井上小百合インタビュー 『リア王』 「誰かに勇気や元気を与えられる存在になりたい」(前編)
2026年9月6日(日)より東京・新橋演舞場にて『リア王』が上演されます。 歌舞伎俳優の中村芝翫さんが、演出家・井上尊晶さんとタッグを組み挑んできたシェイクスピア劇シリーズ。第三弾となる今回、シェイクスピア四大悲劇の中で最高峰と称される『リア王』に挑みます。
イギリス史の研究を土台とした石井美樹子さんによる翻訳で、シェイクスピアの言葉の本質を現代に甦らせます。襲名10年目の節目を迎える中村芝翫さんが演じるのは、老いと孤独に翻弄されるリア王。
またリア王の長女ゴネリル役に松下由樹さん、弟の策略に翻弄されるエドガー役に三浦涼介さん、リア王の次女リーガン役に朝月希和さん、リア王の末娘コーディリア役に井上小百合さん、兄を陥れるエドマンド役に大野拓朗さん、そして、グロスター伯爵役には村田雄浩さんと、物語を彩る豪華出演者が揃いました。
THEATER GIRLは、 コーディリア役の井上小百合さんにインタビュー。前編では、出演が決まった際のお気持ちやコーディリアという役への共感、シェイクスピア作品『リア王』の魅力についてお聞きしました。さらに、自身の経験を交えながら、言葉で伝えることの大切さについても語っていただきました。
まっすぐで嘘をつかないところに大きな魅力を感じる
――本作への出演が決まったときの率直なお気持ちを聞かせてください。
コーディリアは、嘘をつかないまっすぐな人物なので、自分にとても向いていると感じました。私は普段から率直にものを言うタイプなので、似ている部分が多いと感じています。ただ、正直に言いすぎて空回りしてしまい、損をしてしまうことも多いのですが、その点も含めて共感できる役だと思いました。
――現時点でのコーディリアの印象や魅力に感じている部分についても聞かせてください。
まっすぐで嘘をつかないところに大きな魅力を感じています。周囲に合わせようと思えばできるはずなのに、それをしない不器用さも持ち合わせていて、そこがとても素敵だなと。
現代はSNSなどでいくらでも自分を取り繕える時代ですが、コーディリアはそういうことをしない人物だと感じています。実は私自身もSNSがあまり得意ではなくて、自分をうまく見せたり、言葉で何かを伝えたりすることに苦手意識があるので。その点もとても似ていると感じました。
その不器用さは魅力であると同時に、欠点でもあると思うので、どう演じるべきか、今まさに考えているところです。

――物語の中でのコーディリアの存在については、どのように捉えていますか?
シェイクスピアの戯曲の元になった伝承では、コーディリアは幸せな結末を迎えるとされているんです。もともとは「正義が勝つ」という物語だったものを、シェイクスピアがあえて書き換えたという点に、とても意味があると感じていて。コーディリアがこの作品の中で重要な役割を持ってきているのではと感じています。
嘘をつかず、真っ当に生きた人が報われないという展開は、人間の本質を表しているように思うので。そのリアルさが、この作品の大きな魅力だと感じますし、人間らしさを大切に演じたいと思っています。

シェイクスピアの凄さを改めて感じる
――『リア王』はシェイクスピアの四大悲劇の最高峰として知られていますが、本作の魅力についてはどのように感じていますか?
本当に残酷な物語で、「そこまでしなくてもいいのでは」と思うほど報われない展開が続く印象です。ただ、それだけシェイクスピアが人間という存在を深く理解しているのだと感じました。
私はもともとヒーローものが好きで、「正義は勝つ」「頑張れば報われる」といった物語を信じたいタイプなのですが、現実には理不尽なことも多く、簡単に嘘をつく人もいます。そうした世の中の不条理や割り切れない感情が、この作品には色濃く描かれていると感じます。
400年以上も前に書かれているということにも驚きますし、人間の本質は当時から変わっていないのだと実感しました。なぜこんなに悲しい作品を上演するのだろうと以前は思っていたのですが、最近は、その「報われなさ」を受け止めることで、どこか気持ちを消化しようとしているのではないかと感じるようになって。そうした感情まで見抜いていたシェイクスピアの凄さを改めて感じています。

――本作は新橋演舞場のスケール感を生かしつつ、現代に通じる物語として届けられるとのことですが、演出や見せ方に期待する部分はありますか?
まだ具体的な演出については分からない部分が多いのですが、最近はさまざまな形で『リア王』が上演されていて、いわば“リア王祭り”のような印象もありますよね。その中で今回どのような作品になるのか、私自身もとても楽しみにしています。
主演の(中村)芝翫さんが演じるリア王なので、きっと芝翫さんらしい作品になるのではないかと思っていますし、演出の(井上)尊晶さんもとても物腰が柔らかくて素敵な方なので、そのエッセンスが作品にも反映されるのではないかと感じています。まだこれから稽古も始まっていく段階なので、どのように形になっていくのか楽しみです。
――シェイクスピア作品ならではの面白さや表現についてはどう感じていますか?
確かに言葉は難しい部分もありますが、内容自体は現代にも通じるものがあると思います。だからこそ、今でも多くの方が演じ続けているのだなと。
これまでシェイクスピア作品を観たことがない方にも、ぜひ足を運んでいただきたいですし、難しそうだと感じている方にも、実際に触れていただけたらうれしいです。

言葉が通じなくても伝えようとすることの大切さを実感した
――コーディリアのように本音を貫いたり 「言葉にすることの大切さ」を実感したりした出来事はありますか?
たくさんありますが、特に印象に残っている出来事があります。駅で大きな荷物を持っているご高齢の方がいらっしゃって、一人でとても大変そうだったので、勇気を出して「荷物を持ちましょうか」と声をかけたんです。
ただ、その方が振り返ると日本語が通じない方で、どうしようと思いましたが、「荷物」とジェスチャーで伝えたところ、信頼してくださって一緒に階段を上りました。最後におそらく「ありがとう」という言葉をいただいて、言葉が通じなくても伝えようとすることの大切さを実感しました。
さらに、その様子をたまたま知り合いの方が見ていたようで、後日お芝居のレッスンで先生から「あなた、駅でおばあさんを助けていましたよね。正義の人ですね」と声をかけられたんです。まさか見られているとは思っていなかったので、とても驚きましたし、そんなこともあるのだと印象に残っています。
――素敵なお話ですね。
ただ、勇気を出して声をかけても、うまくいかないこともあります。電車で席を譲った際に、その方が眠ってしまって、どこで降りるのか分からなくなってしまったこともありました。
起こすべきか迷っているうちに自分の降車駅に着いてしまい、そのまま降りることになったのですが、後から「あの方は大丈夫だったのかな」とずっと気になってしまって。失敗だと感じることも多いですが、それでも声をかけること自体はこれからも大切にしたいと思っています。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:遥南 碧
シェイクスピア×中村芝翫 第三弾。『リア王』製作発表記者会見レポート!
公演概要
『リア王』
日程:2026年9月6日(日)~22日(火・祝)
会場:新橋演舞場
作:W.シェイクスピア
訳:石井美樹子(河出書房新社『真訳 シェイクスピア四大悲劇』収録)
演出:井上尊晶
製作:松竹株式会社
≪出演≫
リア王:中村芝翫
ゴネリル:松下由樹
エドガー:三浦涼介
リーガン:朝月希和
コーディリア:井上小百合
エドマンド:大野拓朗
オズワルド:大堀こういち
コーンウォール公爵:駒井健介
オールバニー公爵:中村松江
ケント伯爵:二反田雅澄
道化:小倉久寛
グロスター伯爵:村田雄浩
≪チケット情報≫
好評発売中
チケットホン松竹 (10:00~17:00) 0570-000-489または03-6745-0888
チケットWeb松竹(24時間受付/発売初日の受付は10:00~)
[グループ観劇(15名様以上)に関するお問い合わせ]
新橋演舞場販売営業 03-3541-2111(10:00~17:00)
≪料金≫
1等席14,000円/2等席9,000円/3階A席5,000円/3階B席3,000円/桟敷席 15,000円
公式サイト:https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202609_enbujo/
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