酒井大成インタビュー『狂人なおもて往生をとぐ―昔、僕達は愛した』「この舞台を経てどう変わっていくのか楽しみ」（前編）

2025.10.15

INTERVIEW

2025年10月11日より東京・IMM THEATERにて、『狂人なおもて往生をとぐ―昔、僕達は愛した』が上演されます。

挑発的、熱狂的でありながらも、美しい詩的なセリフが印象的な数多くの伝説的戯曲を生み出した劇作家・清水邦夫氏が、新しい世代の作家としての地位を確立した戯曲『狂人なおもて往生をとぐ―昔、僕達は愛した』が、今最も注目を集める演出家・稲葉賀恵さんの演出で上演されます。

娼家の女主人のヒモで、逃れたくてもその優しさから逃れられずにいる主人公・出を演じるのは、ドラマ、ミュージカル、ストレートプレイと様々な分野で活躍する木村達成さん。

共演に、岡本玲さん、酒井大成さん、橘花梨さん、伊勢志摩さん、堀部圭亮さんと、確かな実力を持つ俳優陣が集結しました。

THEATER GIRLは、酒井大成さんにインタビュー。前編では、本作に出演が決まった時の心境や役柄の印象、主演の木村達成さんとの関係性などについてうかがいました。

インタビュー後編はこちら

――酒井さんにとって、今回が初めてのストレートプレイへの出演になるとのことですね。

事務所に入る以前、フリーランス時代に小劇場で一度だけ舞台に立ったことがありますが、それ以来なので、ほぼ初めてに近い感覚です。当時は芝居というものが何なのかしっかりと理解していない状態での経験だったので、実質的には今回が初挑戦だと思っています。

――出演が決まった時の率直なお気持ちはいかがでしたか？

台本を何度も読み返したのですが、一度では理解しきれないくらい複雑で、家族や教育といったテーマをはじめ、さまざまなメッセージが込められていると感じました。

俳優としてのキャリアや作品への向き合い方が、この舞台を経てどう変わっていくのか、自分自身でも楽しみですし、ワクワクしています。

――本作では敬二役を演じられますが、現時点ではどのようなキャラクターだと捉えていますか？

具体的な形はこれから作っていく段階ですが（取材時）、現時点で思うのは、彼は家族や教育といった枠組みから「自由になりたい」と強く願っている人物だということです。家族というしがらみの中で一番強い反骨心や反抗心を持っているのが、この敬二ではないかと感じています。

――公式サイトで「今の時代でも共感できる部分がある」とコメントされていましたが、具体的にどのような部分に共感できると感じられたのでしょうか。

作品の舞台は戦後ですが、そこで描かれている「親を立てる」「親孝行をする」という教育システムは、今の時代でもまだ残っていると感じています。僕自身も振り返ると「親孝行しなきゃ」という意識はありました。だからこそ、現代の目線で重ね合わせながら見ることができると思います。

稲葉さんもおっしゃっていましたが、この作品は当時の物語というよりも「今の時代だからこそ観る価値がある」ものなのではと思っています。

今は「舞台」という場所に立つことへのワクワクが大きい

――稲葉さんの演出を受けられるのは今回が初めてになりますね。

初めてですし、キャリアも経験も浅いので暗闇に飛び込むような感覚ですが、それも含めてすごく楽しみです。もちろん稲葉さんとご一緒できること自体も光栄ですし、今は「舞台」という場所に立つことへのワクワクも大きいです。

――酒井さんは、さまざまな映像作品にも出演されていますが、今回の舞台出演は大きな振り幅のように感じます。新しいことに挑戦したいというご自身の意思もあったのでしょうか？

普段から出演作について、マネージャーさんとも話しているのですが、今回、挑戦的で作品性のある舞台に出演が決まったことは本当にうれしいです。ここ1年ほどは特に「新しいことに挑戦したい」「芝居でもう一段階成長したい」という気持ちが強くて、その中で「舞台に挑戦してみよう」と決心しました。だから今回は、本当にいいタイミングで挑戦させていただけると思っています。

――まさに「挑戦の第一歩」ということですね。

はい。ここからまた一皮むけられるように、しっかりと取り組んでいきたいです。

木村達成さんは「兄貴的な存在」

――本作で主演を務められる木村達成さんを始めとした共演者の方々については、どんな印象をお持ちですか？

木村さんとは、実は別の作品でもご一緒していて、その時から兄貴のように接してくださいました。ご飯にも連れて行っていただきましたし、僕にとって兄貴的な存在です。今回の作品では、木村さん演じる出の“弟”役を演じるので、すごく運命的なものを感じましたし、役柄としても自然に関係性を築けそうです。

――まさに兄弟のような関係性が生まれているのですね。本作の登場人物は「それぞれが必死に何かを求めてもがき、苦しんでいる」姿が印象的ですが、酒井さんご自身も今までにそのような経験はありますか？

僕自身も毎日もがいている感覚があります。俳優を始めてから特に、作品に入っていないと落ち着かないですし、日常の中で芝居につながるものを探してしまいます。常に日常と向き合いながら模索しているところは、敬二と近いのかもしれません。

――日常生活でも役者としての視点を意識されているのですね。

そうですね。日常の小さなことを芝居に取り入れようと意識するようになりました。今、アクションスクールにも通っているのですが、作品に関わらず、同世代の役者の中でも自分の武器を持ちたいと思っていて。これからは資格を取ることにも挑戦しようと思っています。作品に入っていない時間でも「今できることは何か」を常に探してしまいますね。

――とても真面目にお芝居と向き合っていらっしゃるのですね。

良くも悪くもそういう性格なので（笑）。でも、そうやって常に何かをしていないと落ち着かないところが、自分の強みにつながっていけばいいなと思っています。

――作中では「ピンク色の照明」が印象的に登場しますが、酒井さんご自身を“色”に例えると、どんな色だと思いますか？

色ですか……でもやっぱり自分は「白」に近いのかなと思います。割と真っ直ぐで、一つのことにのめり込むタイプなので。だから例えるなら白。自分で言うのは少し気恥ずかしいですが、純粋とか純白というよりも、なんでも染まれるという意味で。良くも悪くも、というところですね。