平野綾インタビュー『チョコレート・アンダーグラウンド』「一緒に革命を起こしているような気持ちで、飛び込んでいただけたら」（後編）

2025.06.01

INTERVIEW

2025年6月5日（木）より東京・よみうり大手町ホールを皮切りに大阪、富山にて、ミュージカル『チョコレート・アンダーグラウンド』が開幕します。

日本でもファンの多いアレックス・シアラーの人気小説『チョコレート・アンダーグラウンド』(金原瑞人訳・求龍堂刊)を脚本・作詞高橋亜子×音楽オレノグラフィティ×演出石丸さち子の3人のトップクリエイターによって世界初のオリジナルミュージカル化。

『チョコレート・アンダーグラウンド』は、国民が選挙に無関心だったために、極端な政党が政権をとってしまい、チョコレートが禁止される物語。

主演を務めるのは、様々なジャンルの舞台で積極的な活動をしている北川拓実さん。共演には、東島京さんと木村来士さんをはじめ、平野綾さん、岡田浩暉さん、土居裕子さんのミュージカル界を代表するキャストたち。そして、浦嶋りんこさん、まりゑさん、小松季輝さん、佐藤匠さん、中川賢さん、陰山泰さんの実力者たちが約40役を演じ、この作品を支えます。

THEATER GIRLは、モファット役の平野綾さんにインタビュー。後編では、二度目だという石丸さんの演出を受けられた印象や本作の楽曲について、芸能生活30周年に向けて目指す俳優像などご自身の俳優観についてもお話しいただきました。

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石丸さんは「やりたいという気持ちを後押ししてくださる方」

――石丸さち子さんとは昨年の朗読劇でもご一緒されていましたが、今回改めて石丸さんの演出を受けられた印象はいかがでしょうか。

石丸さんは、情熱と作品にかける思いがとても強く、誰よりも元気でパワフルな方です。稽古場では常に中心にいてくださって、みんなを引っ張ってくれています。だからこそ、不安が全くないんです。石丸さんについていけば、必ず正解にたどり着けるという確信が持てるのが、本当にありがたいと感じています。

そして、やはり心でお仕事されている方なので、演出を受けていて一番心が動かされます。お芝居を見ていても、ぐっとくる場面が多くて、涙をこらえる瞬間もあるほどです。そういう姿を見ると、この方についていきたいと強く思えますし、現場もとても楽しいです。

また、同じ女性として共感できる視点も多くあります。衣裳のこだわりや細かな感覚も素敵で、休憩中には美容やファッションの話で盛り上がったりもします。偶然、全く同じジャージを持っていたこともあって、「それ持ってる！」という会話が生まれるなど、自然と打ち解けることができました。

――昨年ご一緒されたこともあって、すでに気心が知れた関係という感じなのですね。

そうですね。朗読劇では一緒にいる期間が長かったわけではありませんが、それでもすぐに仲良くなれました。その時も、音楽劇のように歌う場面があって、初回の歌稽古の時に私が「全体像を早く知りたいです」とお話ししたら、「通してみようか」とおっしゃってくださって、稽古初日に2人だけで通し稽古をしたんです。それが本当に面白くて、今でもその時の稽古の音源を聴くときがあります。

石丸さんは、やりたいという気持ちを後押ししてくださる方。だから、石丸さんが演出されると聞いて「心強い」と思いました。

――やはり石丸さんが演出を手掛けられるのも、今回出演を決められた理由の一つなのでしょうか？

そうですね。昨年の段階で石丸さんから「こういう作品がある」と『チョコレート・アンダーグラウンド』についてうかがっていて。私は原作を10代の頃に読んでいたので、「昔読んでいました！」という会話から始まりました。

そして脚本が高橋亜子さんだと聞いて、亜子さんとはディズニー作品などで関わりはあったけれど、舞台での作品はまだご一緒できていなかったので、「ぜひご一緒したいです」とお伝えしました。

また、音楽のオレノグラフィティさんとは舞台で何度か共演させていただいていましたが、作家としての作品は初めてだったので、オレノさんの曲を歌ってみたいと思ったのも大きな理由です。

――俳優としてのオレノさんとは、以前共演されていたんですね。

とても個性的で魅力的な役者さんなので、「この方が書く音楽ってどんな感じなんだろう」と興味を持ちました。「これがオレノさんの音楽なんだ！」というのが音符から伝わってきて、本当に素敵な曲ばかりです。より深くオレノさんの世界を知れたような気がします。

――「Hibiya Festival2025」でも楽曲を披露されていましたが、歌ってみての印象はいかがですか？

言葉もフレーズもとてもキャッチーで、観終わったあとに「こんなに“チョコレート”を連呼している曲は他にないな」と思えるくらい印象的です。たぶん、どこかのチョコレートのフレーズが頭に残って、ずっと口ずさんでしまうと思います。

そして、オレノさんの特徴でもありますが、同じフレーズが2度と出てこないという工夫が随所にあって、同じ歌詞でもメロディーが少しずつ変化しているんです。歌う側としてはとても大変ですが、聴く側にとってはその変化が面白さにつながっていると思います。

こうした構成のおかげで、「これはただの子ども向けのミュージカルではない」と感じられる、作品の深みになっているのが面白いですね。

――お子様にも聞き取りやすく、大人にも刺さるキャッチーな楽曲なのですね。

本当にそう思います。そこはさすが亜子さんだなと思います。1回聴いただけで覚えられるようなフレーズを作ってくださっているのが素晴らしいです。

楽曲には、可愛らしいポップな曲もあれば、私のソロ曲のようにじっくり聴かせる曲もあります。また、バビおばさんを演じる土居さんの曲も素敵で、心に響くものがたくさんあります。

大人の方々が「昔を思い出して、今を感じる」ことができるような楽曲が揃っているので、幅広い年代の方に楽しんでいただけると思います。

芸能生活30周年に向けて目指す俳優像

――2023年には芸能生活25周年を迎えられましたが、30周年に向けてどのような俳優像を目指していらっしゃいますか？

30周年を迎えると私はちょうど40歳になるんです。10歳からこの世界に入ったので、「もうそんなに経ったのか」と自分でも驚くことがあります。

でも、最初から変わらないのは「この世界が好き」という気持ちです。この業界に入りたいと思ったきっかけも、単純に大好きだったから。そこは今も全くブレていませんし、そこに対する責任感は年々増しています。

今はフリーで活動させていただいていることもあり、環境の変化もありますが、それでも「初心を忘れずにいること」を大事にしたいです。そして常に学び、探求していける自分でいられるように努力していきたいと思っています。

来年には音楽活動20周年と声優活動25周年も控えていて、周年イベントが続くので、それぞれの節目で自分を振り返る良い機会にしたいですね。

――では、やはり「初心を忘れずに」ということが、今後のキーワードになってくるのですね。

そうですね。本当に、その気持ちをずっと持ち続けていたいです。

――ちなみに、平野さんは舞台に立たれる時に緊張はされる方ですか？

緊張はするのですが、周りには気づかれないんです。よく「全く緊張してなさそうに見える」と言われます。でも実際はすごく真顔になって無口になるのですが、それが逆に「落ち着いて見える」と言われることが多いです。

ただ、舞台に関しては一番緊張しないかもしれません。やはり稽古期間がしっかりあるので、「これだけやったんだから大丈夫」と思える自信がつくんです。稽古を真面目に取り組んできたという実感が、堂々と舞台に立つことに繋がっていると思います。

――最後に、本作を楽しみにしている皆様にメッセージをお願いします。

おそらく、観に来てくださる方の多くは「可愛らしい作品」だと思っていらっしゃるかもしれません。でも実際は、思わず涙してしまうようなハードな展開が待っていたりと、予想を裏切る部分もあると思うので「思っていたより感動した」といった感想を持たれる方も多いと思います。それだけインパクトのあるストーリーですし、伝えたいメッセージもとても大きいので。

観てくださる皆さんには、まるで一緒に革命を起こしているような気持ちで、物語の中に飛び込んでいただけたらうれしいです。きっとその体験が、日常にも何か変化を与えるのではないでしょうか。

取材・文：THEATER GIRL編集部
撮影：野田涼

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