荒牧慶彦インタビュー 『ゲゲゲの鬼太郎2025』「鬼太郎は“舞台装置”的な役割もある存在」(前編)
2025年8月2日より明治座にて、舞台『ゲゲゲの鬼太郎2025』が上演されます。2022年に上演され話題を呼んだ、舞台『ゲゲゲの鬼太郎』が水木しげる氏没後10年にあたる節目の年に、新作としてパワーアップして舞台に帰ってきます。
本作の主人公で、幽霊族最後の生き残りであるゲゲゲの鬼太郎を演じるのは、前回に引き続き、舞台『刀剣乱舞』シリーズや『あんさんぶるスターズ!THE STAGE』など、数多くの舞台に出演する俳優の荒牧慶彦さん。
ねこ娘役は声優アーティストの上坂すみれさんが続投。お金に汚いながらどこか憎めないねずみ男は、レジェンド声優である大塚明夫さんが新たに演じます。
共演には、宝塚退団後も舞台を中心に活躍を続ける美弥るりかさん、今年で芸能生活 50 周年を迎えた大女優・浅野ゆう子さんの他、植田圭輔さん、廣野凌大さんなど、ジャンルレスで多彩な俳優陣が集結しました。
THEATER GIRLは主演の荒牧慶彦さんにインタビュー。前編では、完全新作として再び上演が決定した時の心境や稽古を通しての鬼太郎役との向き合い方、カンパニーや共演者の印象など、本作についてたっぷりとうかがいました。
新たに挑戦できることがとてもうれしい
――2022年に初演された本作ですが、今回は完全新作として再び上演されます。改めて今回上演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか?
前回の公演では、途中で中止になってしまったりと少し悔しい思いをした部分もあったので、今回また別物ではありますが新たに挑戦できることをとてもうれしく思います。
『ゲゲゲの鬼太郎』は国民的アニメであり、鬼太郎というキャラクターも多くの人に親しまれている存在です。そんな役を再び演じられるのはうれしいですし、また僕自身を“ゲゲゲの鬼太郎”にさせていただけることを、とても光栄に感じています。
――現在は稽古の終盤に差し掛かっているとのことですが(取材時)、再び鬼太郎役を演じるにあたって、どのように役と向き合っていらっしゃいますか?
今回も前回と同じく、アニメ第6期の鬼太郎を参考にしています。声のトーンは少し落ち着いた雰囲気で演じつつ、戦いのシーンなどでは感情が振れたり怒ったりと、感情の変化をきちんと表現できるよう心がけて演じています。
――初演の経験があるからこそ、今回はよりスムーズに役に入られているのですね。
前回で役は掴ませていただいたので、今回はすんなりと役に入ることができました。

――初演との違いや、今回役を演じるにあたっての心境の変化はありましたか?
今回は植田圭輔くんや廣野凌大くんなど、同じフィールドで戦っている仲間たちが座組にいてくれるんです。前回は本当にさまざまなジャンルからキャストが集まっていたので、鬼太郎を演じることに対してすごく緊張していました。
もちろん今回も、大塚明夫さんや浅野ゆう子さんを始めとした素晴らしいキャストの方々がいらっしゃるので、緊張感がないわけではないですが、同じ舞台で切磋琢磨してきた仲間がいることで、どこか安心感があります。
――キャストの面では、ねこ娘役は前作と同じく上坂すみれさんが続投し、浅野さんは今回吸血鬼カミーラ役、ねずみ男は新たに大塚明夫さんが演じられるということで、前回からの変化も大きいかと思います。稽古を通して皆さんの印象はいかがでしょうか。
上坂さんは、前回すでにねこ娘というキャラクターを掴まれていたので、今回も自然にその魅力を発揮されていると思います。
浅野さんは、どんな役を演じても「エレガント」という言葉がぴったりくる方で、立ち姿や動き一つひとつが本当に美しいんです。今回の吸血鬼役もとても魅力的に演じられています。
大塚さんは、僕が想像していた以上にチャーミングなねずみ男を作られていて。僕の中にはなかったねずみ男像で、すごく魅力的なんです。
僕は、小さい頃から大塚さんの声をアニメやゲームでよく聞いていたので、ダンディーなイメージを持っていたんです。だから、今回のねずみ男を見て、「そっちの方向で来るんだ!」というちょっとした驚きがあって。でも、それがとても素敵で、ねずみ男の新しい魅力を感じられました。
――声優さんならではの、幅広い演じ分けが今回の舞台でもしっかり生かされているのですね。今回は新たに堤泰之さんが演出を手がけられますが、演出を受けられた印象はいかがでしょうか?
堤さんとは、明治座さんの150周年記念の朗読劇で一度だけご一緒させていただいたことがあるのですが、今回のように本格的な舞台でタッグを組むのは初めてです。
とても穏やかな方という印象で、演出が本当に細やかです。「こういう世界を描きたい」というビジョンがしっかり伝わってくるので、堤さんが表現したい鬼太郎の世界を、自分たちでどう具現化するかという点に集中できています。
――カンパニー全体としての雰囲気はいかがでしょうか?
すごく和やかで稽古場の空気が柔らかいんです。みんなやるべきことをきちんとやっているので、スムーズに稽古が進んで、まさにプロの集まりという印象です。必要以上に時間をかけることなく、丁寧に進められているなと感じています。
――荒牧さんが座長として全体をまとめるというよりは、それぞれがしっかり自分の役割を果たしている、というイメージなのですね。
まさにその通りです。皆さんしっかりとご自身の役割を果たして、必要な準備をして稽古に臨まれている姿を見ると、本当に頼もしいなと感じます。
だからこそ、こちらが何かを強く引っ張るというよりも、それぞれが自立していて、安心して任せられる座組になっていると実感しています。

ねずみ男が物語の主軸になっているのが特徴
――今回、どんなところが“新作公演ならでは”の見どころになりそうでしょうか?
今回はねずみ男が物語の主軸になっているのが大きな特徴です。彼のチャーミングさが存分に発揮されていて、エンタメのショーとしても十分に楽しめる内容になっています。大塚さんの“独壇場”とも言えるようなショー的なシーンもありますし、本当に魅力的です。
ただ、それぞれのキャラクターにもスポットが当たっているので、どのキャラクターも魅力的に映っていると思いますし、殺陣もあるのでそういった部分も見どころになると思います。
――鬼太郎役としては、どんな部分に注目してほしいですか?
僕の中での鬼太郎は、物語の中で“舞台装置”的な役割もある存在だと思っています。もちろん、人間と妖怪の間に立つ「幽霊族」というポジションではありますが、この時代に適応しているゲゲゲの鬼太郎として、必殺仕事人のように、揉め事が起きたところに現れて、それを解決していくという立ち位置だと感じています。
今回はお茶目な一面や感情が垣間見えるような場面もあるので、そういった部分も楽しんでいただけたらと思っています。
――鬼太郎という役柄に、ご自身が共感できる部分や演じやすいと感じる部分はありますか?
争いごとが好きではない、というところは共感できますね。鬼太郎が望む「平和な世界」を僕自身も理想として持っているので、そういった想いに自然と入り込めるところはあります。
荒牧さんが「伝承していきたい」ものとは
――本作は、水木しげる氏が新たな解釈やデザインを加えたことで、日本の妖怪伝承に大きな影響を与えたと言われていますが、荒牧さんご自身が「伝承していきたい」と感じているものはありますか?
「2.5次元」と呼ばれている舞台は、日本独自の文化だと思っています。僕は2.5次元ミュージカル協会の理事を務めているのですが、各国で「2.5 Dimensional Musical」というものを商標登録しようと、アメリカをはじめ、様々な国に広げているところです。
2.5次元という舞台形式は、今や世界に広がりつつある文化だと思っています。せっかく日本で生まれた素晴らしい文化なので、まだまだ新興ジャンルとはいえ、もっと多くの方に知ってもらい、次の世代に伝えていきたいと思っています。
――将来的に「2.5次元舞台」に対してどのような目標を持っていらっしゃいますか?
最終的には、1つの確立された文化にしていきたいと思っています。今並べるのはおこがましいかもしれませんが、たとえば宝塚や歌舞伎のように、日本が誇る伝統的な演劇文化のひとつに、「2.5次元」というジャンルがなれたらいいなと思います。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:Jumpei Yamada
公演概要
舞台『ゲゲゲの鬼太郎 2025』
【脚本・演出】 堤泰之
【出 演】 荒牧慶彦 大塚明夫 上坂すみれ
植田圭輔 廣野凌大 / 美弥るりか / 浅野ゆう子
長友光弘(響) 砂川脩弥 ほか
【東京公演】
2025年8月2日(土)~16日(土)
明治座
【大阪公演】
2025年8月21日(木)~25日(月)
新歌舞伎座
【公式サイト】 https://gegege-stage.jp/
【公式X】 @gegege_stage
