門脇麦インタビュー舞台『ねじまき鳥クロニクル』「舞台に立つことは“至高の時間”」（後編）

2023.11.09

INTERVIEW

2023年11月 7日(火)より東京芸術劇場プレイハウスにて、舞台『ねじまき鳥クロニクル』が上演されます。

本作は、世界的に評価される村上春樹の傑作長編『ねじまき鳥クロニクル』を、イスラエルの奇才インバル・ピント氏と気鋭のアミール・クリガー氏の演出、演劇界の俊英藤田貴大氏の脚本で舞台化し、音楽を大友良英氏が手掛けた創造性豊かな意欲作。2020年の初演時に、公演期間の短縮を余儀なくされた伝説のステージが、ついに再演されます。

初演から引き続き、主人公の岡田トオル役は成河さんと渡辺大知さんが二人で一人の人間の多面性を演じ、村上ワールドにいざなう不思議な女子高生・笠原メイ役を門脇麦さんが演じます。

圧倒的な悪として存在する綿谷ノボル役は、初演で衝撃的なダンスシーンを見せた大貫勇輔さんと、新たに、バレエダンサーとして世界的に活躍し現在は俳優としても多くの舞台に出演する首藤康之さんがダブルキャストで務め、トオルを不思議な世界へ導く加納マルタ・クレタ姉妹役は、昨年退団した宝塚歌劇団で娘役として歌・ダンス・芝居の技量が高く評価された音くり寿さんが新たに挑みます。

さらに初演でこの壮大な物語をクリエイターと共に創り上げた松岡広大さん、成田亜佑美さん、さとうこうじさん、吹越満さん、銀粉蝶さんが再演でも「演じる、歌う、踊る」で表現します。

THEATER GIRLは、笠原メイ役の門脇麦さんにインタビュー。後編では、村上春樹氏の作品を舞台上で具現化することについて、共演者の成河さんや渡辺大知さん、新キャストの首藤康之さんの印象などをうかがいました。

インタビュー前編はこちら

日本語が削除された世界の中で残るものは、大事な骨組みだけ

――村上春樹氏の作品を具体化するということで、舞台ではどういった世界観やニュアンスを生かしたいと思っていますか？　

村上さんの作品って、独特な日本語の言い回しで作られているところがあると思うんです。インバルがそれをイスラエル語で読んでいるのか、英語で読んでいるのかは分からないですが、村上さん独特の言い回しって、多分英語じゃ訳せないと思うんですよ。だから自分が感じた雰囲気よりも、日本人じゃない方が村上作品を読んでどんなエッセンスを受け取ったのか、それを体現する方がこの舞台では大事だと思っています。

自分が村上さんの世界観を表現するということではなく、日本文学を違う国の方が読んだ時に、何を受け取って何を表現したいのか。でも、そうやって日本語が削除された世界の中で残るものって、逆に本当に大事な骨組みだけなんです。それがめちゃくちゃ面白くて、不思議。何かを伝えるって言葉が一番大事だと思うんですけど、結局、言葉よりも大事なエッセンスを落とし込む作業を、ずっと稽古場でもしている気がしています。

だからインバルたちがどうしたいのか、日本語の言葉に頼らず五感でキャッチするような感覚です。なので、「あなたがここにいて、なんとなく移動してきて、ここにいて」というようなふわっとしたニュアンスの演出になるのだと思います。多分そんな意図はないと思うんですけど、インバルの中で絵や動画が頭の中で再生されているのかなと。私にとっては、それをいかに汲み取るかという作業ですね。ダンサーの方は振り付けがあるからより具体的になりますけど、私はあまり歌ったり踊ったりしないので。

――かなり難しそうですね。

ただ、私も割と勘で生きているので、逆に具体的に言われても分からないかもしれないです。だから、あまり違和感がないし「何の意図で？」とは思わないかもしれないですね。

最近は「夢をコントロールできるようになってきた」

――本作は、日常から地続きで異空間に繋がるというストーリーですが、門脇さんご自身が日常でそういった感覚になる時はありますか？

最近夢をコントロールできるようになってきたんです。もしかしたら瞑想に近いのかもしれないですけど、寝る前に「今日は宇宙に行きたいな」とか「空を飛びたいな」とイメージして眠りに入るとうまい具合にできたりするんです。これが体にいいのかわからないので、真似しない方がいいと思うんですけど（笑）。

――どうして夢をコントロールしようと思ったんですか？

元々、子供の頃から怖い夢を見がちで、そういう時は「夢になれ」と唱えると夢になると母に言われていました。多分子供の時から「夢を見ているけど自我がある」と言われてきたので、そこで鍛えられたんだと思います。

――今は、好きな夢を見られるようになったんですね。

そうですね。特に昼寝中が一番効果的だなと思います。多分、夜寝るときはあまり考えない方が熟睡できると思うのであまりおすすめしないです。

稽古場で観るのにお金を払いたいくらい（笑）

――先ほど、渡辺大知さんとのシーンが多いとおっしゃっていましたが、渡辺大知さんと成河さん、それから今回新キャストとなる首藤康之さんの印象はいかがでしょうか？

首藤さんは子供の頃から何度も観に行っているくらい、バレエ界では大先輩で大スターの方なので、共演できてとても嬉しいです。今回、ダンスだけではなくお芝居もされるとのことなので、稽古場でお金を払いたいくらい（笑）。

成河さんも、稽古場でお金を払いたいくらい昔から大好きで。7年前くらいに共演させていただいた時に「一生この人についていこう」と思ったんです。この人の背中を追い続けていたら役者として間違えた道には行かないだろうって。本当に演劇に対してものすごい熱量と、真正面から向き合うパワーを人一倍兼ね備えている方なので。

実は、成河さんに暖簾をくださいと、以前お願いをしていたら、この間めちゃくちゃ素敵な楽屋暖簾をいただいたんです。その時はさりげなく言ってしまったけど、暖簾なんてすごく高価なものですし。6年越しに暖簾をいただけて本当にありがたいですね。今回それをかける初めての公演で、さらに成河さんと一緒なのですごく嬉しいです。

渡辺大知くんは元々バンドをやっていらっしゃる方なので、いい意味でミュージカルや音楽劇における教科書的な歌い方ではないんですよね。さらに成河さんと二人一役じゃないですか。二人とも方向性が全然違うからすごく面白くて。今回はさらに二人がどちらか分からないような演出になるみたいで、お二人と絡むことが増えそうなのでそれも楽しみです。

――それは、見どころですね。

見どころですし、今回私の一番楽しみなポイントです。

舞台に立つことは「至高の時間」

――門脇さんは、映像作品にも数多く出演されていらっしゃいますが、舞台のどんなところに魅力を感じていらっしゃいますか？

私、舞台に立つのが好きなんです。本番前なんてワクワクしすぎて鼻血が出そうになるくらい（笑）。子供の頃はずっとバレエをやっていたので、舞台に立つことは“至高の時間”ですね。

――舞台に立つのがお好きなんですね。やっぱり、舞台出演が決まると楽しみになりますか？

楽しみですね。舞台っていろんなことができるし、たとえば小学生の役もできたりするので。いろんな魅力があると思います。

――では、最後に本作を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

この舞台以上に「五感で楽しんでください」という言葉が似合うことはないと思います。小説を読んでいないと何の話か分からないと思う方もいらっしゃるかもしれないですが、そういったものを超えて、音楽とダンサーの身体表現で村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』のエッセンスを感じられると思います。日本語を抜きにして日本語の集合体とどう向き合うのか、向き合った結果、何が残ったのか。今回は、初演よりもエッセンスがそぎ落とされてすごくシャープになった舞台になると思うので、ぜひ楽しんでもらいたいです。