松田 凌インタビュー 『バグダッド・カフェ』「物語の中でちょっとした“スパイス”を加える存在になれたら」(前編)
2025年11月2日(日)より日比谷・シアタークリエにて、ミュージカル『バグダッド・カフェ』が上演されます。
アメリカ西部の砂漠の真ん中にある「バグダッド・カフェ」に偶然現れたドイツ人旅行者ジャスミンとカフェの女主人ブレンダとの出会いと友情、さらにそこから広がる国籍も人種も立場も異なる人々の絆を描いた、ファンタジックなコメディ映画。
ジェベッタ・スティール氏が歌ったテーマ曲「Calling You(コーリング・ユー)」はアカデミー賞歌曲賞にノミネートされ、多数の歌手にカバーされる名曲となっています。
この度、アドロン監督と妻のエレオノーレ・アドロン氏自らが脚本を手掛けたミュージカル版が、小山ゆうなさんの演出で、日本初演されます。映画と同じ作曲家ボブ・テルソンのオリジナル楽曲は、ロック、ソウル、レゲエ、ラップ、クラシックなど様々な要素を盛り込み、ポップで楽しいミュージカルになっています。
主演のジャスミン役には花總まりさん、カフェの女主人ブレンダ役には森公美子さん、その他、小西遼生さん、清水美依紗さん、松田 凌さん、芋洗坂係長さん、岸祐二さん、坂元健児さん、太田緑ロランスさん、越永健太郎さんなど、多彩なキャストがそろいました。
THEATER GIRLは、アブドゥラー役の松田 凌さんにインタビュー。前編では、本作へ出演が決まったときのお気持ち、役柄の印象や稽古での取り組みについて、花總まりさんや森公美子さんをはじめとする共演者の方々の印象をうかがいました。
「どんな作品になるのだろう」と期待が高まった
――本作への出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか。
すごくうれしかったです。ミュージカルにも積極的に出演したいと思っていたので、本当にうれしかったですね。
演出の小山ゆうなさんとはこれまで何度かご一緒して素晴らしい経験をさせていただきましたし、かつて共演させていただいた花總まりさんや、いつかご一緒できたらと思っていた方々が揃っていて、「どんな作品になるのだろう」と期待が高まりました。
映画も拝見しましたが、あの世界の中へ入るのかと、非常にワクワクしました。
――現在は稽古も進んでいるとのことですが、今の手応えはいかがですか?
日本初演ということもあって、「この作品をどう表現していくか」という根本的な部分を、(小山)ゆうなさんを中心に、花さん(花總まりさん)と公美さん(森公美子さん)を筆頭に、丁寧にディスカッションしながら作り上げています。
最初はまさに骨組みからのスタートでしたが、今はその土台がしっかりしてきて、少しずつ作品の形が見えてきました。自分自身もその中で、どう役に肉付けをしていくのかを日々探りながら取り組んでいるところです。

アブドゥラーは「“便利屋さん”のような存在」
――本作では、カフェの店員 アブドゥラー役を演じられますが、役の印象や現時点での役への取り組みについて教えてください。
アブドゥラーは、いい意味で“便利屋さん”のような存在だと思っています。作品の舞台となるアメリカ西部のとあるダイナー「バグダッド・カフェ」を陰で支えている人物で、彼がいることでさまざまな場面が円滑に回っている。小さなことの積み重ねではありますが、実はとても大きな支えになっているんです。
彼はダイナーの雑務や日々の仕事にも深く関わっていて、登場人物たちの関係性や心の動きをそばで静かに見守っているような人でもあって。その印象は最初に台本を読んだときから感じていて、稽古を重ねる中でもその思いを大切にしながら取り組んでいます。

――作品全体としては、どんなところに魅力を感じていますか?
この作品は、「大きな事件が起こる物語」ではありません。むしろ、小さな歪みやすれ違い、誰の心にもある小さな傷が少しずつ修復されていく過程が描かれていて、そこに強い共感を覚えます。大きな出来事ではないからこそ、観てくださる方も自分の日常と重ねて感じやすいのではないかなと。
たとえば、小さな切り傷って水に触れると意外と痛いですよね。でも、その痛みを感じながら少しずつ治っていく――そんな繊細な人間模様が、この『バグダッド・カフェ』には詰まっていると思います。
自分が演じるアブドゥラーも、そうした“傷”を抱えた人々にそっと寄り添い、バンドエイドを貼るように少しずつ癒していくような存在です。その優しさやあたたかさを大切にしながら、作品全体が一つにつながっていくように演じたいと思っています。

稽古場全体が優しい空気に包まれている
――共演者の方々もとても豪華で個性豊かな顔ぶれですが、実際にご一緒されて刺激を受けていることはありますか?
刺激ばかりですね。本当に皆さん個性豊かで、日々たくさんのことを学ばせていただいています。これまでにお芝居でご一緒したことがあるのは花總さんだけなのですが、初めて共演させていただいたのは、もう7年くらい前で、僕が東宝作品に初めて出演したときでした。
そのときから花さんは、まさに“プロフェッショナル”という言葉がぴったりの方だと思っていました。普段からも凛とした雰囲気をお持ちで神々しいほどの存在感がある上に、お芝居に対して本当に真摯でいらっしゃるお姿を、心から尊敬しています。僕には到底届かないものをたくさんお持ちですが、いつか花さんに俳優同士として頼っていただける存在になりたいと思っています。

――森公美子さんについてはいかがでしょうか?
公美さんは、印象そのままにとてもパワフルな方です。でも、ただエネルギッシュなだけでなく、包み込むような包容力があって、チャーミングな一面もあるんです。
ある日、ご自身で手羽先の煮込みを作ってきてくださったことがあったのですが、あっという間に売り切れて食べられなかったんです(笑)。でもその後、スパムおにぎりを振る舞ってくださって、それが本当においしくて。「公美さんの作るご飯って、こんなにおいしいんだ」と感動しました。お芝居や歌はもちろん、そうした気配りや明るさでも座組を支えてくださる、本当にエネルギーのある方です。
――カンパニー全体の雰囲気としてはいかがですか?
共演者の皆さんは、(小西)遼生さん、(清水)美依紗ちゃん、芋さん(芋洗坂係長)、坂健さん(坂元健児)、(太田緑)ロランスさん、健ちゃん(越永健太郎)、岸(祐二)さん……と僕は稽古場でお呼びしているのですが、どの方もご自身の個性をご自分の役に活かして、それぞれを魅力的に表現されているんです。
皆さんの人柄も柔らかく、稽古場全体が優しい空気に包まれていて、刺激的でありながらもエネルギーをもらえる。そんな場所で日々取り組めていることを幸せに感じています。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:髙橋 耀太
スタイリング:小林洋治郎
ヘアメイク:松元 未絵
公演概要
ミュージカル『バグダッド・カフェ』
2025年11月2日(日)~11月23日(日) 東京 シアタークリエ
キャスト:
ジャスミン・ムンシュテットナー:花總まり
ブレンダ:森公美子
ルディ・コックス:小西遼生
フィリス:清水美依紗
アブドゥラー:松田凌
サル(他):芋洗坂係長
アーニー(他):岸祐二
ムンシュテットナー氏(他):坂元健児
デビー:太田緑ロランス
サル・ジュニア:越永健太郎
脚本:パーシー・アドロン/エレオノーレ・アドロン
音楽:ボブ・テルソン
歌詞:リー・ブルーワー /ボブ・テルソン/パーシー・アドロン
演出:小山ゆうな
翻訳・訳詞:高橋知伽江
音楽監督:荻野清子
製作:東宝
