作・演出:藤田貴大×丸山隆平(SUPER EIGHT)インタビュー 『water』 「観る人自身へ返ってくる物語になれば」(後編)
2026年9月27日(日)より東京・東京グローブ座、11月7日(土)より京都・京都劇場にて、舞台『water』が上演されます。
主演を務めるのは、SUPER EIGHTの丸山隆平さん。作・演出は、演劇団体マームとジプシーを主宰する藤田貴大さんが手がけます。本作は、丸山さんの記憶の断片と、藤田さんの視点で捉えた京都という土地に虚構を織り交ぜて描く半自伝的作品。丸山さん演じる〈わたし〉が一日だけ地元へ戻り、懐かしい人々との再会を通して過去の記憶をたどるなかで、土地に流れる「水」の存在が浮かび上がります。
THEATER GIRLは、藤田貴大さんと丸山隆平さんにインタビュー。後編では、自分自身を演じる難しさや、二人の故郷との向き合い方、言葉にできない記憶や感情を作品へ落とし込む過程についてお聞きしました。
「丸山隆平」であって、「丸山隆平」ではない
――今回、丸山さんは京都を舞台にご自身を題材にした人物を演じます。普段のお芝居のように役柄を演じることと比べて、どんなところに難しさや違いを感じていますか?
丸山:今、少しずつ実感しているのは、自分がマームとジプシーの作品に参加するんだということです。藤田さんが描いた僕を、作品のなかに投じていく。そこには僕であって、僕ではない部分もあります。
セットや演出を含め、すべてに無駄がなくて、数式を見ているように美しい。そのなかでは、僕も登場人物であると同時に、セットの一部でもあるんです。マームとジプシーのルールを壊さずに、でも、どう壊せるか。今回はある意味、僕が異分子になると思うので、その絶妙なラインを探る難しさがあります。
舞台上にいるのは、僕が思う僕でも、皆さんが思う僕でもないかもしれない。では、この〈わたし〉は誰なのか。そんなことさえ、どうでもよくなるところまでいけたら、すごい作品になる気がしています。
藤田:本人を演じてもらうのは、とても酷なことだと思います。ただ、丸山さんをキャスティングしたことに、僕のなかではまったく矛盾がなくて。
結果的に、丸山さんには僕が描いた“丸山さん”を演じてもらうことになっていく。だから、実は丸山さんではなく、誰かを演じているだけで、最終的には「京都出身の、誰でもない42歳」に見えたらうれしい。
僕自身も丸山さんを通して、自分を見ているところがあります。40代になると実家や親との関係も変わっていきます。そのなかで故郷へ帰るとはどういうことなのか。観てくださる方にとっても、自分自身へ返ってくる物語になればと思っています。
――ちなみに、藤田さんは丸山さんにもともとどんな印象がありましたか?
藤田:アイドルという側面を持つ方とのものづくりは初めてで、ライブやバラエティ番組を見て「アイドルって、こんなにいくつもの顔を持たなければいけないのか」と驚きましたが、どの姿も丸山さんなんですよね。
アイドルだから、芸能人だからとかではなく、ある意味、普通に仕事をしている人と同じなんですよ。僕らと同じ視座も持ち合わせてくれている。もし常にかっこつけている人だとしたら、こんなふうにものづくりできなかったと思います(笑)。
丸山:あははは、ありがとうございます(笑)。
藤田:何をしても鎧が割れないような人とはいきなり作業はできないし、今の稽古場の雰囲気にもならないと思います。それはファンの方たちにも表れていて、雰囲気がいいんです。丸山さんとの間にも、変な隔たりがない感じがする。
丸山:普通に「元気?」みたいなね(笑)。
藤田:街を一緒に歩いていると、ファンの方がそっと丸山さんに声をかけてくれるんです。その方たちも『water』を観に来てくれるのかなと思うと、すごく楽しみですね。
丸山:あ、そうそう。これ言っていいかな? 持田将史さんが演じるバーの先輩のセリフに、好きな言葉があるんですよ。僕、ダンスを覚えるとき、自分の姿を鏡で見ないようにしていて。見られない、と言ったほうが近いかな。
その理由が、セリフに「こころと、からだがまだ一体に、なっていないんだなって、わかってしまう」と書かれていたんです。それを読んだとき、「これ、僕の話やん!」と思って。体が動きに納得していないと、変な動きをしている気がして恥ずかしい。でも、自分ではその感覚をうまく言葉にできなかったんです。
藤田:あれは、持田さんがぽつりと話してくれた言葉なんです。
丸山:それが僕の感覚ともリンクしました。観ている方にもきっと「自分にもこういうことがある」とつながる瞬間があると思います。
藤田:今回は本当に、観に来てほしいですね。普段は「タイミングが合えば」という感覚なのですが、今回は素直にそう思います。

自分のために帰る。丸山さんから教わった故郷との距離感
――今回、丸山さんと京都を歩いたことで、藤田さんご自身の故郷や、「帰る」ということへの向き合い方にも変化はありましたか?
藤田:僕にとって、北海道の地元で過ごした18歳までの時間は、あまり学校にもなじめず、つらい記憶も多かった。だから、地元に帰ることを躊躇していた時期もありました。
それでも、故郷と向き合わなければならないときがあるし、「帰る」という行為を完全に諦めていたわけではなかった。そんな僕がこの4年間で丸山さんから学んだのは、自分のために帰ってもいいということです。
丸山さんは仕事で大阪へ行く途中に京都で一度降り、自分の調子を整えたり、今すべきことを考えたりする。もちろん、楽しい記憶ばかりではないと思います。それでも、自分のために帰ることを選んでいる。その姿がいいな、って。
僕が故郷へ帰るときは、親のためや作品のためなど、いつも誰かのためでした。でも今回は、自分のために北海道の伊達へ帰り、かつての自分の部屋にある机で『water』を書きました。滞在中も「あのとき飲んだお酒は何だっけ?」と、丸山さんにたびたび恋人みたいに連絡して(笑)。
丸山:そこから、また物語を広げてくれたんですよね。
藤田:「今、自分がここで書きたいから」と、少しわがままに帰れるようになった。それは僕にとって、大きな変化でした。
――丸山さんの「帰り方」は、作品にも反映されているのでしょうか。
藤田:丸山さんが、家ではないお店で「ただいま」や「行ってきます」と言う姿が印象に残っています。僕には、そう言える場所がないから、うらやましかった。本当の家族ではないけれど、もしかすると家族以上に居心地がいい関係性があったりする。そういう場所があるんですよね。
丸山:考えてみたら、僕は藤田さんの故郷やご家族のことを、まだほとんど知らないんですよ。今度は藤田さんの地元へ行きたいですね。
藤田:行きますか! 何もないですけど(笑)。
丸山:僕、そういうの見つけちゃう。何でもないことに感動するのは得意なんですよ。
藤田:でも、北海道は京都のように歩いて回れる距離ではないですよ。大地だから。
丸山:でっかいどう、だから(笑)。それなら、おいしいご飯があればいいか。
藤田:おいしいご飯はあります(笑)。

語らない感情を、作品の余白へ。誰か一人の物語になるまで
――そんな故郷への複雑な思いも、作品には織り込まれているのでしょうか。
丸山:誰にとっても、言いたくないことや、わざわざ言わなくていいことはあると思います。アイドルである僕は、特にそういうことを表に出すべきではないと思っているんです。
藤田さんには、それらを感情的に語るのではなく、単純に起きた出来事として話しました。それを作品の余白へうまく埋めている。そこがなんとも憎いんですよ(笑)。稽古でいろいろな感情が込み上げてきても、セリフを言わなければ先へ進まない。「ううっ」となりながら向き合っています。
藤田:でも、これだけ言っておきたかったのは、誰でもいいわけじゃ本当になくて。丸山さん自身も、簡単に言葉にはできないこと、心の奥に抱えているものがある。それを見せてもらったうえで一緒に京都を歩いたから、明るい思い出だけではない、厚みのある物語になったのだと思います。
丸山:僕にとっては当たり前だった故郷への向き合い方が、藤田さんの視点を変えたと聞けたのは、すごくうれしいです。僕はこの作品で、とにかくたくさん自分のことを話しました。
藤田:僕は、ひたすら聞く時間でしたね。
丸山:藤田さんが聞き上手だから、話してしまうんですよ。だから今度は、僕が藤田さんのことを知っていかないとね。
取材・文:矢内あや
撮影:梁瀬玉実
【丸山隆平】
ヘアメイク:中嶋竜司(HAPP’S.)
スタイリスト:袴田能生(juice)
【藤田貴大】
ヘアメイク:大宝みゆき
スタイリング:suzuki takayuki
衣装協力:suzuki takayuki
公演概要

『water』
作・演出:藤田貴大(マームとジプシー)
出演:
丸山隆平/
青柳いづみ 伊藤万理華 植木祥平 内田健司 平井まさあき(男性ブランコ) 山本直寛
/持田将史(s**t kingz)
荒木穂香 猿渡遥 波佐谷聡 船津健太 柳瀬瑛美
【東京公演】
2026年9月27日(日)~10月25日(日)
東京グローブ座
【京都公演】
2026年11月7日(土)~10日(火)
京都劇場
公式サイト:https://water-stage.jp
制作協力:マームとジプシー
企画製作 :東京グローブ座
