前田公輝インタビュー 『リア王 -KING LEAR-』「多層的な表現を舞台上で体現できたら」(前編)
2026年9月21日より東京芸術劇場 プレイハウスにて、『リア王 -KING LEAR-』が上演されます。
シェイクスピア作品の中でも最難関のリア王役を演じるのは内野聖陽さん。舞台、映画、テレビと各方面で活躍し、いま最も充実した仕事ぶりを見せています。WOWOW連続ドラマW『ゴールドサンセット』で、シニア劇団で「リア王」を演じる謎の老人を演じ、その経験とこの役に寄せる熱い思いが、今回の出演につながりました。
今回、本作に挑むのは、日本演劇界を牽引する名演出家の森新太郎氏。古典から現代劇まで幅広く手掛ける作品はいずれも現代性、社会性が透徹しており、特にシェイクスピア劇の演出で見せる鮮やかな手腕は高く評価されています。
今回三度目のタッグとなる二人のもとに、魅力あふれる俳優陣が結集しました。
リアの重臣グロスターの私生児で親兄弟を裏切り、リアの娘たちを篭絡する悪漢エドマンドを前田公輝さん、嫡男ながら陥れられ辛酸をなめるエドガーを井之脇海さん、 リアの長女を川上友里さん、次女を内田慈さん、三女コーディリアと道化の二役を清水くるみさんが演じ、リアに最後まで忠義を尽くすケントに杉本哲太さん、悲惨な末路をたどるグロスターを山路和弘さんが演じます。
長女と次女の夫は、和田正人さん、大山真志さん、従者オズワルドは永島敬三さんと、演技派が固めます。全ての登場人物が、愛に飢え、人を信じず、状況を見誤って転落していくすさまじいドラマを この顔合わせにより怒涛のごとく熱く激しく描きます。
THEATER GIRLは、エドマンド役の前田公輝さんにインタビュー。前編では、出演が決まった際の心境やエドマンドという役への向き合い方、役作りへのこだわりについてお聞きしました。さらに、俳優として影響を受けた先輩や共演者とのエピソードなど、人との出会いが育んできた俳優観にも迫ります。
自分なりのエドマンド像を築き上げていけたら
――本作への出演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか。
率直に言うと、今年は『リア王』が3本上演される年でもあるので、その中で自分がどのようなエドマンドを演じられるのか、オファーをいただいた当初はまだ明確には見えていませんでした。だからこそ、その未知への挑戦に作品への熱量が一層高まっていったように感じています。
先日、内野さんと初めてお会いした際にも「いい役だね」と声をかけていただき、改めてエドマンドという役の魅力を実感しました。シェイクスピア作品は何百年も上演され続けていますが、そこに描かれる『リア王』の闇は、一見、現代の僕たちからは遠いものに感じられるかもしれません。しかし、だからこそ現代の解釈としてアプローチできる表現の選択肢は無限に広がっているとも感じています。
他の『リア王』の上演も、ぜひ観劇してみたいですし、その刺激を受けつつ、自分なりのエドマンド像を築き上げていけたらと思っています。
――現時点でのエドマンドの印象や、役作りについてはどのように考えていらっしゃいますか?
共演者の方々は、これまでご一緒したことがある方も初めての方もいらっしゃいますが、皆さんの芝居には心に残るものや胸に刺さる表現をされている印象があります。
その中でエドマンドは、大勢の中で立ち回るというよりも、少人数での濃密なやり取りの中でこそ成立する役だと捉えています。二人、あるいは三人といった関係性の中で、相手を信じ込ませていくことが重要になるのではないでしょうか。
エドマンドは嘘を真実のように見せていく役なので、「この人には聞かれてはいけないことを、あえてここで伝える」といった繊細な駆け引きが求められるのではないかと。そのためには、まず相手に信じてもらうことが第一歩になると考えています。
役作りとして自分自身を掘り下げることももちろん大切ですが、それ以上に、相手が抱えている不安や弱さをどれだけ汲み取れるかが重要だと感じています。対峙する相手によって見え方が変わる役だからこそ、その中でも一貫性を持たせることができれば、より魅力的なエドマンドになるのではないかと思います。

――エドマンドを演じるにあたって、難しさを感じる部分はありますか?
エドマンドは、クライマックスを除いてほとんどの場面で本心を隠しながら演じる必要があるので、その点は、自分の中でも大きな挑戦であり、負荷になるのではないかと感じています。これまで演じてきた役柄は、たとえヒールであっても、その人物なりの正義を持って真っ直ぐに表現できましたが、今回は違います。常に「本心」と「表向きの姿」という二重構造を意識しながら演じなければなりません。舞台は細かな動きまで観客に伝わる空間だからこそ、手先や身体の使い方に至るまで丁寧に作り込んでいきたいと考えています。
――エドマンドは、いわゆるヒールとなるキャラクターなので、ここ最近演じられていた役とは少し異なりますね。
ここ最近、演じる役の幅に新たな広がりを感じています。20代の頃は警察に追われる側の役が多かったのですが(笑)、30代を迎えてからは、いわゆる「善」の側の役をいただける機会が増えてきました。
今回、久しぶりに本格的な悪役を演じる感覚に新鮮さを覚えつつも、これまでの経験を重ねてきた今だからこそ出会える役があると感じています。これからも善と悪、どちらの役柄も大切にしながら進んでいきたいです。
色ペンを使い分けて、かなりカラフルな台本になった
――以前、役作りの際に紙に書き出して整理されると仰っていたのが印象的でしたが、今回も行う予定ですか?
はい、以前も台本が真っ黒になるくらい書き込んだので、今回もおそらく同じように取り組むと思います。
『リア王』とは作品の毛色が異なりますが、最近も感情を表に出さずに表現する役を演じる機会がありました。そのときは色ペンを使い分けて、本心と見せるべき感情、そしてその場面で向かっている方向性などを書き分けていたんです。結果としてかなりカラフルな台本になったのですが、今回も似たようなアプローチになるかもしれません。
また、今回は稽古期間がありますし、ストレートプレイでもあるので、喜怒哀楽の表現はもちろん、演出の森さんが各シーンで何を求めているのかを丁寧に探っていきたいです。まだ具体的にお話しできていない部分も多いのですが、稽古の中でディスカッションしながら見えてくるものがあるのではと感じています。
他の役者さんへの演出を見ながら、「このシーンの目指す方向性」といったヒントを早めに吸収することも、大切な役作りの一つです。そうした気づきも含めて、しっかりと台本にメモを残していきたいです。

――舞台では、毎回早い段階で演出家の方とディスカッションされるのでしょうか?
可能な限りお話しできる機会があれとうれしいですね。演出家の方によって進め方はさまざまですが、最初に作品の方向性や目指すゴールを示していただけることも多いので、まずはそこをしっかりと受け取ることが大切だと感じています。迷ったときに立ち返る指針になることが多いので、その言葉を聞き逃さないようにしたいです。
森さんの演出を受けるのは今回が初めてですが、一つのシーンを何度も繰り返すスタイルだと伺っています。何度も重ねる中で、崩れてしまわずに、新鮮で良いものを生み出し続ける「自分を保つ力」も必要になってくるはずです。そのバランスをうまく取りながら臨んでいきたいです。
――演出家の方によって、アプローチも変わってくるのですね。
そうですね。ただ、その過酷な過程で自分自身の癖や固定観念がほほぐれていくことも多いと思います。俳優はどうしても自分の好きな表現や癖が固まってしまいがちですが、それが一度崩されることで、新しい魅力が生まれることもあるはずです。
そこを乗り越えるまでの時間は、役作りの苦労とはまた別の、自分自身との戦いになるかもしれません。体力面も精神面もしっかり整えて稽古に臨みたいです。
――昨年出演されたミュージカル『ミセン』では座長という立場でしたが、今回はまた違った環境になりますね。
『ミセン』のときとは、まったく違う感覚ですね。内野さんがいらっしゃって、さらに森さんの演出ということもあり、周囲のさまざまな方からお話を伺う中で、お二人の存在の大きさを改めて実感しています。
その中で自分がどのようなスタンスで臨むべきか、まだ明確には見えていませんが、臆することなく全力で飛び込んでいきたいです。

ストレートプレイへの出演は久々
――近年はミュージカル作品への出演が続いていたので、ストレートプレイへの出演は久々になりますね。
ここ数年はミュージカル作品が続いていたので、ストレートプレイへの出演は久々になります。以前出演したミュージカル『ロミオ&ジュリエット』もシェイクスピア原作ですが、ミュージカルは歌があることで、より感情を伝えやすい側面があると感じていました。
一方で、今回はそうした歌やダンスといった“表現の武器”が一切ないストレートプレイです。だからこそ、エドマンドという人物の魅力や説得力を、どれだけ言葉や芝居で立ち上げられるかが勝負だと思っています。
物語を大きく動かしていくための“嘘”を、いかに真実味を持たせて届けられるか。その点が大きな課題になると考えています。
――歌やダンスなどのエンタメ要素がない分、より難易度が高いと感じていらっしゃるのですね。
そうですね。でも僕自身、とても前向きな人間なので、ミュージカルに出演していたときもベースとなる“芝居の部分”に対しては、これまでに積み重ねてきた自負や安心感があったんです。
ミュージカルへの出演は、自身にとって新しいジャンルに挑戦するという意識が強く、最初は不安も大きかったので、その分、周囲の力を借りながら成長していこうという思いで臨んでいました。
一方で、今回の『リア王』は、おこがましいかもしれませんが、ある意味自分の“ホーム”に戻ってきた感覚があります。ストレートプレイは長く時間をかけて向き合ってきたフィールドでもありますし、そこにシェイクスピア作品特有の世界観が加わることで、また違った難しさや面白さに出会えるのではないかとワクワクしています。
演出の森さんと一緒に、その新しい可能性に挑戦できたら、最高に幸せですね。
――普段から演技を軸にされているからこその感覚ですね。
まさにその通りだと思います。結局はその場で求められているものに対して、どう真摯に応えていくかが大切なので。だからこそ、ある種「ないものねだり」のような部分もあります。
ストレートプレイに向き合っていると歌いたくなりますし、ミュージカルの舞台に立っていると純粋に芝居だけで勝負したくもなる。そういった人間らしい欲求が、今回の『リア王』には強く表れている気がしています。
作品自体にも、人間の欲や歪みといったテーマが色濃く描かれています。俳優としての表現欲求と、役としての感情が重なり合うことで、二重構造、あるいはそれ以上の層を持った多層的な表現ができるのではないかと考えています。それを舞台上で体現できたら、とても面白い作品になるのではと感じています。

――現時点では、そういった準備を進めている段階でしょうか。
そうですね。まだ全体像が見えていない部分もあるので、今できる準備を一つひとつ積み重ねていきたいと思っています。
今は本に限らずインターネットを通じて膨大な資料や映像を手軽に見ることができます。情報がこれだけ身近にある分、知れば知るほど役作りのヒントになると感じています。
一方で、自分の頭の中だけであまりに固めすぎてしまうと、稽古場で演出家のアプローチと衝突してしまうリスクもあるので、そのバランスは常に意識しています。特にエドマンドという役は反骨精神が強い人物なので、自分自身の考えが前に出すぎてしまうと、作品全体との調和が崩れてしまう可能性もあると考えています。
――役との距離感も重要になりそうですね。
そうですね。稽古の段階では、調べたことを一度すべて忘れるくらいの柔軟さが大切だと考えています。一度インプットした上で、あえて手放すことで、現場で新しい発見が生まれることもあると思っています。
――その考えに至ったきっかけはありますか?
以前、鈴木亮平さんと舞台でご一緒させていただいた際、「考えすぎているから、一度捨てた方がいい」「今は忘れる作業をした方がいい」とアドバイスをいただいたことがあります。
当時は、せっかく準備してきたものを手放すことに抵抗があって、なぜそんなことをする必要があるのかすぐには理解できなかったのですが、実際にその言葉を意識してお芝居に臨んでみると、表現が大きく変わったという確かな実感がありました。
17歳くらいの頃にいただいた言葉なのですが、僕にとって本当に大きな転機となりました。その考えは、今でもとても大切にしています。
――とても素敵な出会いですね。
当時は悩むことも多かったのですが、長時間相談にのってくださったりもして、本当にかっこいい先輩だなと感じています。最近はなかなか直接お会いする機会がありませんが、今でもずっと尊敬しています。
――他にも影響を受けた方はいらっしゃいますか?
鈴木亮平さんと船越英一郎さんは、これまでの役者人生の中で、特にいろいろなことを教えていただいた大切な先輩です。
――同世代の俳優の方で、特に関係性の深い方はいらっしゃいますか?
以前、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』でWキャストを務めた味方良介くんとは今でも仲が良くて、よく交流があります。
彼もさまざまな舞台作品に出演しているので、お互いの近況を話したり、作品について深くディスカッションしたりすることもありますね。
――舞台は稽古と本番期間もあるので、特に関係性が深まりそうですね。
そうですね。稽古や本番を通して一緒に過ごす時間が長いので、自然と距離が近くなります。カンパニーとしての結束も強くなるので、とても大切な時間だと感じています。
――今までの共演者の方とも交流はありますか?
ミュージカル『ミセン』のメンバーとは今でも交流が続いています。『ミセン』で一緒だった清水くるみさんとは、今回の『リア王』でも共演するので「また夏から一緒だね」といったお話もしました。
最近は、一度作品で出会った方々とのご縁が途切れることなく、こうして温かいつながりが続いていることに日々感謝しています。たまに会ってお互いの近況を共有できる関係があるのは、本当にありがたいことですね。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:梁瀬玉実
公演概要
『リア王 -KING LEAR-』
作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:松岡和子
演出:森新太郎
出演:
内野聖陽
前田公輝 井之脇海 清水くるみ 川上友里 内田慈
大山真志 永島敬三 和田正人 杉本哲太 山路和弘 ほか
公演日程 :2026年9月21日(月・祝)~10月4日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
主催・企画制作:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
お問合せ :東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296 (休館日を除く10:00~19:00)
【新潟公演】
10月8日(木)18:00
10月9日(金)13:00
りゅーとぴあ新潟市民芸術会館・劇場
【愛知公演】
10月17日(土)12:00/17:30
10月18日(日)12:00
刈谷市総合文化センター 大ホール
【兵庫公演】
10月23日(金)16:00
10月24日(土)12:00/17:30
10月25日(日)12:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【岡山公演】
10月28日(水)
岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
【福岡公演】
10月31日(土)15:00
11月1日(日)13:00
J:COM北九州芸術劇場 大ホール
HP:https://kinglear.geigeki-classics.jp
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