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内海啓貴×ウォーリー木下対談インタビュー 「VR演劇」『僕はまだ死んでない』「この作品がVRで演劇を観るきっかけになってくれたら」(前編)

INTERVIEW

昨今のコロナウイルス感染症の影響により、集客型の演劇の上演が難しい中、それでも演劇ならではの体験と、それ以上の臨場感を届けたいという想いから立ち上がった「VR演劇」。新しい演劇体験を目指して、最新テクノロジーのVR(ヴァーチャルリアリティ)技術を活用し、演劇を360度で楽しんでいただける今できる演劇を形にした作品となっています。

今回配信される『僕はまだ死んでない』は、STAGE GATE VR シアターvol.1『Defiled-ディファイルド-』、vol.2『Equal-イコール-』と、リーディングスタイルで行われた2作品の上演を経て、次なる新たなVR演劇として制作されました。

THEATER GIRL編集部は、原案と演出を務めるウォーリー木下さんと主演を務める内海啓貴さんにインタビューを敢行。前編では、今作で目指したいことや舞台や映像作品との取り組み方の違いなどについて、たっぷりと語っていただきました。

インタビュー後編はコチラ

VRは自分で観る場所を決められるのが面白い

――まずは、今作で目指したいことやどのように発想が生まれたのかうかがえますでしょうか。

ウォーリー木下: 去年の4~5月頃にコロナの影響でいろいろな公演が中止になってしまって。 7月・8月にはシーエイティプロデュースの江口さんと、『スケリグ』という作品の上演を予定していて、結果的にそれは上演できたんですけど。でもまたその後、秋口に予定していた公演が中止になってしまったんです。もちろん、演劇界全体が未曽有の状態ではありましたし、丁度その時期にいろいろなところが配信をやり始めたんですよね。上演が可能になってきても無観客配信をしているところもあって、「こういう方法もありますよね」といった話をしていたんです。

あの頃、僕の中で「何をもって演劇と言っていいのか」と感じていたんですが、そんな中、江口さんから配信の一つの手法として「VRの演劇をやりませんか 」とお話をいただいて。実際にそれを観させていただいて、これは演劇だなと思ったんですよね。配信なんだけど、限りなく演劇に近いなと。

なぜかというと、演劇ってお客さんに編集権が委ねられているメディアだなと思うんです。例えば、小説にしても映画にしてもテレビにしても音楽にしても、編集されているものを僕らは受け入れて楽しむしかない訳で。でも、音楽ライブにもいえますけど、演劇だけはどこをどんなふうに観てもいいというか。実際僕が演出している舞台でも、ずっと推しの人しか観てなかったなんてことを聞いたりもしますし(笑)。 でもそれも楽しみの一つだし、それが演劇なんじゃないかなと思うんです。

僕は、わりと昔から意図的に舞台上の情報を多くして、一回ではわからないような作品をつくるのが好きなんです。この、“わからない”というのが、演劇の演劇たる所以だなと思っていて。なんで演劇ってわかりづらいかっていうと、編集されていないからすごく生々しいところだと思うんですよね。

もちろん、あたかも編集したかのような演劇も世の中にはたくさんあるんですけど、それでも演劇がやっぱりどこかわかりづらいというか、いい意味でなかなかハイアートの部分から抜けられないのはお客さんが能動的に参加しないと楽しめないメディアというか。わりと、美術館に行って絵画を観るときに近いんじゃないかと思うんです。例えば、端っこに描かれている人物がじつはローマ教皇で、この人がこっちを見てるからっていう文脈がわかると「ああなるほど!」みたいに思うじゃないですか。

そうやって自分で観る場所を見つけていくというか、参加していく楽しみ方があるのが演劇だなと思っていて。だから、カメラ割りして配信されてる演劇作品は、僕は映像作品だと思っているんです。ただ、VRに関しては、自分で観る場所を決められるんですよね、それが面白いと思って。

それで360度演劇というものをVRでつくってみようと。まあ逆に言うと、これは家でしか、VRでしか楽しめない演劇だとは思っています。劇場にお客さんを一人入れてやることもできるんですけど。なかなか費用対効果的には大変なので(笑)。自分が真ん中にいて、周りに起こるドラマを自由に楽しめる作品なら、映像配信であってもかなり演劇のスピリッツを持ったものになるんじゃないかと思うんです。

VR撮影は自分の部屋で一人練習している感覚

――普段の演劇や映像作品とは、取り組み方の違いはありましたか?

内海啓貴:今回は僕主観のVR映像になるので、今までにない緊張感がありました。映像にも舞台の稽古や本番にもない緊張感がこの丸い筒のようなセットの中にあって。普段の舞台でも気が抜けないんですけど、さらに気が抜けないなというのをすごく感じました。でも、蓋を開けてみたらどう観られているかという違いだけで、やってることは舞台とそんなに変わらないんですよね。

でも、普段稽古や映像芝居って誰かが観ている中でやってるじゃないですか。映像にしても、カメラマンや監督がいますし。ただ、今回は見えるところには誰もいないっていう(笑)。 セットの中ではカメラと僕だけなので自分の部屋で一人練習している感覚と似ていました。長いシーンが多くて、セリフを間違えたらカットもできないためまた初めからやり直しになるので、そういった緊張感がありましたね。

あとは、カメラを冷やさないといけない時間があって。このカットを撮ったら30分休んで、また僕のシーンからとか。そういう、いつもにはないプレッシャーと緊張感がありました。 演者としても新鮮ですし、観ているお客さんも新しい感覚で観られてとても面白い作品になっていると思います。

こういう役だと思っていたのをいい意味で裏切りたい

――今作は内海さんの目線で撮られているということですが、脳卒中で倒れて入院して……という役柄的にベッドに横になって演技をする時間が多かったのでしょうか?

内海:撮影では、カメラが僕の目線になるのでベッドにはいなかったですね。でも、稽古中は僕がベッドにいて、みんなの芝居をずっと動かずに観るというお芝居をしました。しかもウォーリーさんが、みんなにも気持ちをわかるようにって、僕の位置にみなさんが代わりに入ってくださったりもして。

自分の思っていることを言葉にできないってとにかくストレスなんですよね。セリフにあるように「やってられるかバカヤロウ」という言葉を相手に伝えるだけでも、文字盤を使って、5分以上かかっちゃいますし。やっていくにつれて、自分の過去や想像の世界で生きることしかできなくなっちゃうんです。

今回、僕が幽体離脱みたいに出てくるシーンもあるんですけど、そこは全く違う白井直人なんです。その部分は、今までみんなが直人ってこういう役なんだって思っていたのを、いい意味で裏切りたいなと思っていて。倒れてから想像の世界や過去を巡って、直人が何を思ったのかということをすごく大事にして、この病気になったからこそ成長したっていう姿を見せたいなとすごく感じました。

――ウォーリーさんは作品の中で映像を使うことも多いですが、映像を使う作品に特に面白さを感じているのでしょうか?

ウォーリー:舞台で使う映像って、例えばプロジェクションマッピングやLEDモニターを使うのも、あくまで見せ方の一つとして面白いから使おうというくらいで。今回は、全て映像作品なので、そういう意味だとこれまでの舞台でやっている映像演出と何もリンクはしてないですね。

ただ、じつは10分くらいのシーンは、基本ロングショットで最初から最後まで止めずに、いわゆる演劇みたいに撮ってるんです。そこに、ところどころギミックとしてCGで作られた映像が入ってきたり、海岸でロケしているシーンが一瞬インサートされたり、演劇を観ているようでちょっと映画を観ているような感じの演出もあるので、その辺りはすごく不思議な作品になってるんじゃないかと思います。

申し訳ないくらい難しい役柄

――内海さんの演技でここがよかったと感じたところはどんな部分ですか?

ウォーリー:いやぁすごい難しい役で。つまりVRゴーグルをつけて楽しむお客さん役なんですよね。主人公は、ロックトインシンドロームという、いわゆる閉じ込め症候群と言って、意思はあるままで体が一切動かなくなる状態になってしまった人なんですけど。それを、お客さんがゴーグルをつけてポテトチップスとかを食べながら観るわけで。

でも劇中で、あまりにも周りの人が「お前大丈夫か?」とか、文字盤で一生懸命話してきたりするので、どんなに非積極的なお客さんでも作品を観ているうちに、ちょっとは「体が動かなくなったらどうなるんだろう」と考えるような仕組みになっているんです。

丁度そういう感覚になったところで、今度は急に内海くんの姿がワーッと出てくるという。だから多分、お客さんの中ではいろんなことが混同されて変な感覚が芽生えると思うんです。例えば、女性も観る訳じゃないですか。でも、観る方が、「私は女性だから、内海くんとは違うから関係ない」みたいな感覚になったら良くないので。だから、役作りをするというよりは、お客さんがどうとでも自分を反映できるような感じというか、すごくフラットなお芝居をしてくれたと思っています。

ラストシーンでも最後の最後まで、この人が誰なのかわからないまま物語を終えてくれて。こういったシリアスなテーマなのですが、「俺は生きるぞ、死ぬぞ」ということではなくて、そもそも潜在的にお客さんが思っていることを、ちょっとだけ引っ張り出してあげるような作業をする役なんですよね。だから申し訳ないくらい難しい役だと思います。

内海:すごく悩みましたね。フラットという意味もこもってるんですけど。直人の中で成長はしているので、そこは絶対に見せたいというのもありつつ、くどくやるのも違うなと思うし。辛いんだけど、想像の世界では「俺はこんなに幸せなんだぜ」ってところをうまく対比して見せられたらいいなと思いました。

そんなに暗い作品はつくりたくないなっていうのも一つあって。こういう生死に関わる作品ってどうしても暗くなっちゃうので、そこは本当にフラットにつくって、お客さんがどういう角度からも想像できるような役のつくり方をしました。

――内海さんは稽古だけ皆さんと一緒で撮影は別々だったとのことですが、共演者の皆さんの演技から何か影響されたことはありましたか?

内海:すごくありました 。自分でも事前に同じ病気を描いている映画とかを観て調べたりしたんですが、実際に稽古に行って、みんなのお芝居を観ていると、ストレスっていう言葉では表しきれないくらい、想いを言葉にできないってこんなに辛いことなんだって思いました。皆さんの芝居がリアルすぎて、動いちゃいけないのに笑っちゃうこともありましたし(笑)。

幼馴染の碧兄が面白いお芝居をして「ふふっ」って笑っちゃったりしたんですけど。稽古場では「今すごく笑ってるんだぜ」っていうのも伝えられるんですけど、実際にはこれも伝えられなくて辛いなっていう思いも皆さんから受け取りました。

取材・文:桑原梨沙(THEATER GIRL編集部)
Photo:比留川義一

インタビュー後編はコチラ

公演概要

新感覚演劇体験「VR 演劇」『僕はまだ死んでない』

配信チケット販売: 販売中~2月28日(日)23:59
※期間中何回でも購入可。

配信期間: 2月1日(月)18:00~3月7日(日)23:59 
※最終視聴は3月7日(日)23:59までとなります。

視聴期限: 7日間   
配信チケット価格:3,500円(税込)

公式サイト:https://stagegate-vr.jp/

原案・演出:ウォーリー木下
脚本:広田淳一

【出演】
白井直人:内海啓貴 白井慎一郎:斉藤直樹 児玉碧:加藤良輔
青山樹里:輝有子 白井朱音:渋谷飛鳥 白井直人(幼少期):瀧本弦音 児玉碧(幼少期):木原悠翔

主催・企画・製作:シーエイティプロデュース
撮影・技術協力:アルファコード

あらすじ

僕は病室にいた。
父と、僕の友人が何やら話をしている。が、体がぴくりとも動かない。一体僕に何が起こった?
医師らしき声も聞こえる。「現状、一命を取り留めていることがすでに大きな幸運なんです」
……なるほど。そういうことなのか。

デザイナーとしての会社務めを半年前に辞め、油絵に打ち込んで夢だった画家への道を歩み始めた矢先だった。脳卒中で倒れ、自分の意志で動かせるのは眼球と瞼だけ。「やってられるか、バカ野郎!」とたった一言伝えるのに5分以上かかる。

そして病室には、
飄々と振る舞い軽口も叩く父、慎一郎。
兄貴分の幼馴染で、親身になって回復を願っている碧。
離婚の話し合いが進み、新たな生活に踏み出し始めていた妻、朱音。
そして、担当医である青山。

「良く死ぬことも含めての良く生きること」
直人と、直人を取り巻く人々それぞれに、胸に去来する想いがあり…。

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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