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細田佳央太インタビュー 『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』「視点ひとつで大きく解釈の変わる物語になると思います」(後編)

INTERVIEW

2023年8月11日(金・祝)より世田谷パブリックシアターにて『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』が上演されます。

本作はフィリップ・リドリーによる児童小説を原作として、まつもと市民芸術館を拠点として活動する劇団 TC アルプのため、白井晃氏が 2012 年に創作した作品。これまで多くのフィリップ・リドリー作品を手がけてきた白井氏が「ぜひとももう一度」という気持ちを抱いていた今作を、成長著しい若き俳優たちと共に、「いま」を生きる子どもたちのための「せたがやこどもプロジェクト 2023」《ステージ編》の作品としてリクリエイションします。

物語では街の中心にそびえ立つ巨大なタワー(Shadow Point)を軸に、その街に暮らす 3世代にわたる人物たちが、愛や憎しみ、喜びや悲しみとともに生きる様子が、日常要素を交えながら幻想的に描かれます。

主人公メルセデス・アイスを演じるのは、NHK大河ドラマ『どうする家康』信康役での熱演も記憶に新しい新進気鋭の細田佳央太さん。白井演出作品に感銘を受け出演を熱望していたという細田さんですが、白井氏は映像作品で活躍する細田の演技に以前から注目しており、今回満を持して主人公のメルセデス・アイス役への抜擢となりました。

また、メルセデスの幼なじみで純粋な女の子ヒッコリー役を務めるのは舞台を中心に活躍し、実写『リトル・マーメイド』の吹替版アリエル役でも話題の豊原江理佳さん。メルセデスの母ロージー役は、NHK 連続ドラマ小説「おちょやん」でみせた繊細な演技が注目され、映像作品と舞台作品での活躍がめざましい個性派の若手俳優・東野絢香さん。さらに、若手ながらも舞台のみならず映像作品などでも多く活躍している篠原悠伸さん、名村辰さん、大場みなみさん、斉藤悠さん、今泉舞さんという演技派の俳優たちが揃いました。

そして物語全体を支える影のタワーの作業員(作品全体のナレーター)役を、白井演出作品への出演経験があり白井氏が絶大な信頼をおく俳優・松尾諭さんが演じます。

今回、THEATER GIRLが取材を行なったのは、主人公メルセデス・アイス役の細田佳央太さん。インタビュー後編では舞台稽古への思いや、お芝居をする際に大切にしていること、自分なりのこだわりや今欲しいものについてたっぷりと伺いました。

インタビュー前編はこちら

稽古では「みんなで役や作品を作っていくのがとても楽しみ」

――これから稽古に臨むにあたっての心境や、期待していることがあったら聞かせてください。(取材時は稽古期間前)

稽古というものがあるだけでありがたいです。映像作品だとなかなかないですし、本読みだってあるかないかは作品によりますから。それに、稽古を通してみんなで役や作品を作っていくのが今はとても楽しみで、そこに期待しています。

――台本を拝見しましたが、語り手と演者のセリフがテンポよく紡がれているので、白井さんの演出によって舞台上にどういった情景が立ち上がってくるのか、とても興味深いです。

そうなんですよね。「このシーンではこういうことをすればいいのかな?」と思いながらも、まだ想像ができるだけで、実際にどう動くのがいいのかは分からないですし。映像作品の台本を読んだ時ほどには「こういうことをすればいいんだろうな」という解釈には行き着けていないのを感じるので、多分いろいろと大変なこともあるだろうなと思います。

けれど、挑戦しかないですし、知らないことしかないし、吸収することしかないので。だからそこに対しての恐怖心や緊張はないです。初めからはできなくて当たり前だと、ある意味割り切っているので。

――では、稽古前に何か準備をしようというよりは、フラットに臨もうという心境でしょうか。

最低限の役についての考えは持っていたほうがいいと思うのですが、それがせっかくの稽古の弊害になるんだったら、ないほうがいいとも思っていて。どこまで準備をすればいいか分からないけれど、映像の時にしている準備はしていこうかなと思っています。

――今作は「せたがやこどもプロジェクト2023」《ステージ編》ということで、「劇場をもっと開かれた場に」「子どもたちに劇場空間を存分に感じてほしい」という思いの元で上演されますが、細田さんご自身が初めて舞台作品をご覧になったのはおいくつの時でしたか? 

初めて観たのはいつだろう……かなり前のことなので曖昧になってしまっていて……。

――では、ご自分の中で「舞台を観た」という記憶が鮮明なものだと、どれになりますか?

『マーキュリー・ファー』ですね。絶対、圧倒的に。

お芝居をする時は全力投球が最低ライン、その意外な理由

――細田さんがお芝居をする際に大切にしているのはどんなことですか?

お芝居をする時には最低限全部全力投球でやるようにしています。

――全力投球が最低ラインとは、かなりのストイックさですね。

というのも、本当によくないことですが、余裕ができると無意識に力を抜く瞬間があるように思うんです。自分にカメラが向いていない時とか。こんなのこの年齢で言うことじゃないし、思っちゃいけないことだと分かっているんですけど、無意識のうちにどこかでやってしまっているんじゃないかなと感じていて。最近ますます「本当にこれでいいの?」と思う瞬間が増えているんです。

それは監督を信じていないとかではなく、自分自身への「こなしてるんじゃないか?」「本当に考えられる限りのことを考えてやっているのか?」という気持ちからなんです。それですごく不安になることがあって。何ならもう、今、お芝居がよく分からなくなっています。だから、分からないなりにも、常に全力投球するってことだけは一番に念頭に置いて、曲げずにやっているつもりです。

――役者という生業と深く向き合ってらっしゃるからこその不安のように感じます。これまでにもお芝居が分からなくなる周期のようなものはあったのでしょうか?

いや、初めてですね。今までは撮影シーンがOKになった後で「本当にこれでよかったのかな?」と思うことはあったんですけど、カメラが回っている時に分からなくなるのは初めてです。なんか、シンプルに不安なんです。ただセリフを言っているだけになっていないかとか。

――役者でもない素人が何を言ってもという感じにはなってしまいますが、これを越えられたら、また何か先の景色が見えそうな感じがします。

だと思います。今のところ自分は、この感覚がいいものだとは思っていないんです。とはいえ、それをどうやって解決すればいいかもまだ見えてはいないのですが……。何かきっかけがあるのかもしれないですし。

――舞台への挑戦で何か掴めるものがあるかもしれないですよね。

そうですよね。それこそ本当に(舞台ではお芝居に)100%没入できますから。

傘をどうしてもきれいにたたみたい「変なところで神経質なんです」

――では、作品にちなんだ質問も伺わせてください。メルセデスはわがまま放題に思うまま振る舞いますが、細田さんご自身には「これについては譲れない」という自分なりのこだわりはありますか?

変なところですごく神経質なところがあって。ほかの人に強制はしないんですけど、傘とかめっちゃきれいにたたみたい人間なんですよ。それがビニール傘であっても、新品かの如くのスタイルであり続けてほしいんです。そのためには(たたむ時に)手がどれだけ濡れてもいいです。

――(一同笑)。

あとは、ハンバーガーを食べ終わった後に、絶対に包み紙をたたむとか。それが良くないことっていうのは分かっていてもやってしまうんですよね。

――何となく分かります。たたんだビニール傘が不恰好に膨らんだりしていると、確かに気になりますよね。

そう、気になるんですよね。気持ちよくないので(苦笑)。っていうところは譲れないかもです。

――けっこう潔癖だったりします?

いや全然! 片付けできない人間なので。

――キッパリ言い切りましたね(笑)。

変なところだけなんですよね。マンガは巻数が順番通りに並んでないと気が済まないとか。でも片付けはできないし、潔癖でもないです(笑)。

欲しいものは“物欲”「それに勝る欲しいものは今はないです」

――作中でメルセデスはいろいろなものを次々と欲しがりますが、細田さんご自身が今欲しいものを挙げるとするなら何でしょうか?

物欲ですね。僕、物欲がないんです。だから欲しいなと思って。

――やや禅問答のようになっていますけども(笑)。

なんかすみません(笑)。 具体的なものが出てこないってところが、すでに物欲のなさの表れだなって感じなんですけど。この前、現場で「物欲ある?」と聞かれたので「ないです」と答えたら、「そんなんじゃダメだよ」と言われて(笑)。

――まさかのダメ出しですね。

「そうか、ダメなんだ」って思いました。その方が言うには「お金なんかどんどん価値が下がるけど、ものは価値が上がるものが多いから、そのためにはものを持ってたほうがいい」ってことらしいんですけど。でも別に何か興味があることがあるわけでもないので、何を買っていいのか分からなくて。そしたら、おすすめされたのが300万のライカのカメラでした。

――それはまた極端な(笑)。

「買えないです」って言いましたけど(笑)。でも今、物欲がすごく欲しいです。

――形があるもの以外でもと思ったんですが、例えば細田さんのお好きな“NBAを観に行く時間”とか、そういうのはどうでしょう?

たしかに、言われてみるとなかなか機会がないですね。でも今、それを最優先で欲しいとは特に思っていないかなって。というのも、テレビで観れちゃうんですよね。ナマで観られるに越したことはないですけど、今の一番ではないかもしれないです。物欲に勝る欲しいものは今のところないですね。

この作品を観ることで「考える楽しさも知ってもらえたら」

――細田さんが何か欲しいと思えるものに巡り会えるよう願っています(笑)。では最後に、読者の方へ向けたメッセージをお願いします。

先ほど言ったことと重なってしまうんですが、年代や置かれた環境、子どもがいるのかいないのか、そういったところひとつでも大きく解釈が変わってくる作品になると思います。そしてこれは舞台、映画問わずなんですが、観た後に「面白かった」で済ますのか、それとも「何が面白かったのか」まで掘り下げて考えるのかで、観る側の筋トレの強度が変わると思ってるんです。

――筋トレ! 思考力を鍛えるわけですね。

話すにしても文字にするにしても、言葉にするってすごく大切ですから。僕自身も白井さんの作品に触れることで、考えないと舞台を観ていて一気に置いていかれる感をひしひしと味わっています。『メルセデス・アイス』を観ながらも考えてほしいし、観終わった後にも考え続けて自分なりの解釈をしていただけたらと強く思いますね。そしてそれぞれの答えを見つけるまでが『メルセデス・アイス』だと僕は考えているので。考える楽しさも知ってもらえたらいいなと思います。

取材・文:古原孝子
Photo:梁瀬玉実

インタビュー前編はこちら

公演概要

せたがやこどもプロジェクト 2023《ステージ編》
『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』

【原作】フィリップ・リドリー
【翻訳】小宮山智津子
【演出】白井晃

【出演】細田佳央太 豊原江理佳 東野絢香
篠原悠伸 名村辰 大場みなみ 斉藤悠 今泉舞
松尾諭

【日程】2023 年 8 月 11 日(金・祝)~20 日(日)
【会場】世田谷パブリックシアター

【チケット料金】(全席指定・税込)
一般:8,000 円 18 歳以下: 0 円 (各回 150 枚限定/先着順/要予約・発券手数料(110 円)/当日要身分証明書)
※ほかU24会員割引など各種割引あり ※託児サービスあり ※車椅子スペース取り扱いあり
※18歳以下限定の無料招待あり
 この夏、劇場でとびきりの演劇体験を!
 (各回150名限定、先着順、要予約/発券手数料、当日要証明書)

【チケット取扱い】世田谷パブリックシアターオンラインチケット https://setagaya-pt.jp/
世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10~19 時)

【公演公式 HP】https://setagaya-pt.jp/stage/1892/

【公式 SNS】
『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』公式 Twitter @mercedes_ice
世田谷パブリックシアター公式 Twitter @SetagayaTheatre

【お問合せ】世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515 (10:00~19:00) https://setagaya-pt.jp/

【主催】公益財団法人せたがや文化財団 【企画制作】世田谷パブリックシアター 【後援】世田谷

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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