太田基裕インタビュー 『ライムライト』 「不器用でも愛おしいと思ってもらえたら嬉しい」(後編)
2024年8月3日(土)より日比谷 シアタークリエにて、音楽劇『ライムライト』が上演されます。
舞台人の儚い宿命と、残酷なまでに美しい愛の物語を、ノスタルジックに描いた映画『ライムライト』。この不朽の名作を「チャップリン映画の“マイ・ベストワン”」と語る石丸幹二さんが、老芸人・カルヴェロ役で三度目の出演を果たします。そして、カルヴェロを献身的に支えるヒロインのバレリーナ・テリー役を朝月希和さんが、テリーに想いを寄せる作曲家・ネヴィル役を太田基裕さんが演じます。アカデミー作曲賞を受賞した名曲「テリーのテーマ」(“エターナリー”)にのせて、再び感動の幕が上がります。
THEATER GIRLは、ネヴィルを演じる太田基裕さんにインタビュー。後編では、舞台に立ち続ける思いや役者を続ける上でモチベーションとなっているもの、本作の上演時期にちなみ“夏の思い出”など、たっぷりと語っていただきました。
役に振り幅があるほど楽しい
――本作は舞台人の内情が描かれていますが、太田さんにとって「舞台に立つこと、演じること」というのはどんな意味を持ちますか。
作品ごとに役を通して感じていることをどう表現するか、それを考えることで自分を見つめ直す作業をしていると思います。その過程で気付いたものが作品にも影響して、ファンの方にもなにかを感じてもらえたら嬉しいですね。
――太田さんは、グランドミュージカルから2.5次元作品まで幅広いジャンルの作品に出演されていますが、出演作を決める際に大切にしていることはあるのでしょうか。
縁やタイミングだと思うので、「この作品だから」ということはそんなにない気がします。
――そんな中で、まったく違う役柄を演じることが続くこともありますよね。
まったく違うからこそ、楽しいです。役に振り幅があると、エネルギーの出る場所が違って、また違うエンジンを自分の中から探して1から作ることができるので。
役柄の性格などは、けっこう日常にも影響していると思います。その方が演じるまでの助走が少なくて済むので。急にスイッチを入れると疲れちゃいますし(笑)。マインドとしてはなるべく近いところに置いたまま日常を過ごして、演じるとなったらフッと入れるようにしています。
――本作のネヴィルだといかがでしょう。
すごく穏やかな気持ちでいられます。
「ロミオ&ジュリエット」のティボルトは常にピリッとして、反骨精神的な気持ちでいないと演じられなかったので、そういう気分になれる曲を聴いたり、映画を観たりしていました。今は穏やかな曲を聴いたり、朝はラジオを聴いてゆったりしたり、ロンドンにいる一般人であるということを意識しながら過ごしています。
舞台に立つときは今でも緊張する
――2009年に舞台デビューされてから15年ほどたちますが、長く役者を続ける上でのモチベーションとなっているものは何でしょうか。
お客さんですね。やっぱりお客さんがいないとやる意味がないと思うので。ただ表現したいだけなら一人でもできますし。それを共有して、共感してもらって、「また明日頑張ろう」と思っていただいて、互いを支え合っていくということを15年間やってきた気がしています。
僕は、「ただ自分が表現したい」というタイプではなく、表現を通して誰かの支えになることで「やっていて良かった」と思えるので。続ける意味として自分も納得できています。いつまでできるのかはわかりませんが、できる限りは続けていきたいですね。この作品を観るといろんなことを思ってしまいます。
――やっぱりファンの方の声が届くと嬉しくなりますか?
ファンの方が自分のことを見てくれるだけでも嬉しいですし、それぞれの人生がある中で「作品を観て元気になりました」という手紙をいただいたりすると、やっている意味があったなと思えます。それが届いたということが感じられるとやっぱり嬉しいです。
――長い俳優生活の中で、今でも忘れられない出来事はありますか。
考え出したらいっぱいありますが……初舞台は辛かった思い出です。心も体も限界でやっていたなと思います。でも、乗り越えられるということを知れたので「辛くて良かった」とも思っています。それと同時に、そこで初めて自分のファンの方々にも出会えたので、頑張ったからこそだなと思いますね。
長くやっている分、慣れてしまった部分もあるかもしれないですが、やっぱり毎回すごく怖くて、むしろ年々それが増していると思います。20代後半は、どこか「いけるでしょ」みたいな気持ちもあった気がしますが、元々自信があるタイプでもないので、言葉の重みや表現するという責任も日々増しています。
――では今も、舞台に立つときは緊張されたりするのでしょうか。
めちゃくちゃ緊張します。初日とかは足が震えたりしますし、千穐楽ももちろん緊張します。とくに初日から配信があったりするともう(笑)。
――確かに、初日から配信があるとさらに緊張しそうですね。そんな本作ですが、上演時期が8月でまさに夏です。太田さんの夏の思い出を教えてください。
みなさん、僕に夏の思い出はなさそうというイメージだと思うのですが……(苦笑)。大学生のときは友達の車で海に行きました。それはけっこう爽やかな思い出です。Tシャツを着て、夏メロをかけて「青い海と青い空!」みたいな(笑)。すごくきれいな景色だったので、今でも覚えています。
音楽が好きなので夏フェスも行ってみたいのですが、お仕事があるのでなかなか。いつか年老いて仕事が落ち着いてから、余裕があれば行きたいですね。
――では最後に、本作を楽しみにしている方へ、メッセージをお願いします。
僕が演じるネヴィルは、かなり不器用な人ですが、真っすぐで純粋なところもあるので「不器用でも愛おしい」と思ってもらえたら嬉しいです。
この作品はいい意味で地味なんです。でも僕はそういうのがすごく好きで、ゆったりしていて穏やかで、心の隙間にスーっと入っていくような音や言葉が心に寄り添ってくれるものになっています。ぜひ癒されに来てほしいですし、カルヴェロの情熱的なメッセージの中にある熱いものを明日への活力として持って帰っていただけたら嬉しいです。
取材・文:THEATER GIRL編集部
Photo:梁瀬玉実
公演概要
音楽劇『ライムライト』
2024年8月3日(土)~2024年8月18日(日)
シアタークリエ
スタッフ:
原作・音楽:チャールズ・チャップリン
上演台本:大野裕之
音楽・編曲:荻野清子
演出:荻田浩一
出演:
石丸幹二 / 朝月希和 / 太田基裕 / 植本純米 / 吉野圭吾 / 保坂知寿 / 中川賢 / 舞城のどか
ヴァイオリン:岸 倫仔 リード:坂川 諄 アコーディオン:佐藤史朗 ピアノ:荻野清子