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小池徹平インタビュー ミュージカル『ある男』「ゼロから作品をつくり上げていくワクワク感は格別」(後編)

INTERVIEW

2025年8月4日(月)より東京建物 Brillia HALLにて、ミュージカル『ある男』が上演されます。

人間の存在の根源と、この世界の真実を描き、読売文学賞を受賞した長編小説平野啓一郎著『ある男』。

映画化もされた名作が、ブロードウェイでも数々の新作を生み出し高い評価を受ける、ジェイソン・ハウランド氏の音楽、人間の心を深く表現することで定評のある瀬戸山美咲氏による脚本・演出、日本ミュージカル界に欠かすことのできない高橋知伽江氏の歌詞で世界初演されます。

キャストには、W主演の浦井健治さんと小池徹平さんをはじめ、濱田めぐみさん、ソニンさん、上原理生さん、上川一哉さん、知念里奈さん、鹿賀丈史さんなど、オリジナルキャストにふさわしい、豪華キャストが揃いました。

THEATER GIRLは、ある男・Xを演じる小池徹平さんにインタビュー。後編では、年齢を重ねて感じる仕事への向き合い方の変化や小池さんが「歌うこと」において大切にしていること、本作にちなみ、もし“別の人生”を歩むとしたら……⁉やってみたいことなど、たっぷりとお聞きしました。

インタビュー前編はこちら

小池さんがもし“別の人生”を歩むとしたら……⁉

俳優以外の職業ですか……難しいですね。やっぱり人と関わっていたいという思いはあります。たとえば接客業など、人と直接コミュニケーションを取るような仕事には惹かれます。

とはいえ、黙々と作業に没頭するような職人的な仕事も好きなんですよね。一人で集中して何かを仕上げていくような。なので、なかなか一つに絞るのは難しいです。

せっかく別の人生を歩むなら、今とはまったく違う場所や環境がいいですね。たとえば東京ではなく、自然と触れ合いながら働けるような仕事にも興味があります。

たとえば、ツアーガイドのように自然の中で人を案内するような仕事も楽しそうですし、そういう職業って憧れますね。

30代半ばで家庭を持ったことが大きな変化

一番大きな変化は、30代半ばで家庭を持ったことだと思います。それまでは、20代の頃は特にそうですが、仕事が本当に大好きで、全力で走り続けていた感覚がありました。

そこから家庭という、全く別ジャンルの大切なものが自分の中に生まれて、いい意味で一歩引いた視点で仕事に向き合えるようになったんです。その感覚は、自分にとってすごく大きかったですね。家庭が楽しくて、大変でもあり、でもとても幸せで。その分、仕事との距離感もいい具合に保てるようになったと感じます。

まさにそうです。限られた時間の中で、家庭も全力で、そして仕事も全力で向き合うというバタバタ感も含めて、今はそれを面白がれている気がしています。そういった生活を通して、いろんな役に取り組む中でも、表現の幅を広げてもらったなと思っています。

はい。子どもたちも、来年や再来年には二人とも小学生になります。小学生になると、子どもたち自身にも友達ができて、僕たち親と一緒に過ごす時間が少しずつ減ってくると思うんです。

そうなったときに、今まで子どもたちに注いでいた時間が、自分に返ってくるようなイメージがあります。ただ、20代の頃とは違って、今の自分はその時間がとても貴重で大切なものだと感じるようになっているので、それをどう使おうかと考えるのが今はすごく楽しみです。

そうなんです。何に使うかはまだ決めていませんが、いざ「これに使おう」と思えた時に、自分自身にとってより豊かな40代が始まるんじゃないかと、今はそんな予感があります。30代とはまた違うフェーズに入っていく、そんな感覚ですね。

やっぱり家族からもらうエネルギーや、幸せな気持ちというのはすごく大きいです。それに、家族って自分ひとりの感情だけではなくて、誰かの感情に自分も連動していくじゃないですか。

例えば、家族の誰かが悲しいと自分もとても悲しくなるし、逆にうれしい出来事があると自分のことのようにうれしいんです。そういった感情の波というか、日々の感情の動きが本当に豊かなんですよね。特に子どもなんかは感情の起伏がすごく激しいので、そこから得られるものは本当にたくさんあると感じています。

そうですね。家族との生活を通して、今まで以上に多くの感情を自分の中に取り込むようになったと思います。だからこそ、役に対しても、作品に対しても、より深く、さまざまな人の感情を受け止めながら取り組めている実感があります。

はい。とても大きな変化だと感じています。

今回に関しては「新しい自分を見つけた」という感覚は、正直あまりないかもしれません。ただ、今までの自分では想像もできなかったような部分には、向き合うことになりました。

演じる「X」という役は、非常に複雑で、単純には理解できない人物です。彼は、自分の家庭環境や過去に絶望的な経験や深い悲しみを背負って生きてきた人間だと思います。戸籍を変え、名前を偽ってまで手に入れたかった「普通の幸せ」に、強く惹かれていたのだと感じます。

谷口大祐として築き上げた家庭は、たとえ名前が偽りであっても、彼が本気で手に入れた“本物の幸せ”だったと思うんです。それは、今の自分が感じている家族との幸せと、遠くはない感覚だと感じています。

まさにそうです。例えば、家族で一緒にご飯を食べて笑い合ったり、子どもの成長を喜んだり、つらいときに一緒に涙を流したり。そういう当たり前だけれども尊い日常に、彼も憧れていたんじゃないかと感じます。

ミュージカル版では描かれていない部分かもしれませんが、原作には、娘との会話や、子どもたちの視点から見た「父・大祐」の姿も描かれています。血のつながりがなくても、愛情を注ぐことで本当の父親になれる。そういう存在だったんだと伝わってくるんです。

そう思うと、彼がどれほど幸せを渇望していたのか、そしてその中でどれだけ懸命に生きていたのかが、すごく胸に響いてきて。自分の今の家庭環境があるからこそ、そういう部分により深く共感できているんだと思います。

本当に、まさにその通りだと思います。今だからこそ、この役にしっかりと向き合えている実感があります。

今回のような新作に携われることは、本当に楽しい

今回のように、『ある男』のような新作に携われることは、本当に楽しいです。ゼロから作品をつくり上げていくワクワク感は格別ですし、「こんな面白いものが生まれるんだ」という驚きもあります。

「こういう役がやりたい」という強い希望があるわけではないのですが、やはり新しい作品との出会いには特別なものを感じます。どうなるか分からない緊張感や、未知のものを形にしていく高揚感。そういう空気の中で作品をつくるのが、僕はすごく好きなんです。

明確にはないですが、例えばこの前、健ちゃん(浦井健治さん)が『デスノート THE MUSICAL』でリュークを演じると聞いて、「ついに人間じゃなくなっちゃったよ!」と思いました(笑)。でも、そういう人間を超えた存在って、めちゃくちゃ面白そうだなって感じます。

役者として、役の幅に縛られずにいろいろなキャラクターを演じられるのは、本当に楽しいことだと思います。いつか自分も、そういう“人ではない役”に巡り会えたらうれしいですね。

もう、ドキドキですよ。「自分たちはいい作品ができた」と思っていても、それを観てくださるお客様が「面白くなかった」と感じてしまえば、すごくもったいないじゃないですか。

やっぱり舞台は、観てくださる方々が「面白かった」「感動した」「また観たい」「考えさせられた」など、何かしらを持ち帰ってもらえることが一番大切だと思っています。だからこそ、自分たちの自己満足で終わらせたくないという気持ちがあります。

そうですね。自分だけが「いい芝居した」と満足するのではなくて、お客様に届けるという意識を常に持っていたいと思います。作品の意図をしっかりと理解し、自分がこのオリジナルミュージカルの中で担うべきことを見極めて、丁寧に役を作っていく。そこは絶対に大事にしなきゃいけない部分だと思っています。

小池さんが「歌うこと」において大切にしていること

ミュージカルに関して言えば、「ちゃんと歌うこと」を大切にしています。特に意識しているのは、歌詞、つまり言葉をしっかりと届けることです。

もちろん気持ちを込めることも大切ですが、まずはお客様に「何を言っているのか」が伝わらなければ意味がないと思っています。なので、言葉と感情の両方をきちんと届けることを、常に意識しています。

メロディに乗って感情を表現するのがミュージカルの魅力でもありますが、その中でも一番大事なのは、やはり言葉が届くことだと考えています。

最初に出演した宮本亞門さん演出の『メリリー・ウィー・ロール・アロング』というミュージカルが転機だったと思います。

柿澤勇人さん、宮澤エマさんと3人で、親友同士の物語を演じました。当時20代のキャストを揃えて、物語が時間を遡っていくという構成で、50代から始まって40代、30代、そして20代へと進んでいくストーリーでした。

当時、僕はポップスの世界から飛び込んだばかりで、まったくミュージカルの経験がない状態で参加したんです。周りはゴリゴリのミュージカル界隈の方々ばかりで、そのすごさに圧倒されました。「これはまったく別物なんだ」と強く感じましたし、自分に足りないものが本当にたくさんあると痛感させられました。

そうですね。あの現場だったからこそ、ミュージカルで必要なスキルや表現力、歌い方の違いなど、自分に必要なものすべてを思い知らされました。そこから意識が大きく変わりましたね。

はい、それまでちゃんと練習したこともなかったので、「これはしっかりやらないと絶対ダメだ」と思って、そこから本気で向き合うようになりました。

ポップスとはまた違う難しさや奥深さがあって、足りないことだらけでしたが、だからこそ学ぶことが楽しくなっていったんです。「もっと上手くなりたい」「もっと歌いたい」と思うようになって、必死に練習を重ねていきました。

やっぱりミュージカルは楽しいので、続けていきたいと思っています。ただ、もちろんお話をいただけることが前提ではありますが、もし機会をいただけるのであれば、できる限り出演していきたいですね。

『ある男』のミュージカル化という、非常にチャレンジングな作品に取り組んでいます。僕たちキャスト陣も、スタッフの皆さんも含めて、全員が本当に「良い作品を届けたい」という一心で日々奮闘しています。必ず心に残る舞台をお届けできるよう、全力で臨んでいますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらうれしいです。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:梁瀬玉実
スタイリスト:飯田恵理子
ヘアメイク:真知子

インタビュー前編はこちら

公演概要

ミュージカル『ある男』

キャスト:
浦井健治 小池徹平 / 濱田めぐみ ソニン
上原理生 上川一哉 ・ 知念里奈 / 鹿賀丈史
碓井菜央 宮河愛一郎 ・ 青山瑠里 上條駿 工藤広夢 小島亜莉沙 咲良 俵和也 増山航平 安福毅 ・ 植山愛結* 大村真佑*
*スウィング

スタッフ:
音楽 ジェイソン・ハウランド
脚本・演出 瀬戸山美咲
歌詞  高橋知伽江

期間: 2025年8月4日(月)~8月17日(日)
劇場: 東京建物 Brillia HALL

チケット
1階S席:平日15,000円/土日祝15,500円
2階S席:平日14,000円/土日祝14,500円
A席:平日9,500円/土日祝10,000円
B席:平日7,000円/土日祝7,500円*

※B席は一般発売より発売
*=ホリプロステージのみ取扱

主催・企画制作: ホリプロ

ツアー公演:
広島公演:
2025年8月23日(土)~24日(日)
広島文化学園HBGホール

愛知公演:
2025年8月30日(土)~31日(日)
東海市芸術劇場 大ホール

福岡公演:
2025年9月6日(土)~7日(日)
福岡市民ホール 大ホール

大阪公演:
2025年9月12日(金)~15日(月祝)
SkyシアターMBS

公式サイト:https://horipro-stage.jp/stage/aman2025/

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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