キムラ緑子インタビュー 舞台『有頂天作家』「改めて声に出して台詞を読んだとき、以前の感じとは違うものになっていました」(前編)
――同じ台詞でも全く違うように感じるとは、どういう感覚なのでしょうか?
一言一言の解釈、思いの違いかもしれません。前は「こんなこと思いながら、言ってはなかったのに……」みたいな。あまり細かいことを書かれていない本なので、想像で埋めるしかないところもあるのですが、その想像で埋める部分がもう少し深くなる感じです。
たとえば、「そんな一言で許してくれるの?」って思った場面があって。「あなたは怒ってないの?」と聞くシーンがあるのですが、「全然大丈夫」みたいなことを言うんです。でもそれは言葉では「全然大丈夫」だけど、実は「全然大丈夫」ではない。いろんなものがあっての「大丈夫」なんです。その「大丈夫」という言葉を聞いて、受け取る側も噛みしめる……みたいな。
台詞で云々ではなく、事の重大さといいますか。だって21年間も思い続けてきたんですよ。その息子まで宿して、育てて、その息子を媒体としてもう1回会おうとした人。21年間なんて、相当な長さじゃないですか。このコロナ禍で実感しましたが、人は一瞬でいろんなものが変わっていく。一瞬で得たり、一瞬でなくなったり。そんな儚さについても、コロナ禍で深く考えることの一つでもあったので、21年ってどういう重さなんだろうかとか、どういうことを人は思うんだろうかとか。今みたいにスマホですぐ話せるような時代ではないから、あの時代にどう思っていたんだろうとか、どれほどの気持ちで人を思っていたんだろうとかを想像します。徹さんが演じる涼月は手紙に並んだ言葉を見返しながら、ずっと小菊を愛していたのなら、どんな思いでその手紙を見つめていたんだろうとか、一つ一つがとても重く自分の中で響いてくるんですよね。
より深く想像できたら、一つの台詞を取ってもおのずとニュアンスが変わる。こうして変えようとか、こういう形でやってみようとかではなくて、「あれ? こんなふうになった」みたいな感じだったんです。だからあまり無理しないでよかったなと思いました。
――コロナ禍だからこそ、感じた思いもあったのですね。
言葉で説明するのは難しいですが、やっぱりこの2年間は大きかったですよ。皆さんもそれぞれそうだったと思います。いろんなことを考えたと思うしね。どこにも行けなかったし、誰とも会えなかった時間もあったけれど、悪いことばかりではなかった。コロナ禍で苦しかったこともたくさんありましたけど。プラスで捉えるとするならば、いいこともあったかなって。悪いことばかりでもなかったように感じますね。
取材・文:矢内あや
Photo:くさかべまき
スタイリスト:松田綾子(DUE)
ヘアメイク:笹浦洋子
公演概要
《喜劇名作劇場》恋ぶみ屋一葉『有頂天作家』
作・演出:齋藤雅文
出演:渡辺えり、キムラ緑子、大和田美帆、影山拓也(IMPACTors/ジャニーズJr.)、春本由香、瀬戸摩純、長谷川純、宇梶剛士、渡辺徹 他
2022年1月15日(土)~28日(金)
京都・南座
2月1日(火)~15日(火)
東京・新橋演舞場
公式サイト:
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/minamiza_202201_02/
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/enbujo_202202/