瀬戸さおりインタビュー『頭痛肩こり樋口一葉』「勇気をもらえるような作品になれば」(前編)
2022年8月5日から東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、こまつ座 第143回公演『頭痛肩こり樋口一葉』が上演されます。さらに、9月2日~11日には大阪・新歌舞伎座、9月13日には岡山・津山文化センター、9月19日には東京・パルテノン多摩と巡演されます。
本作は、こまつ座の旗揚げ公演で、井上ひさしさんが書き下ろした作品。1984年の初演以来、上演が重ねられてきた人気作で、樋口一葉の生誕150周年となる今年、こまつ座によって6年ぶりに上演されます。
演出を務めるのは栗山民也さん。樋口一葉役を演じる貫地谷しほりさんをはじめ、増子倭文江さん、熊谷真実さん、香寿たつきさん、瀬戸さおりさん、若村麻由美さんと実力派女優6名が名を連ねました。
今回、THEATER GIRLでは貫地谷しほりさんの妹・邦子を演じる瀬戸さおりさんにインタビュー。前編では、役柄への印象や自分と重なる部分、稽古場の雰囲気などを語っていただきました。
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力強く生きていく姿が自分と重なった
――本作に出演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?
以前、初めてこまつ座さんの作品、『きらめく星座』に参加させていただいた時にちょうどコロナ禍に入ってしまったんです。そのなかでもお芝居ができるということの大切さを改めて実感できて、もう一度ご一緒したいと強く思っていたので、今回お話をいただくことができて本当に嬉しかったです。キラキラした思い出がすごく残っていて、またこまつ座さんの舞台に立てたらいいなと思っていたので、また演出が栗山さんですし、信頼できる皆さんと一緒なのですごく楽しみな気持ちでした。
――今回は貫地谷しほりさん演じる夏子の妹・邦子を演じられますが、役柄への印象はいかがでしょうか?
邦子は、とてもしっかりしていて家族を影から支えているような子で、夏子お姉ちゃんをすごく信頼・尊敬しています。自分にできることをやって、家族を支えて生きていくと、誰よりも強く思っていると言いますか。父と兄が死んでしまって”死”というのを身近に感じて、「どうすれば家族が生き続けていけるのか」を現実的に考えていた人という印象です。姉がまだ作家として食べていけない貧乏な時も、 健気にみんなを支えるというような役柄です。私自身も元気でパワフルな女性たちに負けずに、皆さんと一生懸命舞台の上で生きていけたらなと思っています。
――邦子役が、ご自身と重なる部分もあるのでしょうか?
そうですね。私の父が単身赴任で、兄も高校2年生の時に家を離れて、母と妹と3人で暮らしていた時期があったので、そういった部分が重なるなと思いました。男の人がいない中、女だけでどのように生きていくのか・生活していくのかというのは、不安がありつつも男性に頼らず生きていこうとする力強さは重なる部分があったので、そういった部分は役作りにも活かしていけたらと思っています。
お姉さんたちを頼りに稽古に励む日々
――お稽古に参加されて、カンパニーの印象などは、いかがでしょうか。
今はまだ歌稽古の段階なのですが皆さん本当にパワフルな方ばかりです(取材時)。増子(倭文江)さんとは、以前ご一緒したことがあったのですが、他の皆さんも最初から気さくに話しかけてくださいました。
日数があまりない中でもやるべきことはたくさんあると聞いていたので、皆さんを頼りにしながら「お姉さんたち、よろしくお願いします!」と言う思いで、やらせていただいています(笑)。稽古では受け止めてくださる方が多いので、いろんなことに挑戦できたらいいなと思っています。
――今回、お姉さん役となる貫地谷しほりさんの印象はいかがでしょうか。
すごく周りを見ている方ですね。芯の強さもありながら、少し儚げで柔らかい方だという印象があります。お芝居に入った時には、私がやることを受け止めながらも、上手にパスをくださるような方です。
――栗山さんの演出にはどんな印象をお持ちでしょうか。
栗山さんの稽古場はすごく楽しいんです。1つできたらまた1つと、明確にやってほしいことの指示を出してくださいます。栗山さんからダメ出しをもらった時にも「栗山さんが言ってくださる通りにできたら、すごく良いものができるし、美しいんだろうな」と思うのですが、そのステージに行くまでがすごく難しいんです。でも、ビジョンを持って言ってくださるので、できあがった画が想像できるからこそ「クリアしたい、もっと上にいきたい」と皆さんと一生懸命に稽古することができています。
――求められるハードルは高いけど、その分良いものを作れると思うと頑張れそうですね。
そうですね、現場の雰囲気もすごく良くて楽しいですし。今回は女性ばかりなので、すごくワクワクします。
――出演者が女性だけの現場というのは初めてでしょうか?
今までにも1度あるのですが、これだけの戯曲で女性だけというのはなかなかないと思います。稽古場から、すごく明るく賑やかなんだろうなと思っています。
――劇中でも歌うシーンがあると思うのですが、実際に歌稽古をしてみて感触はいかがでしょうか。
蛍の歌をそれぞれ違うリズムで歌うシーンもあるのですが、井上さんの作品に出てくる音楽はすごく元気になるし、誰かを一生懸命励まそうとして歌うんです。暗い中でも音楽があることの大切さをすごく感じられるので、稽古で苦しい時も音楽があることでモチベーションが上がって、こまつ座さんのお芝居は本当に楽しいなと思っています。
言葉の力を感じている
――今回は2020年ぶりに、井上ひさしさんの作品に参加されるとのことですが、改めて井上さんの作品の印象はいかがでしょうか。
とてもユニークですね。しんどくて暗い時代のなかでも、みんながたくましく生きていて、演じていても観ていてもすごく勇気をもらえる作品が多いと思います。あと、井上さんが書かれる戯曲は、一言一言がすごく苦労して生み出された言葉ばかりで余計なものが入っていないんです。私自身にも言葉が入ってくるようで、言葉の力を感じています。そんな井上さんの言葉を信じて、想いが詰まった言葉を大切にしながら表現できたらいいなと思っています。
取材・文:THEATER GIRL編集部
Photo:野村雄治
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公演概要
こまつ座 第143回公演『頭痛肩こり樋口一葉』
作・井上ひさし
演出・栗山民也
2022年8月5日 (金)~ 28日 (日) 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
2022年9月2日 (金)~11日 (日) 新歌舞伎座(大阪)
2022年9月13日 (火) 津山文化センター(岡山)
2022年9月19日(月・祝)パルテノン多摩(東京)
出演:
貫地谷しほり 増子倭文江 熊谷真実
香寿たつき 瀬戸さおり 若村麻由美