新原泰佑インタビュー 『獅子 THE LION-BEAT』「寺山修司という存在にいつか触れてみたいと思っていた」(前編)
2026年10月4日(日)より東京、大阪にてBunkamura Production 2026ミュージカル『獅子 THE LION-BEAT』が上演されます。
劇作家、映画監督、作詞家、詩人など様々な肩書きを持ち、幻想と現実の境界を曖昧にする演出と舞台美術、そして社会や人間心理の鋭い洞察と実験的表現で高く評価される日本演劇界の巨匠・寺山修司氏。その寺山氏が、1965年にたった1回の公演のために書き下ろした幻の戯曲であるミュージカル『獅子 THE LION-BEAT』が61年の時を経て上演されます。
演出を務めるのは、これからの演劇界を牽引する存在として最注目の杉原邦生さん。
ごく普通の青年が、謎の男との契約で“ことば”を失う代わりに、憧れていたボクサーとしての能力を手に入れ、名声を得る一方で、失うものも増えていき……。ことばを失った青年がボクシングや新たに出会う人々を通して自らの道を模索し、栄光と葛藤の中で何を選び取るのかが描かれます。
主演を務めるのは第32回読売演劇大賞で新人賞にあたる杉村春子賞を受賞し、今、最も注目を集める若手俳優 新原泰佑さん。ヒロインには俳優デビュー作『赤毛のアン~アンからの手紙』以来16年ぶりのミュージカルに挑む北香那さん。さらに田中俊介さん、勝矢さん、さとうこうじさん、岡田義徳さん、田口トモロヲさん、橋本さとしさんと寺山修司氏の幻の戯曲を蘇らせるにあたりこの上ない顔ぶれが集結しました。
THEATER GIRLは主演を務める新原泰佑さんにインタビュー。前編では、61年ぶりの上演となる本作への出演が決まった際の思いや寺山作品の魅力、ことばを失う主人公・貞夫という挑戦的な役への向き合い方、さらに身体表現などへの取り組みについてお聞きしました。
そこで息をしている自分を見てみたい
――日本演劇界の巨匠・寺山修司 幻の戯曲であり、61年ぶりの上演となる本作ですが、出演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか。
“寺山修司”という存在に、いつか触れてみたいと思っていました。それは、寺山さんが描く世界の中に入りたいという気持ちでもありますし、その世界を自分の中に取り込みたい、そこで息をしている自分を見てみたいという思いでもありました。
今回お話をいただいて、「意外と早くその機会が来た」という驚きもありましたが、もともと夢の一つのように思っていたことでもあったので、とてもうれしかったです。
しかも今回は“幻の戯曲”ということで、最初は調べても本当に情報が出てこなくて、「本当に存在する作品なのか」と思ったほどでした。ただ、実際に脚本を読んでみるととても面白くて、読み終えた瞬間にマネージャーさんに「ぜひやらせてください」とすぐに返事をしました。
――これまでに寺山作品をご覧になった経験や、その魅力についてはどのように感じていますか?
正直に言うと、寺山修司さんは“教科書の中の人”というイメージが強くて。作品をたくさん観てきたわけではないですが、もともと詩が好きで、寺山さんの展示にも足を運んだことがありました。
お話をいただいてから、より意識して作品に触れるようになった中で感じたのは、言葉の鋭さです。すごく鋭利で、まるで突き刺さるような感覚があり、同時に、人が書いた言葉でもあるという不思議な温度も感じました。
当たり前のことかもしれませんが、誰にでも書けるものではなく、寺山修司という人にしか生み出せない言葉がそこに詰まっていると感じて。その人生があってこそ生まれた言葉なんだろうなと思いました。
――なるほど。
寺山さんの言葉は、まるでアイスピックのような印象で、一つひとつの言葉が鋭く刺さってくるのに、気づけばじんわりと自分の中に広がっていく。そして最後には、自分の血液の一部のように馴染んでいくんです。
だからこそ、多くの人の中に“寺山修司的な言語”のようなものが存在しているのではないのかなと。エッジが効いているのに、どこか温かくて、誰もが共感できる要素を持っているところが魅力だと思います。

自分にとってもかなり挑戦的な役
――本作で演じられる貞夫は、ボクサーとしての能力と引き換えにことばを失いますが、ミュージカルでその役どころというのは驚きがありますね。
僕自身もとても驚きました。「ミュージカルなのに、セリフがないの?」と最初は戸惑いましたし、マネージャーさんから「途中から喋れなくなる役です」と聞いた時に、「それってミュージカルですよね?」と聞き返してしまいました。
ただ、台本を読んでみると、不思議と成立していて。うまく言葉にするのが難しいのですが「これはやりたい!」と思わせる力がありました。
自分にとってもかなり挑戦的な役ですし、主演でありながら言葉を発さないというのは、これまであまり例がないかもしれませんが、その分、新しさや面白さを感じて、飛び込んでみたいと思いました。
――ご自身としても、挑戦的と感じる役柄なのですね。
台本では、セリフの多くが「……」といった表現になっているのですが、その中にもちゃんと感情が書かれているんです。言葉としては存在しないのに、“セリフ”として寺山さんが書き起こしていて。
だからこそ、その感情をどうやってお客様に伝えるかが大きなポイントになると思っていますし、それと同時に、余白を残すことが重要だと感じています。他のミュージカル作品以上に、お客様に協力していただく作品になるのではないのかなと。寺山さんは、「舞台は演じる側が半分、観る側が半分で完成するものだ」といった考えを持っていたそうで、今回の作品はまさにその言葉を体現しているように思います。
僕の表情や動き、空気感、そして手話や身体表現などを通して、お客様自身が言葉を見つけていく作品になるのではないのかなと。それぞれの経験や感性によって受け取り方が変わると思いますし、10人いれば10通りの感じ方が生まれると思います。
こちらがすべての答えを提示できない、僕が喋れないからこそ成立する、とても実験的で面白い舞台になると感じているので、その点も含めて、楽しみにしていただけたらうれしいです。

――貞夫という人物に対して、どのような印象を持たれましたか?
おそらく登場人物の中で、一番共感されやすい存在なのではないかと感じました。最初に読んだ時は、少しだらしない印象や嫌悪感のようなものもありましたが、読み進めていくうちに、その見方が少しずつ変わっていったんです。
もしかすると、彼の持っている感情は、自分の中にもあるものなのではないかと思うようになって。本来は誰もが持っているはずなのに、現代を生きる中でどこか隠してしまっている感情なのかもしれないと感じたんです。
そう考えると、とても身近な存在に思えてきて、どんどん彼のことを好きになっていくのではないかと思いました。
――不思議な魅力のある人物ですね。
不思議な世界観で、どこか『不思議の国のアリス』のような雰囲気もあって。作品全体としてはどんちゃん騒ぎのような空気もあるのですが、その中にしっかりと物語の軸が存在しています。
貞夫という人物は、一見、だらしなくてふらふらしているように見えますが、実は自分なりの信念を持っていると思うんです。細くても芯のある軸が一本通っていて、その周りの余白で揺れているような感覚というか。
その“揺れ”と“芯”の両方を表現できたらいいなと思いますし、そういう部分も含めて愛してもらえるキャラクターにしたいです。
身体表現がかなり重要になっている
――“ことばを失う”役を演じるにあたり、手話やボクシングなど、言葉以外の表現も重要になりそうですが、現在取り組まれていることはありますか?
“魔法の力で強くなる”設定ですが(笑)、ボクシングはすでに練習を始めています。それから、この作品は踊るシーンがとても多いんです。台本にも「ここはダンス」と明確に書かれていたり、ボクシングの動きをダンス的に表現するようにといった指示もあったりして、身体表現がかなり重要になっています。
保存されていた台本にもすでにそういった指示が書かれていて、とても動きの多い舞台になると思うので、自分の中のエネルギーをしっかり引き出していく必要があると感じています。
今は、体力づくりにも取り組んでいますし、役としての身体づくりも考えています。ただ、貞夫はもともとプロのボクサーではないので、いわゆる“ボクサー体型”に寄せすぎてもいけない、そのバランスがとても難しいなと感じていて。演出の杉原さんとも相談しながら、見た目のビジュアルだけでなく、内面も含めて丁寧に役を作っているところです。
――ボクシングの面白さや魅力、難しさについて感じていることはありますか?
やっぱり殴るのはとても怖いですね(笑)。もちろん今はミット打ちなどの練習ですが、それでも怖さがあります。ただ、今指導してくださっているコーチは、「避けるのが上手いね」と言ってくださっています(笑)。
当たり前のことを言っているようですが、人を殴るのは怖いですし、自分も殴られたくない。だからこそ、それを仕事として、プロとしてやっている方々は本当にすごいなと。実際にボクシングの試合を見ると、改めて尊敬しますし、格闘技というもの自体の奥深さを感じます。
ボクシングにもいろいろな種類がありますし、キックボクシングのような競技もあれば、さらに自由度の高いものもありますよね。自分がこれまで経験したことのないスポーツだからこそ、難しさも感じますが、やるからにはしっかりやり切りたいと思っています。そのためには、もう少しちゃんと“殴れる”ようになるまで練習していきたいです。

杉原さんは「クリエイティビティに溢れている方」
――演出の杉原さんとは初タッグになりますが、現時点での印象はいかがでしょうか?
ご自身のことを「お祭り隊長」とおっしゃっていたのがとても印象的で、「祝祭劇は任せてほしい」とお話しされていて、とても頼もしい方だと感じました。
僕自身も学園祭や文化祭のようなイベントが大好きなタイプで、実際に文化祭実行委員もやっていたんです。そういった意味でも、杉原さんとは通じるものがあるのではないかと思っています。
お話ししていると、とにかくクリエイティビティに溢れていて、やりたいことが次々と出てくる方だなと感じました。アイデアが止めどなく溢れているような方なので、それを受け取ってまずはやってみる、というサイクルを大切にしていきたいです。
時間の許す限りその試行錯誤を繰り返して、作品をどんどんブラッシュアップしていけたらと思っています。

新原さんが“我慢したもの”とは……!?
――本作で、貞夫は、ことばを失う代わりに、憧れていたボクサーとしての能力を手に入れますが、新原さんが何かを得るために「何かを我慢した」ことはありますか?
『インヘリタンス -継承-』という舞台の時は、ホームレスの役だったので、少し体を細く見せる必要があって、かなり食事を我慢しました。
――ミュージカルへ出演する際は、逆にたくさん食べて声を出しやすくするなど、普段と違う食事管理をすることもあるのでしょうか?
基本的には普段とあまり変わらないですね。ただ、今回は、ボクサーとして上半身を出す場面もあると思うので、少し量を減らしたりするかもしれません。ただ、栄養を取らないと免疫も落ちてしまうので。
体調管理が一番大事なので、栄養はしっかり取りつつ、量を調整したり、あまり脂肪になりにくいものを選んだりすることはあります。ただ、減量というほどでもないので、「我慢する」というほどではないかもしれません。
――逆に「あの時頑張ったから今の自分がある」と思える出来事はありますか?
それこそダンスですね。本当に続けていてよかったなと思います。
小さい頃は習い事としてやっていた時期もあったので、何度も辞めたくなりました。できない自分にイライラしたり、踊れない、うまくできない自分に悔しくなったりして、「もう絶対に辞める」と思ったこともありました。
でも今となっては本当に続けてきてよかったと思いますし、続けさせてくれた両親に感謝しています。母が「やるならとことんやりなさい」というタイプだったので。中途半端ではなく、ちゃんと自分の身になるものを身につけてほしいという思いがあったんだと思います。
当時は「嫌だ」と泣きじゃくりながら「辞める」と言っていましたが、今では「ずっと続けさせてくれてありがとう」という気持ちです。
――ダンスが嫌ではなくなったのは、どのようなタイミングだったのでしょうか?
“自分の踊り方”が見つかった時かなと思います。もちろん今でも「こうじゃない」と思うことはありますが、少しずつ「自分はこういう踊りをする人間なんだ」と、自分の身体のことを理解できた瞬間があって。そこから変わっていった気がします。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:梁瀬玉実
ヘアメイク:岩村尚人(SPIELEN)
スタイリング:泉敦夫
公演概要
Bunkamura Production 2026
ミュージカル『獅子 THE LION-BEAT』
作: 寺山修司
演出: 杉原邦生
音楽: ☆Taku Takahashi[m-flo]
潤色: 桑原裕子
振付: 北尾亘
出演:
新原泰佑 北香那 田中俊介 勝矢 さとうこうじ 岡田義徳 田口トモロヲ 橋本さとし
西田健二 希良々うみ 加藤翔多郎 片桐美穂 大平祐輝 佐藤匠 朝丘小百合 矢崎諒 植村理乃 加瀬友音 桑原あみ 渡来美友 藤井颯 渡邊気
【東京公演】
2026年10月4日(日)~20日(火)
会場 THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
【大阪公演】
2026年11月7日(土)・8日(日)
会場 SkyシアターMBS
協力: テラヤマ・ワールド
企画・製作: Bunkamura
公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shishithelionbeat.html
公式X・Instagram :@musical_shishi
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