荒牧慶彦インタビュー『ゲゲゲの鬼太郎2025』「鬼太郎は“舞台装置”的な役割もある存在」（後編）

2025.08.10

INTERVIEW

2025年8月2日より明治座にて、舞台『ゲゲゲの鬼太郎2025』が上演されます。2022年に上演され話題を呼んだ、舞台『ゲゲゲの鬼太郎』が水木しげる氏没後10年にあたる節目の年に、新作としてパワーアップして舞台に帰ってきます。

本作の主人公で、幽霊族最後の生き残りであるゲゲゲの鬼太郎を演じるのは、前回に引き続き、舞台『刀剣乱舞』シリーズや『あんさんぶるスターズ！THE STAGE』など、数多くの舞台に出演する俳優の荒牧慶彦さん。

ねこ娘役は声優アーティストの上坂すみれさんが続投。お金に汚いながらどこか憎めないねずみ男は、レジェンド声優である大塚明夫さんが新たに演じます。

共演には、宝塚退団後も舞台を中心に活躍を続ける美弥るりかさん、今年で芸能生活 50 周年を迎えた大女優・浅野ゆう子さんの他、植田圭輔さん、廣野凌大さんなど、ジャンルレスで多彩な俳優陣が集結しました。

THEATER GIRLは主演の荒牧慶彦さんにインタビュー。後編では、役者と芸能事務所代表との両立で得られた気づきや演出家や共演者の方からの言葉で印象的だったもの、役者の仕事を続ける中で荒牧さんが大切にしている価値観など、役者観についてたっぷりとお聞きしました。

インタビュー前編はこちら

役者としても知っておくべきことだと強く感じる

――荒牧さんは現在、芸能事務所「Pasture」の代表も務めていらっしゃいます。代表と俳優という二つの立場で活動される中で、得られた気づきや、役者としての活動に生きたと感じることはありますか？

たくさんありますね。いわゆる裏方の仕事、たとえばデスクワークやマネージメントと呼ばれる方々がどれほど大変な思いをして支えてくれているのか、身をもって知ることができました。これは役者としても知っておくべきことだと強く感じます。

俳優は台本を覚えたり、歌やダンスの稽古に取り組んだりと、自分のことで手一杯になりがちです。僕自身もこれまではそうでしたが、その背景には多くの方のサポートがあることを忘れてはいけないと、社長業やプロデュース業を通して痛感しました。

その認識がないと、どうしても人は傲慢になってしまいます。その傲慢さが表に出てしまうと、ファンの方々にも受け入れられにくくなってしまうと思うんです。だから、裏で支えてくれている方たちの大変さを知れたのは、自分にとって本当に大きな学びでした。

――むしろ得られるものの方が多いと感じていらっしゃるのですね。

そうですね。もちろん、すべての役者さんが裏方の業務を経験すべきだとは思いません。ただ、僕が知っているからこそ、それを現場に伝えたり、周囲に広めたりできるのではないかと感じていて。そういう意味で、役者とスタッフの橋渡しができる存在になれたらいいなと思っています。

――これまでさまざまな作品に出演されてきた中で、演出家や共演者の方から掛けられた言葉で、特に印象に残っているものはありますか？

「正解をすぐ出せるよね」と言われたことは、すごくうれしかったです。演劇って、基本的に「正解」というものは存在しないと僕は思っているんです。失敗はあるかもしれませんが、これが正しいという絶対的な形はないと思っていて。

その中で、「演出家さんが頭の中で描いているイメージを体現するのが上手だよね」と言っていただけることは、素直にうれしかったです。

――それは演出家の方から言われることが多いのでしょうか？

演出家さんだったり、共演者の方だったり、スタッフの方から言われることもあります。求められているものに対して、しっかり応えられる力があると言っていただけるのは、とてもありがたいです。

――プロデューサーにも向いている才能なのかもしれませんね。俳優というお仕事を長く続けてこられた中で、今、荒牧さんが一番大切にしている価値観は何でしょうか？

これは、デビュー当時からずっと言い続けていることなのですが、「ファンの方々が一番大切」だと思っています。

今の自分がこの場所にいられるのも、応援してくださるファンの皆さんのおかげです。これまでも、そしてこれからも変わらず、ファンの方々を大切にしていきたいという思いがあります。

――荒牧さんはファンの方との交流イベントを開催されていたりと、その想いがとても伝わってきます。今後も、そうした関わりは大事にしていきたいとお考えですか？

もちろんです。やはり自分の活動の根底にあるのは、ファンの方の存在だと感じているので、そうした関わりはこれからも続けていきたいです。

――ファンの方々の思いが特に伝わってくる瞬間というのは、どんなときでしょうか？

イベントに足を運んでくださったときですね。あとは、お手紙をいただいたときや身近なところで言えば、Xでの投稿などもそうです。

自然とストレスも発散されていく

――舞台は長丁場になることも多く、体力的にもハードなお仕事かと思いますが、健康や体づくりのために普段から意識されていることや、毎日欠かさず行っていることはありますか？

やっぱり「きちんと寝ること」ですね。僕にとって睡眠は、一番のストレス発散なんです。よく「ストレス発散方法は何ですか？」と聞かれるんですけど、そのたびに「うーん、なんだろう」と思ってしまうのですが。というのも、実は“舞台に立つこと”自体が、僕にとってのストレス発散になっているんですよね。

――お仕事がストレス発散になるというのは、すごいことですね。

芝居って、自分じゃない人物や性格を演じるじゃないですか。僕自身、普段はずっと同じトーンで生活しているのですが、舞台上では感情が荒ぶる瞬間も多いんです。

思いきり叫んだり、汗をたくさんかいたり、泣いたり。そういうことができるのって、やっぱり舞台ならではだと思いますし、そうすることで自然とストレスも発散されていくんです。

――日常よりも、舞台の上の方が感情を自由に表現できる場になっているのですね。

もちろん役柄によって出し方は変わりますが、その役にのっとった感情の中で自分を解放している部分はあります。

――稽古を重ねられている中で、稽古場でのルーティンや欠かせない習慣のようなものはありますか？

今回の現場でいうと「下駄」に挑戦したいと思っていて、稽古中も基本的にはずっと下駄を履いています。もちろん、大立ち回りのシーンなどでは動きにくいので普通の履物に変える予定ですが、鬼太郎がただ歩いている時や、立っているだけの場面などでは、下駄を履いて演じたいと考えているので、今は稽古場でも常に下駄で過ごしています。最初はやっぱり動きにくくて戸惑いましたが、だんだんと慣れてきました。今では自然に動けるようになってきています。

――これまでにない、新しい挑戦になるのでしょうか？

僕にとっても新しい挑戦ですし、鬼太郎というキャラクターにより近づくための大事な要素だと思って取り組んでいます。

――最後に、本作を楽しみにされている皆様に向けてメッセージをお願いします。

今回、再び『ゲゲゲの鬼太郎』という作品に関わらせていただけてとてもうれしく思っています。前回は、人間と妖怪の対立を通して、人間の弱さや未熟な部分に焦点を当てた内容でしたが、今回は「西洋妖怪VS日本妖怪」の戦いが中心になります。

物語としても、よりエンタメ性が増していて、ショーアップされた構成になっています。幅広い世代の方に楽しんでいただける作品になっているので、ぜひお楽しみいただけたらうれしいです。