浦井健治インタビュー ミュージカル『COLOR』「人生は気付きや発見の連続、そのきっかけが見つかるような作品に」(後編)
2022年9月に新国立劇場 小劇場にて、オリジナルミュージカル『COLOR』の上演が決定しました。
今作は草木染作家・坪倉優介さんが自身の体験を綴ったノンフィクション「記憶喪失になったぼくが見た世界」(朝日新聞出版)をベースに制作された、日本発の新作ミュージカルとなります。
語るような歌で構成されるという音楽は、今作でミュージカル作品へ初挑戦するという植村花菜さんが担当。脚本には『アナと雪の女王』の訳詞や、劇団四季の新作ミュージカル『バケモノの子』などを手掛ける高橋知伽江さん、演出には第25回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞し、ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』などで知られる小山ゆうなさん、編曲・音楽監督には自身も作曲・演奏家として活躍し、アーティストや映像作品への楽曲提供のほか、ディズニーD23 Expo Japanなどでの編曲も手掛ける木原健太郎さんが集結しました。
出演者は“ぼく”と“母”と“大切な人たち”の3名のみ。ダブルキャストで上演され、“ぼく”と“大切な人たち”を浦井健治さんと成河さんが、“母”を濱田めぐみさんと柚希礼音さんが演じます。
今回、THEATER GIRLがインタビューを行なったのは、今作で“ぼく”と“大切な人たち”を演じる浦井健治さん。後編では小山さんの演出に寄せる期待や、コロナ禍を通して感じていることなどについて伺いました!
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みんなで黙々と取り組んで「間に合えばラッキー」
――出演者が3人のお芝居を演者の4名のみなさんで作られるということで、稽古場では密なやりとりが交わされるのではと思うのですが、どんなところを楽しみにされていますか?
楽しみというよりも、稽古期間は決まってますし、これはもう、みんなが本当に黙々とやって、間に合えばラッキーだと思っています。ただ一幕なので上演時間もそこまで長くはならないと思いますし、一度ゴーサインが出たら、駆け抜けるだけだなと。台本もこの前一度崩した状況でまだまだここからですし、どういう作品になっていくのか……。お客様に何を伝えるべきかを、明確に届ける役割を盛り込んだほうがいいんじゃないかとか、そういう話をしているところです。
「この作品は小山さんに合うと思う」その理由
――演出の小山ゆうなさんは、昨年出演された『愛するとき 死するとき』でも翻訳・演出を担当されていましたが、演出面ではどのようなところに期待されていますか?
この作品は小山さんに合うと、実のところ僕は思っています。愛らしくほんわかしているけど、とてもクレバーでもある。でもやっぱり優しくて。優しいがゆえに、みんなの意見を聞きすぎてしまうときもあると思うんです。だから登場人物が実在していて(流れが)決まっているこの作品は、すごく合っている気がして。それに、小山さんは“ぼく”という人をとても敬愛していて、今新しく築かれる記憶というものに対して、きっとさまざまな部分で心を動かされたんじゃないかなと思うんです。作品を誘導してくれる楽曲も、普通にコンサートで歌っても感動してしまうような曲ばかり。そういう意味でも(劇場が)とても優しい空間になるんじゃないかなと。浦井の“ぼく”のほうは、そうなるかもしれません。
――成河さんの“ぼく”は、また違ったアプローチになるかもしれない、と。
成河は「いやいやいや、そんなことじゃないでしょ、人生は。こんなこと(=記憶喪失)になってるんだから」と、優しいほんわかしたカラーではなく、もっと切れ味と悲しみのある、問題提示の戯曲としての“ぼく”になったりするんじゃないかなと僕は思ってるので。全く毛色が変わると思うんですよ。きっと、楽曲を歌うだけでも全然違うと思います。
――浦井さんと成河さんの“ぼく”では対極的な雰囲気になる可能性も、もしかするとあるわけですね。
それはまだ、わからないですけど、「ストーリーの中に未来にむけた大切なメッセージはたくさん込められているから、お客様にそれを持ち帰ってもらえたらいいよね」というようなことを小山さんが言っていたので、やさしい気持ちになってもらえるような作品は合うんじゃないかなと思いますね。
コロナ禍がもたらしたもの「誇りに思うべきだけれど淋しい」
――それまでの当たり前が壊れてしまったという感覚は、記憶喪失という重大な困難に対面したわけではないにしても、コロナ禍において多くの人が味わったのではないかと思います。この二年半を通じて、浦井さんが改めて考えたことや、コロナ禍があったからこそ気付けたということがあったら聞かせてください。
まず思うのは、人と会うことが今はなかなか困難になっていますよね。ここのところマスク緩和という声も聞かれるようにはなりましたけど、マスクによって表情が読み取れない歯痒さを僕はすごく感じていて。稽古場はもちろんこういった取材でも、顔が見れなくなってしまった。だから、ちゃんとスタッフさんの顔をみることなく終わってしまうのが日常になってしまっていて、「ありがとう」や「お疲れ様でした!」という言葉は、その場で伝えないと伝えるチャンスが限られてしまう。そういうレベルの線引きがされるのは感染対策がきちんとされているからこそなので、それは誇りに思うべきだし、とても大事だしやらなきゃいけないことなんですけど。結果、人が分からなくなったり、会えなくなったりするので、その淋しさは感じています。
――キャスト同士は顔は見えても、共に作品を作ったスタッフさんの顔がよく分からないままというのは、たしかに淋しいですよね。
例えば、今こうなっている状況の中でスタートした新人さんからしたら、出待ち入り待ちがあったとか、打ち上げがあったとか、稽古終わりに先輩とご飯に行っていろいろ話したり、アドバイスをもらったりしたとか、そういった我々が過去に体験したことを知らずに過ごしてきた数年間というのは、そういう子たちのメンタル面や、成長においての障害になっていたりもするのかなと。障害というと、ちょっとおかしいかもしれないですけど。
――考えてみると、弊害はあるのかもしれないと感じますよね。
以前までは普通だったことだけど、難しくなっていることに、このコロナ禍での遣る瀬なさはずーっと感じていて。みんなが感じていることだと思うんですけど、もう仕方がないよねって、慣れちゃっているんですよね。この質問をされて本当は慣れたりしたくないけど、慣れてきてしまったという発見もありますよね。こういうことが、この作品にはやはり通じている気がしていて。「そうじゃなくて、その先の記憶が輝いているんだよ」ということが、伝わればいいなと思います。希望や前向きなメッセージが、この作品には込められているので。それを今上演するのはとても意味があるし、自分たちにとってもやりがいを感じると思います。
思い出の詰まった劇場で「やれることが財産という気持ちで挑みたい」
――原作にも目を通しましたが、「絵があってよかった」という坪倉さんの言葉がすごく印象的でした。浦井さんにとっては何がそれにあたると思われますか?
どうでしょうね……。僕の人生を同じように例えるなんておこがましいような気がします。“ぼく”の出会った染め物や絵があまりにも大きな存在なので、何かに置き換えるのは申し訳なくてできませんが、それでも敢えて自分の中で近しい感覚があるものは、やはり演劇の中で出会った人たちと一緒に過ごした時間ですね。その時間は無くならない思い出なのかなと思います。
――最後に、上演を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。
新国立劇場は僕が本当にお世話になっている大好きな劇場で、いろいろな思い出があって、たくさんの人の顔も思い浮かぶ場所なんです。その小劇場でこの作品を、小山ゆうなさんの演出、この座組みで、この時期にやれることをとても光栄に思っています。やるからにはお客様に何か持ち帰っていただきたいので、そこを忘れないよう肝に銘じつつ、また、やれることが自分にとっては財産だという気持ちで挑みたいと思っています。作中の楽曲もとても覚えやすく、感動する曲もたくさんあるので、一度ならず、もし二度三度と観ていただけるなら、その時は一曲目から涙が出てしまうかもしれません。それに“ぼく”の役者がちがう回を観た時には、また感じ方が変わったりという醍醐味も味わっていただけると思うので、楽しんでいただくためにも頑張りたいと思います。(坪倉さんの)講演会にも足を運んでみていただきたいですし、この作品を通してこういう生き方があったんだと知っていただけたら、我々役者としては失礼のないようにできたのかなという自信に繋がります。ですので、感想を拡散していただいたり、我々に伝えてくださったら創作意欲にもなりますので、ぜひ劇場にお越しいただき、お声を聞かせてください。
取材・文:古原孝子
Photo:野村雄治
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公演概要
ミュージカル『COLOR』
2022/9/5(月)~9/25(日)
新国立劇場 小劇場
キャスト (五十音順):
浦井健治 ぼく/大切な人たち
成河 ぼく/大切な人たち
濱田めぐみ 母
柚希礼音 母
スタッフ:
原作:坪倉優介「記憶喪失になったぼくが見た世界」
音楽・歌詞:植村花菜
脚本・歌詞:高橋知伽江
演出:小山ゆうな
編曲・音楽監督:木原健太郎
振付:川崎悦子
美術:乘峯雅寛
照明:勝柴次朗
音響:山本浩一
映像:上田大樹
衣裳:半田悦子
ヘアメイク:林みゆき
ボーカルスーパーバイザー:ちあきしん
演出助手:守屋由貴/野田麻衣
舞台監督:加藤高