柿澤勇人インタビュー 『ハルシオン・デイズ2020』 「見終わった頃には「生きなきゃ」ってポジティブな気持ちが湧き上がる」
――石井さんは演技に対して厳密な方なのかもしれませんね。柿澤さんご自身はいかがですか?
僕はどっちかっていうと、動いてから理解していくタイプ。わかんないままやっちゃってるところもあります。それを1カ月間の稽古のなかで発見すればいいし、ニュアンスとかっていうのは公演ごとに変わったりしてもいいって考えなので。それがライブの醍醐味だって思うところもありますしね。
ともかく4人全員が違ったベクトルにあるから、今回の舞台でそれぞれの個性がグルグル回っていけばいいなと期待しています。
――今作は、「絶望、救済、希望」をテーマに掲げられていて、4人の登場人物が「妄想」「幻影」「虚構」と向き合いながら、目まぐるしく展開していきます。2020年の今、この作品を上演することに感じるところはありますか?
初演が2004年ということもあって、そこから台本の内容がだいぶ変わっているんです。もちろん大筋は変わっていないし、4人のキャラクターも大きくは違わないけど、2020年の今の話として描かれている。
「コロナ禍の閉塞感」があって、「自粛警察の存在」や「マスクをする、しない」みたいなことも普通に出てきます。そのうえで、生きづらさを抱える4人が“楽しく死のう”っていう目的のもとに集まって、バカなことをしたり、芝居の稽古をしたりっていう過程の中で「生きるってなんだろう?」と自問自答していく。
舞台を観にくる方の中にも、自粛期間中に闇を抱えてしまったとか、なんらかの傷を負ってしまった人は少なくないと思うんです。そんな人たちが「よし、明日から頑張ろう!」って思えるような作品になってくれるんじゃないかと。初演の内容に比べると、誰が観てもわかるし共感できる話になっているとは思いますね。
自粛期間中に「大切な人たちが身近にいる」と実感できた
――2020年は、新型コロナウイルスの影響で予定していた舞台が相次ぐ中止となり、1~2月に上演されたミュージカル『フランケンシュタイン』ぶりの出演になります。自粛期間を経て、なにか意識の変化などはありましたか?
僕は神奈川出身なんですけど、近くに兄夫婦もいて会おうと思えばいつでも会える環境。それでも自粛期間中は一人で過ごして、家族や仲のいい友だちと毎日連絡を取り合っていました。
みなさんそうだったと思うんですけど、時間だけはたっぷりあったので電話しながらお酒を飲んだりもして。その中で「あ、一人じゃないんだな」っていう絆みたいなものをより実感したというか。こういう人たちがいるから生きられているんだなって思いましたね。
――たしかに人と接触できないことで、当たり前の大切さに気付いた方も多いと思います。
とくに身近な人に感じますよね。たとえば僕の祖母が特別養護施設にいて、当然ですけど自粛期間中は入れてもらえなかったんです。久しぶりに会ったのは窓越しの対面だったんですけど、祖母が「ドラマ見たよ。頑張って」とかって応援してくれて。
普段なら月に1回ぐらい遊びに行って、「頑張って!」なんて言いながら肩揉んでバイバーイって帰るだけだったんです。コロナでそういう日常がなくなって、それでも役者の自分を応援してくれる人がいるっていうありがたさを感じましたね。ファンのみなさんを含め、応援してくれてる人たちのために頑張らなきゃと思いました。
一方で、コロナによって僕なりに嫌なことがあったりもして。きっと僕だけじゃなく、いろんな種類の闇や傷ができちゃった方ってけっこういると思うんですけど……。ただ、そういう時間を経たことで、より「素直に生きようかな」っていう考えになりましたね。
植え付けられたり押さえ込まれたりっていうのをやめて、「嫌なものは嫌だ」って言っていいんじゃないかなって。仕事もそうだし、人付き合いもそうだし、無理に疲れることをしなくていいと思うようになりました。きっとこうなったのも、「大切な人たちが身近にいる」と実感できたからでしょうね。