斉藤由貴インタビューミュージカル『Once』「舞台は、自分を試す場所」（前編）

2025.08.26

INTERVIEW

2025年9月9日(火)より東京・日生劇場にて、ミュージカル『Once』が上演されます。

本作の原作は、2007年に公開されたアイルランド映画で、全米2館での公開から口コミで話題を呼び、140館まで拡大公開され、世界中で大ヒットを記録。代表曲「Falling Slowly」は、主人公とヒロインの繊細な心の揺れ動きを見事に表現した名曲で、第80回アカデミー賞最優秀歌曲賞を受賞。

その後、2011年12月にミュージカル版がニューヨーク・シアターワークショップで開幕。翌年2012年2月にはブロードウェイへ進出し、トニー賞11部門でノミネート、作品賞、演出賞、脚本賞、主演男優賞を含む8部門を受賞する快挙を成し遂げました。

日本でも来日公演、海外プロダクションによるコンサート版上演もされ、長年注目を集め続けている本作が、この度、初めて日本カンパニーにより日生劇場で上演されます。

演出を稲葉賀恵さんが務め、主人公のストリートミュージシャンである“ガイ”をミュージカル『モーツァルト！』での主演好演が記憶に新しい、京本大我さんが演じます。

共演には、ヒロインのチェコ移民“ガール”にsaraさん、“ガイ”の父親ダ役に鶴見辰吾さん、“ガール”の母親、バルシュカ役を斉藤由貴さんが務め、さらに、小柳友さん、上口耕平さん、こがけんさん、竪山隼太さん（Wキャスト）、榎木淳弥さん（Wキャスト）、佐藤貴史さん、土井ケイトさん、青山美郷さん、新井海人さんと実力派キャストが集結しました。

THEATER GIRLは、バルシュカ役の斉藤由貴さんにインタビュー。前編では、本作へ出演が決まった時のお気持ちや役柄について、主演の京本大我さんやガール役のsaraさんの印象をお聞きしました。

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久しぶりに舞台のお仕事をいただけて本当にうれしい

――今回、約15年ぶりに東宝作品へのご出演となりますが、出演が決まった時はどのようなお気持ちでしたか。

もう15年も経っているんですね。ずいぶん間が空いてしまったんだなと、改めて感じます。気がつくとずっと映像の仕事が続いていて、「最近舞台をやっていないな」と感じていたので、久しぶりに舞台のお仕事をいただけて本当にうれしいです。

――斉藤さんご自身は、舞台に立つことはお好きですか？

正直に言うと、あまり好きとは言えないです（笑）。自分との戦いになるので。怠けていた部分や身体的な鍛錬の足りなさ、自分の実力の限界など、いろんなことを思い知らされる場なんです。だから、落ち込むことも多いですし、気持ちが焦ったりすることもあります。

でも、だからこそ「やらなきゃいけない」と思っているんです。舞台は、自分を試す場所でもあると感じています。

――数年に一度は、チャレンジしたいという感覚なのですね。

2年ほど前に朗読劇に出演したのですが、今回のように歌って芝居をするのは久しぶりなんです。なので、今は「楽しみ」というより「怖い」という気持ちのほうが強いかもしれません。

でも、今回の『Once』は、京本さんとsaraさん演じる「ガイ」と「ガール」の関係性が軸になる作品ですよね。その点ではちょっと気持ちが楽です。私はステージ上にいる時間は長いかもしれませんが、ずっと喋りっぱなしというわけではないと思うので。むしろ、京本さんとsaraさんの歌を毎回聴けることが楽しみなので、お客さんのような気持ちで見守っています。

不思議なのですが、セリフだと何度も聞いているうちにルーティンになってしまうこともあるんですが、歌に関しては何度聴いても飽きないので、音楽の力ってすごいですよね。毎回新鮮に心に響いてきます。

バルシュカは「強烈な存在感を放つ母親」

――本作では、ガールの母親・バルシュカ役を演じられますが、脚本を読まれて、現時点での印象や、役に取り組む上で意識しているポイント、また取り組みやすいと感じている部分があれば教えてください。

やはりこの作品はガイとガールの物語が中心なので、私が演じるバルシュカは出番がすごく多いわけではないんです。セリフの量も限られていますし、その限られた中でどれだけ自分の表現ができるかというのが、ひとつのチャレンジだと感じています。

それに加えて、少ししか登場しないのに、バルシュカは割と強烈な存在感を放つ母親なので、その強い個性をどうやって表現するのが一番良いのか、模索しているところです。

とはいえ、最終的には演出の稲葉賀恵さんの考えに委ねるつもりです。彼女の演出意図やコンセプトをしっかり伺った上で、それに沿って作っていけたらと思っています。

――バルシュカの歌うナンバーはどのような曲なのでしょうか？

全員で歌うようなものも含めて、3～4曲ほど歌うと思います（取材時は稽古開始前）。この作品のメインテーマである「Falling Slowly」は、本当に素晴らしい楽曲ですし、物語自体は、アイルランドの移民たちの貧しい時代を背景にしていますが、その分、音楽の純粋な力や登場人物たちのまっすぐな思いが、とてもストレートに伝わってくる気がします。

華美な情報が詰め込まれていないからこそ、シンプルに「出会って、惹かれ合って、でも様々な問題があって……」という切なさがダイレクトに心に響いてくる。そんな印象を受けました。

――今回、ガールの母親役を演じられますが、ご自身の経験を重ねて表現されたりエッセンスを入れたりしようと考えている部分もありますか？

ガールがガイと出会って、恋に落ちていく様子を母親として見守る立場ですが、私自身にも娘が2人いますので、「ああ、こんなふうに思うかもしれないな」と重ねる部分はあります。

ただ、最終的には、たとえ未経験や未知数だったとしても、自分の人生は自分で経験していくしかないと思っているんです。傷ついたり、失敗したり、でもそれを通してしか進めない。だから、親としてできるのは口を出さずに見守ること。悲しいときにそっと声をかけるくらいしかないのかなと、最近は特に感じています。

私とバルシュカはもちろん違う人間ですし、考え方も違う部分は多いですが、共通する母親としての感情はあると思います。たとえば、私なら、美味しいものを一緒に食べに行ったり、旅行に出かけたりと、楽しいことを共有するようにしています。

直接的にはあまり干渉しないけれど、「頑張ってね」という気持ちをそっと遠くから伝えるような、そんな距離感を大切にしています。押しつけがましくなく、でもちゃんと見ているよ、というスタンスですね。

京本さんの歌声は「ピュアで澄んだ印象」

――今回主演を務める京本大我さんや、ガール役のsaraさんの印象はいかがでしょうか？

お二人ともまだお会いしたことがないのですが（取材時）、京本さんの歌声を、「さよなら帝国劇場最後の1日 THE ミュージカルデイ」の番組で初めて聴いたのですが、そのときの彼の歌には、とてもピュアで澄んだ印象がありました。あの雰囲気は、この『Once』という作品にとても合っていると思います。

この作品は、何よりも音楽が素晴らしいですよね。saraさんもきっと素晴らしい歌声をお持ちだと思うので、ご一緒できることをとても楽しみにしています。

どちらかというと共演者というよりも、いち観客のような気持ちで、楽しみにしています。

――本作では、京本さんはギターを弾いたりするシーンもあるとのことですね。

本当にすごいですよね、演奏もとても楽しみです。

――斉藤さんは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のコゼット役で東宝ミュ―ジカルに出演されて以来、様々なミュージカル作品に出演されています。ミュージカルにおいての魅力ややりがいを感じる部分はどのようなところでしょうか？

実は『レ・ミゼラブル』に出る前に『マイ・フェア・レディ』にも出演しているんです。栗原小巻さんが主演をされていた時代で、大地真央さんが演じる前のことですね。デビューしたばかりの頃、夏休みの1ヶ月間だけ出演させていただきました。ちょっとした花売り娘の役で、舞台を横切るだけのような小さな役だったのですが。

――それでも、印象に残る体験だったのですね。

『マイ・フェア・レディ』では、自分の出番以外の時間は、楽屋でずっとモニターを見ていました。でも、それがまったく飽きなかったんです。だから、自分でも「私、ミュージカルが本当に好きなんだな」と思いました。

――今回の『Once』でも、ご自身の出演シーン以外にも魅力を感じていらっしゃるかと思いますが、実際にステージに立たれているときはどのようなお気持ちですか？

それは自分の調子にもよりますね。最初のうちはなかなか楽しむ余裕までは持てないので、ドキドキする気持ちの方が強いです。

特にミュージカルでは、舞台専門で訓練を受けてこられた俳優の方々が多くいらっしゃいますし、皆さん本当にお上手なんです。私はアイドル歌手としてスタートした人間ですし、声楽科に通っていたわけでも、音楽系の大学を出たわけでもありません。だからこそ、常に「自分に足りない部分がある」という意識がどこかにあります。なので、それをどうやって補っていくか、いつも考えています。

皆さんと同じ土俵で勝負しても難しいので、自分にしかできない表現を探していくしかないと思っています。歌を歌う時も、そういった気持ちは常にありますね。

取材・文：THEATER GIRL編集部
撮影：野田涼

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