水田航生インタビュー 『ロボット』 「人間の生き方や労働のことを考えるきっかけになったら」(後編)
2024年11月より東京・シアタートラムにて上演される、世田谷パブリックシアター主催公演『ロボット』。
チェコの国民的作家・劇作家カレル・チャペックが100年前に描いたSF戯曲の金字塔が、ロボット社会が現実味を帯びつつある現代、ノゾエ征爾さんの演出によって上演されます。出演には水田航生さん、朝夏まなとさん、渡辺いっけいさんらが名を連ね、初共演となる3人の化学反応が起きる2024年冬が待ち遠しいというファンは多いでしょう。
今回THEATER GIRLでは、ロボットによる人類抹殺計画後にただ1人生き残るロボット研究者・アルキスト役を演じる水田航生さんにインタビュー。後編では、役者人生のターニングポイントとなったシアタートラムの思い出をお伺いするとともに、役者としてのこれまでとこれから、“もしアルキストの立場になったら?”といったお話をお聞きしています。
何年経っても鮮やかに思い出せるターニングポイント
――世田谷パブリックシアター主催公演には過去に何度か出演されています。これまでの公演で印象的だったことはありますか。
2015年上演の『マーキュリー・ファー Mercury Fur』で白井晃さんとご一緒させていただいたことは、何年経っても忘れられない思い出ですね。シアタートラムのロビーで朝早くから、白井さんが稽古をつけてくださったのを毎回思い出します。お金を払ってもできない贅沢な経験じゃないですか。
単純に当時の自分は何もできなかったんですが、それでもあれだけの熱量を持って白井さんが稽古してくださったことは本当に鮮明に覚えていますし、今の自分のお芝居に対する基盤を作ってくださった経験だったなと思います。取材などでターニングポイントを聞かれるといまだにこのお話をさせていただくくらい、何年経っても色鮮やかに覚えています。
大人になったと実感する瞬間は? 第一線で走り続けてきた水田航生のこれまでとこれから
――先ほど、30歳を超えてというお話もありましたが、20代と30代で変化を感じる部分はありますか。
自覚的に「変わったな」と感じることはあまりないんです。実は昔からそういうところがあって。本当に毎回毎回、今に必死で、目の前の作品に向かうのでいっぱいいっぱいというか。その時々で学ばせてもらうことはたくさんあるのですが、果たして何が変わっているのかは……。
自分ではよくわからないのですが、それこそ白井さんが去年舞台を観に来てくださって、「大人の芝居をするようになったね」と言ってくださいました。そういうのを聞いて「僕ってそうなんだ」と知る感じですね。
変化とは少し違いますが、「ロミジュリ」(ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」)期間中は、共演者が自分よりも若い方たちが多くて、一緒にいると、そういう大人になりたくなかったけど、「若いな」って思うんですよ(笑)。ネガティブな意味じゃなくて、元気だなとか楽屋でたくさん喋っているなとか。
自分が若い側のときは、そういうことを言う大人になりたくないなと思っていたのですが、30歳を超えた今、そう思うようになった自分がいます。そういう意味では、自分もそれなりに大人になったんだなと思いますね。
――今を懸命に目の前の作品に向き合ってきたとのことですが、ここから先、目指す役者像はありますか。
具体的に「こうだ」というものはないんです。言葉にできないような漠然としたものはあるのですが、これまでもはっきり「こうなりたい」というものを持たないでやってきたので。
器用にできないタイプなので、1つの作品に全身全霊、全力で集中してきましたし、結局はその積み重ねでしかないですし。しっかりと取り組んだことが次に繋がって、それがまたその次に繋がって……。その繰り返しが、次の10年後に繋がっていくのではという感覚です。
逆に具体的な目標を立ててしまうと、そうならなかったときにへこんじゃう気もしますし(笑)。目標も日々変わっていくだろうし、これからもそういうふうに走りながら、新たな景色を見られることを楽しみにしています。
この前、『ルパン三世』を観ていたら、ルパンが「自分の人生の視聴者は自分しかいない」といった内容のことを言っていたんです。それがすごく「いいな、その通りだな」と、胸に落ちてきて。
たしかに僕の人生を、この自分の目で見ているのって僕しかいない。その自分がワクワクするような人生を送って、人生の最後に「楽しかった」って思えたらいいですね。
「生にしがみついていると思う」思い描く“もしも”の世界
――作品にちなんでの質問です。ご自身がロボットの世界に生きる1人の人間だった場合、最後まで手放したくない“人間らしさ”とはどんなものでしょうか。
アルキストと同じなのですが、すごく生にしがみついていると思います。アルキストは人間なので死を選ぶこともできるけど、彼はそれを選ばなかった。それはアルキストという役を捉えるうえで大事な部分だと思いますし、自分としても共感できる部分だなと思います。
彼は生にしがみつくのに、口ではすぐ「殺してくれ」と言うんです。その弱さというか強がりもすごくわかる。だから、僕も彼のようにどこまでも生きようとするんだろうなと思います。
――その状況下で、お芝居はどうされますか? 1人の人間として演じ続けますか?
なるほど、面白い質問ですね。1回ロボットだけの劇団を観てから決めたいですね。その劇団がめっちゃおもしろかったらやめようと思うかもしれないけど、イマイチだなと思ったら、やっぱり本物の人間の僕がいたほうがいいなと思うかもしれません。
――ロボットが娯楽をどう捉えてロボット社会に取り入れているのか、想像すると難しいものがありますね。
そこは難しいですね。この作品もロボットに人間性を入れてしまったからこそ起きる出来事を描いていますが、ロボットが悪いのではなくて、ロボットに人間性を入れてしまったから、どこか不完全なものになってしまっているわけで。何が人間的なのか、何がロボット的なのか、機械的なのか……。
――この作品を観た人も、観劇後に今の水田さんと同じようにいろんなことを思わず考えてしまうかもしれませんね。それだけ深いテーマを内包した作品ではないでしょうか。
そうなんですよ。もうずっと「人間的」という言葉が堂々巡りしています。人間的ってなんなんでしょうね。
「人間的」とはなにか? 「お客さん次第」な本作に懸ける思い
――ここから作品が本格的に動く中で、思考の海が待ち受けていそうですね。では最後に、この作品を楽しみにしている方々へのメッセージをいただければと思います。
100年前に描かれた作品ですが、100年経った今では、SFではないノンフィクションの部分をたくさん感じると思います。現代と地続きになっていて、考えさせられるセリフやシチュエーションが散りばめられていますが、だからといって、「こう感じてほしい、こう思ってほしい」と、舞台に立つ側の人間が具体的に言ってしまうと、「そこをピックアップすればいいんだな」と思ってしまうかもしれないので、あんまり言いたくはないんです。
「考えたくなるようなエッセンスがたくさんあるよ」ということはヒントとしてお伝えしますが、何に引っかかって、どこを掘り下げていくのかは本当にお客さん次第だと思います。『ロボット』というSF作品を観て、今の社会をどう見るのか。今生きている人間の生き方や労働のことを考えるきっかけになったらいいなと思います。
取材・文:双海しお
撮影:野田涼
ヘアメイク:菅井彩佳
スタイリスト:山本隆司(style³)
公演概要
『ロボット』
【作】 カレル・チャペック「ロボット」 (海山社・栗栖茜訳)
【潤色・演出】 ノゾエ征爾
【出演】
水田航生 朝夏まなと / 菅原永二 加治将樹 坂田聡
山本圭祐 小林きな子 内田健司 柴田鷹雄 根本大介 / 渡辺いっけい
【日程】2024 年 11 月 16 日(土)~12 月 1 日(日) 【会場】 シアタートラム
【チケット料金】 (全席指定・税込)
一般 8,500 円 / 高校生以下 4,250 円
※劇場友の会、アーツカード、U24 割引あり ※託児サービスあり ※車椅子スペース取扱あり
【チケット一般発売】 2024 年 9 月 15 日(日)10:00~
<兵庫公演>
【日程】 2024 年 12 月 14 日(土)15:00、12 月 15 日(日)13:00
【会場】 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【チケット料金】 9,500 円(全席指定・税込)
【チケット一般発売】 2024 年 9 月 15 日(日)
【お問合せ】 世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515 https://setagaya-pt.jp/
【主催】 公益財団法人せたがや文化財団(東京公演)/兵庫県、兵庫県立芸術文化センター(兵庫公演)
【企画制作】 世田谷パブリックシアター
<SNS・HP>
【『ロボット』公式 X(旧 twitter)】 @robot_sept2024
【世田谷パブリックシアター公式 X(旧 twitter)】 @SetagayaTheatre
【『ロボット』公式ホームページ】 https://setagaya-pt.jp/stage/15694/