荒木宏文インタビュー朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』「演出家が形にしたいものを体現するのが、役者というプレーヤーの仕事」（前編）

2023.04.18

INTERVIEW

4 月 20 日(木)より、東京・六本木の俳優座劇場にて、朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』が開幕します。足立紳さん原作の家族小説を朗読劇化した本作。映画『万引き家族』、ドラマ『silent』など、数多くの劇場映画、テレビドラマのヒット作の制作を担当してきた、アジアトップクラスのプロダクションAOI Pro.が企画・プロデュースを行い、共同脚本・演出は、劇団宝船主宰で、これまでも多くの AOI Pro.制作ドラマ脚本を手掛けてきた新井友香さんが務めます。

出演者には、篠原涼子さん、山崎樹範さん、荒木宏文さん、佐藤仁美さんの4名が豪華Wキャストとして決定しました。また、朗読劇本編で上映される劇中ドラマでは、早川聖来さん(乃木坂46)とゆうたろうさんが夫婦役で初共演。

浮気相手に捨てられた売れない脚本家の夫・孝志と、その夫に内緒で応募したシナリオコンクールで優秀賞を受賞し、これまでの家事育児だけの生活から外の世界に飛びだそうとしている妻・恭子。そんな妻に不倫相手を失った夫が久しぶりに迫る……。夫婦の「セックスレス」をきっかけに夫婦のあり方、子育てのあり方を問いかけます。

今回THEATER GIRLでは、孝志を演じる荒木宏文さんにインタビュー。前編では、本作への出演が決まったときの気持ち、原作を読んだ感想、共演する篠原涼子さんの印象などを語っていただきました。

インタビュー後編はこちら

「朗読劇という形だからこそ」今までとは馴染みのない役柄をいただけた

――まずは、本作の出演が決まったときのお気持ちから聞かせてください。

最初はやっぱり驚きました！　意外な役柄だったので、「なぜ僕にオファーが？」と思って。

でも、朗読劇という形だからこそいただけた役だと思うので、今までとは馴染みのない役柄を演じられるきっかけをいただけたのは、僕にとってとてもプラスなこと。驚きながらも、お話をいただけたことがまずは光栄でありがたかったです。

時代背景がとてもリアル、「自分の育ってきた環境とは大きくずれている感じ」

――夫婦の生々しいストーリーが魅力的な原作ですよね。きっと多くの方々にとって共感する部分があると思うのですが、実際に原作を読んでみてどんな感想を持たれましたか？

最近僕たちが経験したコロナ禍での話なので「こんなにすぐに作品にできるんだ」という衝撃が大きかったです。時代背景がとてもリアルなので、そういう部分も身近に感じられる作品だと思います。

人間模様でいえば、僕とは価値観が違いすぎるので、理解しがたい部分がありながらも、そういう問題を抱えている方々は、けっこうな割合でいるのだろうなと想像できました。特に、僕が演じる孝志はかなり現実味を持った役柄ですよね。

――結婚観や育児への考え方も、今の時代を反映させているような、リアリティを持って描かれていますよね。

今の子育て世代が共感できる部分が多くありそうですよね。その一方で、僕が育ってきた環境とは大きく離れているような気もしました。時代とともに社会問題や社会人としての価値観が、変化してきているんだろうな、と感じながら読んでいましたね。

幸せのあり方が「自分の人生を充実させる」という価値観に変わってきている

――荒木さんが育ってきた環境と違うと感じるのは、主にどういった部分からですか？

僕は田舎出身で、核家族でもなく、祖父母も近くにいる環境で育ってきました。そんな僕から見ると、両親や祖父母の優先順位は僕たち子どもにベクトルが向いていたんですよね。自分たち主体の人生に区切りを付けて、子どもたちの人生をサポートする側の立場に回ってくれていたといいますか。昔はそういう価値観を持った親が多かったのかな、というのを感じましたね。

――確かにその視点で考えると、孝志も恭子も子育てしながら、自己実現を諦めたくない気持ちがありますよね。

そうですね。おそらく幸せのあり方がそこに変わってきているのかな、と。人間の寿命が延びていることによって、自分の人生に区切りを付けるという覚悟が持ちづらいからでしょうか……。今は、自分の人生を充実させるための考え方、そこに費やす時間が、圧倒的に延びている感じがしますよね。

――それは、どういうことが影響しているからだと荒木さんは思いますか？

政治はもちろん、景気の問題や、医学の発展、教育理念によっても、今の成人たちが持っている価値観が変わってきているのを実感します。インターネットのおかげで、日本だけでなく世界の価値観にも触れやすくなったことで、ある意味、情報過多といいますか、統一性を取りづらくなってきているからでしょうか。

その中で、自分にとって都合の良いものを選択して、それが正義だと思ってしまう部分があると思うんですよね。いろんなものが折り重なって、今の大人たちの価値観が出来ているのだと個人的には思います。

「稽古初日から本番にかけての変化を味わえるのは、共演者ならではの特権」

――今回、妻の恭子役を演じる篠原涼子さんとは初共演ですよね。篠原さんの印象について、ぜひ教えてください。

篠原涼子さんを初めて拝見したのは、バラエティ番組の『ダウンタウンのごっつええ感じ』に出演されていたときでした。それから有名なアーティストになられて、幅広い作品で俳優として活躍されていて。いろんな面を持っている方、というイメージが強かったです。

もし、俳優の篠原さんを分かりやすいキャッチコピーで表現するなら、「カメレオン俳優さん」。作品によって極端に人格が違っても、「篠原涼子さんならできそうだよね」と思わせてくれる振り幅でいろんな役柄を演じていらっしゃるので、引き出しが多い方だなと思います。

今回の台本を読んでいると、良い意味で「篠原さんだったら、こういう恭子になるんじゃないかな？」と想像できちゃうのがすごいですよね。どんな役柄でもナチュラルに演じられていらっしゃるからだと思います。

――篠原さんと共演するうえで、どんなことを楽しみにされていらっしゃいますか？

篠原さんにとって、朗読劇は今回が初挑戦だそうです。そういった部分では、初めての現場で、初めてのエンタメの形に参加するときの馴染み方が気になりますね。稽古初日から本番にかけての変化を味わえるのは、共演者ならではの特権。どういうアプローチでその現場に馴染んでいくのか、間近で見られるのはとても恵まれていると思うので、そこをとても楽しみにしています。

朗読劇は「まだベースが浸透してないからこそ、自由にできるエンタメ」

――今回はリーディング戯曲ということで、一般的な朗読劇とは違った映像演出もありますが、こちらの演出に関してどんなことを期待していらっしゃいますか？

そもそも朗読劇は、カテゴライズされているものではあるけれど、まだ確立しきってはいないと個人的には考えています。

だからこそ、演出家によって見せ方が違ってくる。たとえば、本は持っているけれど、立ち稽古に近いくらい動いている作品もあれば、僕が初めて参加したものでいうと、演出家・青井陽治さんの『ラヴ・レターズ』のように、出演者の2人が椅子に座って、フォーマルな衣装で行うものもあれば、役柄に合ったイメージの衣装のまま動きをやってみるものもある。

さらにいうと、何もない無機質な状態で、役者がそこに立って読み聞かせのように進めていく形も朗読劇と呼ばれたりします。台詞や音で情報を聞きながら、目を閉じていてもキャラクターのイメージ、話している空間をお客さまが感じてくれる。つまり、想像力がかなり生きてくるエンタメでもあると思うんです。

今回は、回想シーンを事前に撮った映像を使うので、空間を視覚的情報でどこまで伝えるのか、ただ映像を使うだけなのか、背景すらもマッピングして空間を見せるのか、いろいろな使い方がありそうですよね。そこのバランス一つ取っても、また本作ならではの新しい見せ方になるんじゃないかな、と。