高野洸インタビュー 『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』 「新しい世界に連れていってくれるような役と出会いたい」(後編)
2025年8月5日(火)からよみうり大手町ホール、その後兵庫・福岡にて舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』が上演されます。
原案となった「War Bride 91歳の戦争花嫁」(TBSテレビ)は、2022年12月にTBSで放映、翌年3月から始まったTBSドキュメンタリー映画祭で上映され、今年6月にフランス・パリで行われる日本のドキュメンタリー映画祭【un petit air du japon 2025】にも出品が決定した作品。
この桂子とフランクの運命の物語を、戦後80年となる今年の夏、「劇団チョコレートケーキ」主宰・演出の日澤雄介氏と、同劇団の脚本家・古川健氏の強力タッグで舞台化。
激動の時代を生き、今なおアメリカで生活をしている桂子を演じるのは、柔らかな雰囲気の中に持つ芯の強さで圧倒的な存在感を放つ奈緒さん。そして、運命に導かれ桂子と出会う米兵・フランク本作で奈緒さんと初共演となるウエンツ瑛士さんが演じます。
共演は、桂子とフランクを取材する若きジャーナリストに、高野洸さん、桂子の人生を後押しする両親に、占部房子さんと山口馬木也さん。さらに、川島鈴遥さん、渡邉蒼さん、福山絢水さん、牧田哲也さん、岡本篤さんと、高い演技力を誇る俳優陣が一堂に会します。
THEATER GIRLは、若きジャーナリストを演じる高野洸さんにインタビュー。後編では、本作で挑戦だと感じていることや影響を受けた言葉、高野さんご自身がドキュメンタリーを撮影したら撮ってみたい題材は……⁉など、作品にちなんだ質問も伺っているのでお楽しみに。
テンポ感やリアリティの強さに圧倒された
――今回の舞台出演にあたり、挑戦になることや目標にしていることがあれば教えてください。
劇団チョコレートケーキさんの舞台を観た時、テンポ感やリアリティの強さに圧倒されました。今回自分が演じる立場になるので、座組の皆さんや演出家の方から刺激を受けながら学び、しっかりと稽古に励んでいきたいです。とても楽しみにしていますし、頑張らなきゃいけないとも感じています。
――現在、何か準備していることはありますか?
まずは台本をしっかり読み込むことですね。他の作品でもそうですが、すべてのセリフには意味があるので。特に今回、自分のセリフが進行に関わるものも多いので、セリフ同士のつながりや流れを意識しながら準備していきたいと思っています。
――これまでさまざまな舞台に出演されてきましたが、今回はドキュメンタリーをベースにした作品です。これまでの舞台との違いや意識している点、挑戦だと感じている部分はありますか。
今回の作品はストレートプレイであり、劇団チョコレートケーキの古川さん、日澤さんの作品でもあります。そして、戦後という時代背景を持つ作品なので、今まで自分が出演してきた舞台とはやはり違う部分が多いと感じています。
なので、今回の作品に取り組むにあたっては、初心を忘れずに、変なプライドを持たずにしっかりと向き合っていきたいと思っています。
――向き合い方としても、これまでとは少し違ったアプローチになりそうでしょうか。
自分としても新しい発見ができたら良いなと思っていますし、ドキュメンタリーを舞台として見せるという形がとても新鮮なので、物語の進め方にも刺激を受けています。多くの方に観ていただきたいですね。
――今回、「戦争花嫁」を題材にした作品ですが、これまで、あるいは出演が決まってから、ご家族や身近な方から戦争のお話を聞かれたことはありますか?
曾祖母は戦時中を経験している世代で、当時の話をしてくれたこともあったのですが、小学生だった僕は耳を塞いでしまうこともありました。今振り返ると、当時は今では考えられないようなことがたくさん起きていた時代だったのだと改めて感じます。
それでも、こうして言葉で語り継いでくださることは本当に貴重なことですし、僕自身も次の世代へしっかりと伝えていく立場になるのだと思っています。今は改めて学び直して、きちんと向き合っていきたいという気持ちでいます。

桂子・ハーンさんの強さに勇気づけられた
――本作は、次世代に伝えていきたい思いがたくさん詰まっている作品だと思います。俳優として活躍されている高野さんが、「自分も受け取って繋げていきたい」と感じたことや、先輩俳優から影響を受けた言葉などがありましたら教えてください。
このドキュメンタリーを見て強く感じたのは、大変だった当時の状況や、差別や偏見といったものももちろんある中で、それを乗り越えてきた桂子・ハーンさんの強さでした。
自分の今の環境ひとつ取ってみても、「甘えていられないな」「もっと力強く生きていこう」と思わされましたし、勇気づけられることばかりでした。そういった部分にいちばん感銘を受けました。
――先輩俳優からいただいた言葉などで印象に残っているものはありますか?
選ぶのが難しいですが、舞台に初めて立った頃に、いろんな先輩や演出家の方から声をかけていただきました。その中で「舞台の一歩は大きい。でも一歩はたいしたものじゃない」という言葉がすごく印象に残っています。矛盾しているようですが、その通りだなと。舞台の一歩はとても大きな意味を持ちますが、それ自体は一つの小さな積み重ねでもある。今も自分の中でずっと回っている言葉です。
――先ほど、戦争について「耳を塞いでしまった」というお話がありましたが、本作はそれだけではなく、真実の愛も描かれた作品だと思います。今回の真実の愛を目の当たりにして、“愛”について現在感じていることや考えていることがあれば教えてください。
桂子・ハーンさんは、愛のためにさまざまな偏見や差別を受けたと思いますが、それでも自分の愛を信じて疑わず、純粋にフランクさんを愛していた。その姿のかっこよさを多くの方に知っていただきたいです。
愛という言葉には重みがありますが、その重みがしっかり伝わってくる作品だと感じています。観てくださる方にも明るい気持ちや活力を与えてくれる、とても力強い女性の姿が描かれていると思います。

――ジャーナリストという役は強い信念を持っていて、そのため葛藤も深い人物だという印象を受けました。高野さんが役者、そしてアーティストとして大切にしている信念がありましたら教えてください。
やはり「自分であることの意味」を大切にしています。それがなければ活動する理由もないと思うので。役者は個性が求められる仕事ですし、アーティストも個性を追求してこそだと思っています。
例えば、4歳からダンスを習わせてくれた両親に感謝しながら、そのダンスをパフォーマンスとして生かしていくことだったり、そうした自分のアイデンティティを大事にしながら、常に探し続けていくことを意識しています。
――壁にぶつかった時は、どう対処されていますか? 誰かに相談するのか、それとも一人で考え込むタイプでしょうか?
どうやっても正解が見つからない時もありますし、後悔や反省もたくさんあります。ただ、失敗のない人生なんてないと思うので、それをしっかりと受け止めて、次に生かしていこうという気持ちを大切にしています。
また、この環境にいさせてもらえること自体がとても貴重だと感じています。たくさんの方が動いてくださっている中で、自分もその気持ちを無駄にせず、一歩一歩成長していけたらと思っています。
――本作はドキュメンタリー映画が原作ですが、高野さんご自身がドキュメンタリーを撮影するとしたら、どんな題材で撮ってみたいですか?
やはり世の中にあまり知られていない裏側を映すものが面白いのではないかなと。農家の仕事の裏側なども、とても興味がありますし、本当に尊敬しています。
また、カードゲームを作らせていただいた経験もあるのですが、ゲームが作られていく過程というのは本当に大変で、その中でディレクターやプロデューサーといった方々が、どうやって時間を使い、作品を進めているのかという裏側もとても見どころがあると思います。機会があったらぜひ取材してみたいですね。

高野さんが最近ハマっているものとは……⁉
――高野さんは、先ほどお話に出たゲームやダンスなど、趣味にもストイックに取り組まれている印象があります。最近、新しく始めたことや興味のある分野はありますか?
今は「ディズニー・ロルカナ」というカードゲームにドハマりしています。海外ではすでに8〜9弾くらいまでカードパックが出ているのですが、日本では最近ようやく発売が始まったところで、今は第2弾くらいですね(取材時)。今出ているカードの種類なら、ほとんど全部把握しているくらいのめり込んでいます。
――やはりカードゲームがとてもお好きなのですね。
めちゃくちゃ好きです。とても自由度が高くて、自分が「このカード強いんじゃないか」と思ったものが実際に試合でも活躍するんです。そういうところがとても楽しいですね。頭は使いますが、リフレッシュの時間になっています。
――休日も、完全に休むよりは頭を動かしたり、何か取り組んだりしていた方が落ち着くタイプなのでしょうか。
そこに至るまでの準備が楽しいんです。カードゲームならデッキを組んだり、対戦ゲームなら相手に勝てるように自分を鍛えたり、その過程も含めて楽しんでいます。勝敗がついた時、特に勝てた時は一番嬉しいですね。その準備も含めた過程を試せる時間がとても好きなんだと思います。

――俳優のお仕事以外でも、そういった緻密な準備をすることがお好きなのですね。高野さんは座長を務められることも多いかと思いますが、今回は先輩方が多いカンパニーです。ドラマや舞台では、同年代や若い方とご一緒される機会も多いと思いますが、今回のような先輩が多い現場と、同年代が多い現場では、接し方や取り組み方に違いはありますか?
先輩・後輩という意識を最初から強く持って接することはあまりないんです。例えば、「この先輩だからこうしなきゃ」というよりも、その方のペースを崩さないタイミングで話しかけたり、なんでも笑いに変えてくれる先輩や後輩と楽しく話したり。そういう時間が好きですし、ものづくりに活かせる話ができる時間も好きです。今回は大先輩が多い現場なので、聞いてみたいこともたくさん出てくるだろうなと思っています。
――逆に同年代の方が多い現場だと、どんな雰囲気になるのでしょうか?
同年代の現場でも、もちろん聞いてみたいことがあれば聞きます。「この人の考え方面白いな」と思ったら素直に聞いたりしますし、一緒に高め合っていこうという雰囲気も自然と生まれますね。
――高野さんは、幼少期から芸能活動を始められ長く活動をされていますが、その中で「この仕事はやりがいがある」「頑張れる」と、原動力になっているものは何でしょうか?
僕自身も観る側の時にそうですが、心を動かされる瞬間や、その作品が誰かの人生に寄り添って未来を明るくすることがある、というのが一番嬉しいですね。時には誰かのヒーローになれることもありますし、そういった意味でも大きなやりがいを感じます。
それから、難しい役どころを演じきった時の達成感も大きいです。舞台であれば、カンパニーのみなさんと稽古を重ねて初日を迎え、無事に千穐楽までたどり着いた時の達成感は、言葉にできないほどのものがあります。
そういう達成感を積み重ねていけることが本当に嬉しいですし、何よりお客様からいただく拍手が一番のパワーになります。
――それでは最後に、本作を楽しみにされている皆さまへメッセージをお願いします。
ドキュメンタリー映画を舞台化するという、非常に斬新な作品になっています。作品を通して「戦争花嫁」という言葉の意味を深く知るきっかけになると思いますし、桂子・ハーンさんという力強い女性の人生が描かれている作品です。その人生を観ていただくことで、きっと何か良いものを持ち帰っていただけるのではないかと思います。ぜひ劇場で、生の舞台を体感していただけたら嬉しいです。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:Jumpei Yamada
公演概要
舞台『WAR BRIDE ーアメリカと日本の架け橋 桂子・ハーンー』
【東京公演】
2025年8月5日(火)~27日(水)
よみうり大手町ホール
【兵庫公演】
2025年9月6日(土) 12:00/17:00 9月7日(日)12:00 [全3公演]
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【福岡公演】
2025年9月13日(土)13:00/18:00 9月14日(日)13:00[全3公演]
久留米シティプラザ ザ・グランドホール
原案: 「War Bride 91歳の戦争花嫁」(TBSテレビ)
脚本: 古川健(劇団チョコレートケーキ)
演出: 日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
出演:
奈緒 ウエンツ瑛士
高野洸 川島鈴遥 渡邉蒼 福山絢水 牧田哲也 岡本篤 占部房子
山口馬木也
企画・製作: TBSテレビ
公式サイト:https://www.warbride-stage.com
公式X: @stagewb
