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柿澤勇人×北 香那インタビュー 『ハムレット』「本気で挑まないとおもしろい芝居にはならない」(前編)

INTERVIEW

2024年5月7日(火)、彩の国さいたま芸術劇場にて彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』が開幕します。

故・蜷川幸雄さんからシェイクスピア・シリーズのバトンを引き継いだ吉田鋼太郎さんが、【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】を始動。本作はその記念すべき一作目となり、タイトルロールを柿澤勇人さんが務めます。ハムレットの恋人・オフィーリア役に北 香那さん、ハムレットの親友・ホレーシオ役に白洲迅さん、オフィーリアの兄・レアティーズ役に渡部豪太さん、ノルウェー王子・フォーティンブラス役に豊田裕大さん、オフィーリアとレアティーズの父でデンマーク王の顧問官・ポローニアス役に正名僕蔵さん、ハムレットの母・ガートルード役に高橋ひとみさんなど、新シリーズ開幕にふさわしい豪華な顔ぶれが揃いました。

THEATER GIRLは、柿澤勇人さんと北 香那さんにインタビュー。前編では、作品に対するイメージや、稽古が始まるまでに準備しておきたいことなどを伺いました。

インタビュー後編はこちら

作品のテーマになっているのは、すごく普遍的なもの

――お二人の思う『ハムレット』が愛される理由や、作品に抱いているイメージを教えてください。

柿澤:僕は日本での上演だと、藤原竜也さん主演のものが印象に残っていますね。2003年に上演されたものは映像で観たんですが、2015年の上演時は、勉強のために何度か稽古場にお邪魔していたんです。本読みの1日目には、竜也さんが(演出の)蜷川(幸雄)さんから1000本ノックを受けていて。セリフをひと言言うだけで止められ、「違う違う違う!」って。竜也さんは12年前にハムレットをやって賞賛されたのに、またゼロからのスタートだったんです。

:そうなんですか?

柿澤:ハムレットという人物は常に悩んで苦しんで孤独で。でも、“世の中みんなおかしい。正すんだ!”みたいな自分なりの正義を持っている。それって、役者としての人生も含め、人間の持っているもの全部を出しきらないと伝わらない。だからこそのやり方だったんでしょうね。

作品のテーマになっているのは、すごく普遍的なものですよね。最初にハムレットは、父を亡くし、自殺したいと思うところから始まります。そのあと叔父への復讐を決めるわけですが、決意したり悩んだりの起伏は、もう僕らが生きている日常の感覚ではない。だけど人は誰しもそういう部分は持っているよねって。劇中にはそう思えるシーンがいくつもあるので、観る人たちが共感できる部分も多いのかなと思います。

:『ハムレット』は、すでに様々なところでたくさん上演されていて結末もわかっているのに、なぜ何度見てもこんなにおもしろいんだろうと。演じる役者さんによって全然違って見えるところとか。役者の数だけ味があるというか。“同じ戯曲なんだけれど、なんか違うよね”と感じさせるところが魅力なのかなと思います。だから、今回出演させていただける機会を頂いて本当にありがたいです。オフィーリアというキャラクターを、みなさんに再認識してもらえるようなお芝居ができたらいいなと思っています。

僕にはない発想だったので、すごくビックリしました

――柿澤さんは、演出・上演台本を担当する吉田鋼太郎さんとはミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』以来、2年ぶりにタッグを組むことになります。吉田さんの演出にはどんな印象をお持ちですか?

柿澤:『ブラッド~』のときは、普段日常ではしないような言い回しがあったり、ものすごく説明的なセリフがあったり。(台本の)1行で終われるところを4ページぐらいの言葉で表現しないといけなかったりしたんです。そのセリフを覚えて、マシンガンのように勢いでしゃべることは、たぶん誰でもできるんです。でも、それは鋼太郎さんが一番嫌がることで、ストップがかかるんです。「まず、(セリフを)自分の言葉にしろ」と。

現代劇の『スルース~探偵~』をやったときも同じで、鋼太郎さんは「自分の実感で、自分の言葉でしゃべってみよう」とよく言っていました。相手の言葉をちゃんと聞いて、自分の言葉として言うというところが一番の基盤になるというか。それは芝居をやるうえで当たり前のことなのかもしれないけど、自分の言葉でセリフを言わないと、まったくおもしろくなくなるからと常に仰っていましたね。

『アテネのタイモン』では、僕の演じるアルシバイアディーズが怒りの感情をぐわっと表現しなきゃいけないシーンがあったんです。走り回りながらイスを投げたりテーブルをひっくり返したり、イスの上に立って「もうイヤだー!」「全部ぶち壊してやる!」と叫んだりするような。

稽古のとき、それを舞台上でやっていたら、鋼太郎さんが「なんか、(動きが)小さいなあ」と。「カッキー(柿澤)も、やりにくいでしょ。舞台上じゃなく客席でやって」と仰って下さって。実際に客席でやってみたら表現が何倍にも広がって、僕自身“あっ、このシーンはしとめたな”みたいな感覚があったんです。それは僕にはない発想だったので、すごくビックリしました。

鋼太郎さんは、長年シェイクスピア作品をやられていて。役者としてはもちろん、演出家としてもちゃんと俯瞰で作品を観ることができる方だと思うので、今回の『ハムレット』に関しても良い方向に導いてもらえるんじゃないかなと思っています。

――北さんは、お稽古が始まる直前の今、どんなお気持ちですか?(取材時)

:私にとっては未知の世界なんですね。シェイクスピア作品をやることも、オフィーリアを演じることも。今まで舞台はいくつか経験していますが、きっと今回はセリフの言葉づかいも全然違うだろうし。だから、新しく学校に行くような感覚ですね。たくさんのことを教えていただき、時には叱っていただきながら時間を過ごせたらなと。新1年生みたいな気持ちで、今はとてもワクワクしています。

自分なりのスパイスを加えて、オフィーリアを自分のものにできたら

――現時点で、それぞれの演じる役がどういうキャラクターだととらえていて、どうアプローチしていこうと思っていますか?

柿澤:ハムレットは、異常なまでに父への愛、母への愛があって。それをきっかけに復讐を試みるも、全然できない。それはたぶん、ものすごくやさしくて知性があるからなんですよね。

鋼太郎さんが言うには、ハムレットが最後死なずに王になっていたら、その後国は豊かになって戦争も起きなかったんじゃないかと。でも、ハムレットのような“いい人”って、上に立とうとすると引きずり下ろされたり殺されたりして、生き残れないんですよね。それは今の時代にも言えることだと思うし、今も世界中で起こっていることなんじゃないか、ともおっしゃっていました。

今回はセリフが日常会話じゃないこともあって、稽古をしながらセリフを覚えるというのはすごく難しいと思うんです。だから、稽古までの準備としては、できる限りセリフを入れておくということと……でも、それぐらいかな。稽古中、鋼太郎さんが何を言い出すかは本当にわからないので、あまり固めすぎちゃうと逆に怖いというか。「そうじゃない」と言われたときに臨機応変に対応できない気がするから。とにかくセリフを入れて、そのセリフがどういう意味を持っていて、何に対して言っているのかを前もって理解しておきたいですね。

――どういう指示がくるかまったくわからないというのは、ワクワクと怖さのどちらが大きいですか?

柿澤:(食い気味に)怖さです!(笑)でも、俳優はだいたいそうなんじゃないですかね。めちゃくちゃポジティブな人だったら、もしかすると“ワクワク楽しい!”ってなるのかもしれないけど、僕は恐怖しかないです。そしてまず、彩の国さいたま芸術劇場が恐怖です。イヤな思い出しかない(笑)。

――北さんが、どんどん不安な顔に(笑)。

柿澤:あっ、大丈夫大丈夫! 基本的には鋼太郎さん、やさしいから。

:フフッ。

――北さんは、オフィーリアについてどうとらえていますか?

:オフィーリアは、最初の登場シーンとかはすごく明るくて、妖精と言われるぐらいふわふわっとしたキャラクターなんですけど。話が進んでいくにつれてどんどんもつれていって、負の螺旋階段を上がっていってしまうという。私には、そこの落差がものすごく印象的で。やはり人間味というのは、そういうところに出ると思うんです。なので、細かいところまでキチンと噛みくだいて、鋼太郎さんの演出をいただきながら自分なりのスパイスを加えて、オフィーリアを自分のものにできたらいいなと思っています。

――先ほど北さんのおっしゃった「演じる役者さんによって変わる」というところに通じますね。

:そうですね。誰ひとり、観客の方を置き去りにしたくないので。そのために、ちゃんとオフィーリアでありたいです。

取材・文:林桃
Photo:野田涼
スタイリスト:ゴウダアツコ
ヘアメイク:大和田一美

インタビュー後編はこちら

公演概要

彩の国さいたま芸術劇場開館30周年記念
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』

<埼⽟公演>
期間:2024年5⽉7⽇(⽕)〜26⽇(⽇)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 ⼤ホール

【ツアー公演】
<宮城公演>
期間:2024年6⽉1⽇(⼟)〜6⽉2⽇(⽇)
会場:仙台銀⾏ホール イズミティ21 ⼤ホール

<愛知公演>
期間:2024年6⽉8⽇(⼟)〜9⽇(⽇)
会場: 愛知県芸術劇場 ⼤ホール

<福岡公演>
期間:2024年6⽉15⽇(⼟)〜16⽇(⽇)
会場:J:COM北九州芸術劇場 ⼤ホール

<⼤阪公演>
期間:2024年6⽉20⽇(⽊)〜23⽇(⽇)
会場:梅⽥芸術劇場シアター・ドラマシティ

<スタッフ>
作:W.シェイクスピア
翻訳:⼩⽥島雄志
演出・上演台本:吉⽥鋼太郎 (彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)
美術:杉⼭ ⾄
照明:原⽥ 保
⾳響:井上正弘
⾐裳:紅林美帆
ヘアメイク:⼤和⽥⼀美
⾳楽:武⽥圭司
殺陣:六本⽊康弘
フェンシング指導:和⽥武真
パントマイム:いいむろなおき
振付:藤⼭すみれ
演出助⼿:井上尊晶
舞台監督:⼤垣敏朗
技術監督:福澤諭志

<キャスト>
柿澤勇⼈
北 ⾹那
⽩洲 迅
渡部豪太
豊⽥裕⼤
櫻井章喜
原 慎⼀郎
⼭本直寛
松尾⻯兵
いいむろなおき
松本こうせい
⻫藤莉⽣
正名僕蔵
⾼橋ひとみ
吉⽥鋼太郎

公式HP:https://horipro-stage.jp/stage/hamlet2024/
公式Ⅹ:https://twitter.com/Shakespeare_sss

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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