります。
特に印象的なのは、曲の入り方ですね。登場人物たちの感情の動きにリンクして、自然に音楽が始まっていくというか。やっぱりミュージカルでは、歌が始まるきっかけって感情が動く瞬間にあると思うんです。ただ感情が高ぶったから歌う、というのではなくて、その人の内面としっかり結びついた理由があって歌になる。そのあたりがすごく丁寧に作られていると感じます。
今回は「アイデンティティ」も大きなテーマのひとつになっていて、「自分とは何者か」とか「自分はどう生きたいのか」といった問いが物語を通して浮かび上がってきます。表面的には完璧に見えても、実際にはそうではなかったり、完璧な自分を演じなければならないというプレッシャーや苦悩があったり……そういった葛藤が歌の中で描かれることも多いです。
だからこそ、歌では本音や心の叫びのようなものが強く出てくるんです。セリフでは淡々としていても、歌に入った瞬間にその人の本心があらわになる。そういう対比がすごく面白いですし、そこがまさにミュージカルならではの魅力だと思います。
メロディや曲調の変化を通して、キャラクターの心の動きが立体的に見えてくるというか……観ている方も耳を通じて、登場人物の内面に触れていける。ジェイソンさんの楽曲には、そういう素晴らしい表現力があるなと感じています。
取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:梁瀬玉実
スタイリスト:飯田恵理子
ヘアメイク:真知子
公演概要
ミュージカル『ある男』
キャスト:
浦井健治 小池徹平 / 濱田めぐみ ソニン
上原理生 上川一哉 ・ 知念里奈 / 鹿賀丈史
碓井菜央 宮河愛一郎 ・ 青山瑠里 上條駿 工藤広夢 小島亜莉沙 咲良 俵和也 増山航平 安福毅 ・ 植山愛結* 大村真佑*
*スウィング
スタッフ:
音楽 ジェイソン・ハウランド
脚本・演出 瀬戸山美咲
歌詞 高橋知伽江
期間: 2025年8月4日(月)~8月17日(日)
劇場: 東京建物 Brillia HALL
チケット
1階S席:平日15,000円/土日祝15,500円
2階S席:平日14,000円/土日祝14,500円
A席:平日9,500円/土日祝10,000円
B席:平日7,000円/土日祝7,500円*
※B席は一般発売より発売
*=ホリプロステージのみ取扱
主催・企画制作: ホリプロ
ツアー公演:
広島公演:
2025年8月23日(土)~24日(日)
広島文化学園HBGホール
愛知公演:
2025年8月30日(土)~31日(日)
東海市芸術劇場 大ホール
福岡公演:
2025年9月6日(土)~7日(日)
福岡市民ホール 大ホール
大阪公演:
2025年9月12日(金)~15日(月祝)
SkyシアターMBS
公式サイト:https://horipro-stage.jp/stage/aman2025/
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