岡宮来夢インタビューミュージカル『四月は君の嘘』「自分なりのオリジナリティある公生を作れたら」（前編）

2025.08.19

INTERVIEW

2025年8月23日より昭和女子大学人見記念講堂を皮切りに、ミュージカル『四月は君の嘘』が上演されます。

ミュージカル『四月は君の嘘』は、新川直司が2011～2015年に講談社・月刊少年マガジンにて連載し、2012年度マンガ大賞ノミネート、フジテレビ「ノイタミナ」枠でのＴＶアニメ化、実写映画としても大ヒットを記録した同名コミックが原作。単なる青春ラブストーリーではなく、音楽に引き合わされた若き音楽家の卵たちが大切な人との出会いと別れを通してその才能を開花させて行く、多くの人を惹きつけてやまない傑作です。

そのミュージカル版として2022年に日生劇場で初演の幕を開けた本作は、ミュージカル界の巨匠作曲家フランク・ワイルドホーン氏のキャッチーで瑞々しい音楽と、原作の魅力である青春の刹那のきらめきと美しさを巧みに織り込んだ脚本、日本ミュージカル界を牽引する若手実力派キャスト揃い踏みによる存在感あるパフォーマンスが絶賛されました｡そんな、世界各国で好評価を受けた日本発の傑作オリジナルミュージカルが、3年の時を経て再演されます。

主人公で元天才ピアニスト・有馬公生役は活躍目覚ましい次世代ミュージカルスターの筆頭･岡宮来夢さんと､20歳の注目の実力派として抜擢された東島京さんがWキャストで演じます。

圧倒的個性を持つヴァイオリニスト・宮園かをり役には､『レ・ミゼラブル』でコゼット役を好演した加藤梨里香さんと､2020年にハロー！プロジェクト所属女性アイドルグループJuice=Juiceを卒業以降はソロアーティストとして精力的に活動する宮本佳林さん。公生の幼馴染でソフトボール部の主砲・澤部椿役は希水しおさんと山本咲希さん。公生と椿の友人・渡亮太役は吉原雅斗さんと島太星さんと、オーディションで選出されたフレッシュなキャストが揃いました。

THEATER GIRLは、主人公・有馬公生役の岡宮来夢さんにインタビュー。前編では、念願だったという本作に出演が決まった時の心境や新たな挑戦だと感じていること、Wキャスト時の役への取り組み方の変化など、たっぷりとお話をうかがいました。

インタビュー後編はこちら

出演が決まったときは心からうれしかった

――本作に出演が決まった時の心境と、有馬公生役を演じることになった時のお気持ちはいかがでしたか。

シンプルにうれしかったですね。初演を観劇した後にマネージャーさんに「公生をいつか演じたいです」と連絡したくらいだったので、決まったときは心からうれしかったです。どの楽曲も大好きで、全部口ずさめるくらいCDを聴き込んだので、これを実際に歌えるんだと思うと本当に幸せでした。

――楽曲を実際に聴くのと歌うのとではやっぱり違いますか？

『四月は君の嘘』の楽曲は特に青春感や疾走感、若々しさや瑞々しさを感じるので、聴いているととてもキャッチーで耳なじみが良いのですが、実際に歌う側になるとかなりエネルギーを使います。

実はトリッキーな動きをしていたりするので、歌うのは大変ですが、そこも含めて楽しいです。楽曲に負けないように、聴き応えのある歌を届けられるよう頑張りたいです。

――現時点で、特に歌っていて「楽しい」と感じた楽曲はありますか？

全ての楽曲が歌っていて楽しいのですが、加藤梨里香さんと「流れ星をつかまえよう」という楽曲を歌わせていただいたときに、声の重なりの相性がとても良いなと感じました。それがレコーディングでの初めてのデュエットだったので、とても印象に残っています。そこにお芝居が加わったらまた全然違うものになると思うので楽しみです。

もちろん公生としてのソロ曲もすべて楽しみです。バーッと力強く歌い上げる曲もあれば、繊細に歌う曲もあって、さまざまな声の使い方をすることでより色彩豊かになると思うので、いろいろな歌い方に挑戦してみたいと思っています。

「居方」を模索しながら、自分なりの公生を作れたら

――さまざまなミュージカル作品に出演されている岡宮さんですが、今回の作品で新たな挑戦だと感じている部分はありますか？

これまでは主演として物語を引っ張っていく、エネルギーにあふれたキャラクターを演じさせていただくことが多かったのですが、今回は少し違います。公生は物語を動かすというよりは、むしろ動かされていく側の存在だと思うので。

それでも、作品の真ん中にはいなければならない役柄なので、そういう在り方を演じるのは自分にとって初めてかもしれません。その「居方」を模索しながら、自分なりのオリジナリティある公生を作れたらいいなと思っています。

――たしかに、これまでは真ん中で物語を引っ張るような役が多かった印象があります。

どちらかというと、バイタリティに満ちたキャラクターが多かったですね。今回は、どちらかというと渡くんや椿、かをりのほうがエネルギッシュで、感情をストレートに出していくタイプだと思います。

一方で公生は、自分の中に殻を抱えていて、そこから一歩踏み出していくような役柄なので、その変化の過程をどう表現していくか、今からすごく楽しみです。

――ビジュアル撮影の時は、公生よりも渡の方が似ているかもとおっしゃっていましたね。

そう聞くと「モテてきました」みたいな雰囲気になってしまいそうですが、そんなことは全くなくて（笑）。学生時代はずっとスポーツをやっていて、けっこうアグレッシブに過ごしていたので、そういう意味では渡くんの方が近いかもしれません。

――公生は歌だけでなく、演技の面でもかなり繊細な表現力が求められる役どころだと感じます。役作りについては、現在どのように取り組まれていらっしゃいますか？

学生の姿だけではなく、そこに至るまでのバックボーンをしっかり作りたいと思っています。幼少期の経験が彼の人格形成に大きな影響を与えていると感じるので、そこを丁寧に描いていきたいです。

最初のシーンが「僕にピアノが聞こえないなら」という曲なのですが、そこでどれだけ公生の背景を表現できるかが、この曲の説得力、ひいては作品全体の引き込み力に繋がってくると思っています。だからこそ、まずはそこにしっかりと重きを置いて作り込んでいきたいです。

――これまで演じてきた役でも、バックボーンを大切にされていたのでしょうか？

結構こだわっていて、たとえばシーンとシーンの間に何が起きているのか、どれくらい時間が空いているのか、そういった部分を整理しながら、自分で時系列をノートに書いたりしています。

その間に何があったのか、自分なりに想像して補完しておくことで、演技にも安心感が出ると思うんです。もちろん間違っていることもあるかもしれませんが、それでも「こういうことがあったのではないか」と思っておくだけで、芝居に深みが出てくると思うので。

近くに同じ役を経験した先輩がいるのは「本当に贅沢な環境」

――初演では、有馬公生役をミュージカル『ロミオ＆ジュリエット』でロミオ役をWキャストで務めた小関裕太さんも演じられていましたが、何かアドバイスを受けたり、お話しされたりしたことはありますか？

僕は作品に触れるときに「漫画が先かアニメが先か」ということを大事にしているのですが、これまでは漫画が原作の作品が多かったので、まずは漫画から得た情報で役作りをするようにしようという考え方だったんです。

でも、『ロミオ＆ジュリエット』の時に、（小関）裕太くんから「アニメもおすすめだよ」と言ってもらって。裕太くんが言うなら観てみようかなと思って、今回はアニメを観させていただきました。

裕太くんの誕生日に「おめでとうございます」とLINEを送ったら「またご飯行こうね」と返事をくれて。そのときに、「もし公生のことでちょっと行き詰まったら、連絡させてください」とお願いしたんです。

もちろん、自分のオリジナリティはしっかり出していきたいと思っていますが、もしもう一段階深めたいと思った時には、裕太くんに話を聞かせてもらえたらと思っています。「本当に楽しみにしてるよ」と言ってくれたので、その言葉がすごく励みになりますし、頑張ろうと気合いが入りました。

――すぐ近くに、同じ役を経験した先輩がいるというのは心強いですね。

本当に贅沢な環境だと思います。

――ミュージカル『SPY×FAMILY』では、初演で澤部椿役を演じた唯月ふうかさんとも共演されていましたし、初演時の出演者の方との共演も多いですね。

ふうかちゃんをはじめ、仲良くしてもらっているメンバーが出演していた作品でもあるので、そういった意味でも特別な思い入れがあります。作品を守っていくという意識も自然と強くなりますし、勝手ながら「この作品を絶対に続けていきたい」という気持ちも抱いています。

日本発の作品が世界へ広がっていくこと自体がとても素晴らしいことだと思いますし、これから先もそういう未来が続いていってほしいです。そのためにも、自分が真ん中に立って、しっかりと引っ張っていけるように頑張っていきたいと思います。

僕のほうが学ばせてもらいたいことが多い

――今回、公生役はWキャストとして東島京さんとご一緒されます。公生という役を一緒に作り上げていくことになると思いますが、東島さんの印象はいかがでしょうか？

すごく好青年でフレッシュな方だなと感じました。僕と年齢は7つ離れているのですが、この作品は学生の物語なので、若さというのはすごく大切だと思っています。そういう意味でも、京くんは本当に公生にぴったりだと思いました。彼自身ピアノも弾ける方なので、本当に適任だと感じています。

彼のほうから「頼りっぱなしになっちゃうかもしれません」と言ってくれたのですが、全くそんなことはなくて。むしろ僕のほうが学ばせてもらいたいことが多いと思っているので、すごく頼りにしています。

ただ、舞台経験の面では僕のほうが具体的に積んできたことが多いと思うので、もし何か聞かれた時には、自分なりにお手伝いできたらいいなと思っています。ただ、あまりこちらから積極的に言うのも違う気がするので、あくまで自然な形で、何かあれば力になれたらいいですね。

――すごくいい関係性が築けそうですね。ピアノのご経験についてもお伺いしたいのですが、何か習っていらっしゃったことはありますか？

いえ、まったく通ったことはなくて。唯一の経験としては、自分のファンイベントでBUMP OF CHICKENさんの「花の名」という楽曲を披露させていただいたことがあるくらいです。ピアノは独学で練習していて、本格的に触れ始めたのはそのときからですね。

――今も練習されているのですか？

はい。そのイベントをきっかけに鍵盤に触れることがすごく楽しくなって、なるべく時間を見つけては触るようにしています。この前も自分で弾ける曲がまた増えて、すごくうれしかったです。

折りたたみ式のピアノをプレゼントでいただいたのですが、持ち運びができるので、今ではどこでも弾けるようになりました。先日、海外に行った時にスーツケースに入れて持っていこうか迷ったのですが、「壊れたら困るな」と思って断念しました。まだ持ち出すところまではいっていないのですが、それでもどこでも練習できる環境が整ったことが本当にうれしいですね。

――やはりピアノに慣れていると、舞台上でもリアリティが増しそうですね。

そう思います。特に、ピアノを長くやってきた方ほど、迷いなく鍵盤の前に立てると思うんです。だからこそ今はとにかくたくさん触れて、練習して、できる限りの準備をしたいと思っています。

まったく違う仕上がりになると思います

――今回、宮園かをり役は加藤梨里香さんと宮本佳林さんのWキャストになりますが、それぞれとの共演で、作品にどんな変化がありそうですか？

おそらくまったく違う仕上がりになると思います。お二人とも雰囲気が異なるので、それぞれのチームで作品のテンポ感や空気感が変わってくるのではないかなと。

やっぱりこの作品は、かをりちゃんが物語を大きく動かしている存在なので、彼女たちが中心に立つことで、シーンごとの進行や感情の波が変化していくのではないかと想像しています。それがすごく楽しみですし、ワクワクしています。

――公生役としても刺激になりますね。

すごく良い刺激になりますし、それぞれのかをりちゃんとの関係性の違いも楽しみです。

――Wキャストで役を演じる際、共演者によって演技や役への取り組みが変わることはありますか？

たとえばミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』の時は、オランプ役が（星風）まどかさんと（奥田）いろはちゃんのWキャストだったのですが、それぞれ全く違う魅力がありました。まどかさんは芯がしっかりとした落ち着いたオランプで、いろはちゃんは少しあどけなさが残る、可愛らしい雰囲気のオランプだったんです。

なので、演じる側としても自然と心持ちが変わりましたし、お客様に「こういう風に届くとオランプが素敵になるかな」というものがそれぞれあったので、「このキャストの時はこういう風に言った方がいいのかな」と、いろいろと稽古中に試行錯誤するのがすごく楽しかったです。

今回は4役ともWキャストなので、どうなるのかすごく楽しみです。それこそ『ロミオ＆ジュリエット』の時も、モンタギュー家のキャストの雰囲気が違っていて。（伊藤）あさひくんとあっきーくん（内海啓貴）、（石川）凌雅くんと（笹森）裕貴くんとで、それぞれの空気感がまったく異なっていました。

そして、僕と裕太くんのロミオが多分いちばん違いがあったんじゃないかなと思います。実際、お客様から「別の作品を見ているようだった」と言われるくらい、全く違うものに仕上がっていたので、今回もそういうWキャストの楽しさがあるのではと期待しています。

――いろいろな組み合わせで観てもらえると、より楽しめそうですね。

そうですね。キャストが入り交じることで、毎回の舞台が新鮮になるので。舞台に立つ人間としては、「新鮮さを忘れないように」と言われることが多いのですが、この座組に関してはもう、新鮮さしかないという感じになりそうなので。だからこそ、すごく楽しみですね。

――今回の座組は、皆さん初共演になるのでしょうか？

今回の共演者の中には、今までご一緒したことのある方が一人もいないんです。なので、より一層新鮮な気持ちで向き合える作品になりそうだと感じているので、めちゃくちゃ楽しみです。