前原滉インタビュー 『ありきたりな言葉じゃなくて』「観終わった後になにか考えることができる映画だと思います」(後編)
2024年12月20日より、映画『ありきたりな言葉じゃなくて』が公開されます。
本作は、テレビ朝日のグループ会社として、報道情報番組やバラエティ番組など数多くの番組制作を手掛けてきた「テレビ朝日映像」が【映画プロジェクト】を発足させた65年の歴史の中で初めて長編オリジナル映画の製作に挑戦した作品です。
「この会社を使ってみんなの夢を叶えてほしい」という呼びかけに対し、これまで見たことのない、海外でも楽しめる作品作りを目指し、45の企画が集まり、その中から“映像業界で起きた実際の出来事”を基にした本作が選ばれました。
THEATER GIRLは主人公・藤田拓也役を演じた前原滉さんにインタビュー。後編では、撮影現場で印象的だったことや本作の鍵となるシーンの裏側などを語っていただきました。
拓也という人物を通して監督と僕が向き合っていた気がします
――撮影をしていて印象に残ったことはありますか。
とても全員野球の現場で、報道やバラエティ番組などを担当していて初めて映画の現場に入った方が多かったことが印象的でした。全員野球だからこそ、できることもあればできないこともあって。それぞれの現場で培ったものを活かしている人や、いろんな人がいて、楽しかったです。最終日の撮影を迎えて「もう終わるんだ」という寂しさと「これでやっと年末を迎えられる」という思いでした。
――具体的にどんなことがあったのでしょうか。
夜にタクシーに乗るシーンが最後の撮影だったのですが、タクシーの上についている行灯を途中無くなってしまったみたいで。ないままだと画が繋がらないから、現場すたっふみんなが手持ちの文房具などを使って手作りしてくださったんです。遠くから撮るから似ていれば問題ない、みたいな。その全員でなんとかしようとしている様子を見た時に「すんなりとはいかないけれど、すてきな現場だな」と思ったことを覚えています。
――現場では「いろいろなことがあった」とのことですが、撮影における精神的なことよりは物理的なことが多かったのでしょうか。
どっちもですね。どの撮影現場もそうだと思っていますが、何の疲弊も喜びもなく終わる現場はないです。主演となると現場にいる時間も長くなるからこそ「いろいろあった」と思ったんだと思います。「楽しかった」と「辛かった」が、いい意味でちゃんと共存していました。
――そんなすてきな現場で撮影した印象的なシーンはありましたか。
家族のシーンがすごく好きでした。両親を演じられたお二人(=酒向芳、山下容莉枝)ともすごくあたたかくて、変に作らなくても二人がいるだけで家族の空気になれたと思います。その“あたたかさ”が印象的でした。
――本作が初長編となる渡邉崇監督とのタッグはいかがでしたか。
実は昔、渡邉監督がドラマのプロデューサーを務めていた時に、僕も出演していたことがあったんです。今回出来上がった作品を観た時に「渡邉さんが撮って編集すると、こういう形になるんだ」と思いました。
撮影しながら「どうなってくんだろう」と思うことの方が多かったかもしれません。だからこそ、渡邉さんは事前にたくさんお話ししてくださいました。
――具体的に、監督とはどのようなお話をされたのでしょうか。
僕は、俳優が脚本家さんの書いた言葉に物申すことはあまりしたくないと思っているんです。その場で生まれた言葉が大事な時や良い時もあるけれど、脚本に書いてあることがベースであって、プロの脚本家さんとは棲み分けが違うので。でも、今回は「脚本のことも意見を言ってください。一緒に作っていきたいので」というお言葉をいただいたので、それも一つのチャレンジだったのかなと思っています。この作品に出演する覚悟を決めたのも、そういったお言葉があったからというのもあったので。「そのチャレンジも含めてやってみよう」と、すごくディスカッションもしてくださいました。
――ディスカッションをしたうえでも、撮影が始まると「どうなってくんだろう」と思うこともあったのですね。
きっと僕も渡邉さんも腹黒いんだと思います(笑)。思っていることを全部出し合って喧嘩しながら進めていくのではなくて、穏やかに進んでいるけれど、ちゃんと心の中にはお互い持っているものがある、みたいな。そういう点で僕と渡邉さんは似ていると感じました。
現場では、あまり言葉は多くなかったですが、準備の段階できちんと話し合えていたからこそ、それぞれで抱えながらやっていたのかなと。でも、それはネガティブなことではなくて「じゃあ、自分はこうしよう」と、お互いにやれていたんだと思います。拓也はどこか僕にも渡邉さんにも似ているところがあって、拓也という人物を通して二人が向き合っていた気がします。
――脚本家役ということもあり、セリフの一つ一つがすごく重要な意味を持つ映画になっているかと思いますが、演じてみていかがでしたか。拓也は、不用意に言葉を発してしまう印象もありますよね。
そうですね。でも、それは僕にもあるので、「言わなければよかった」みたいなところも、拓也と似ているなと思いました。その時の五感で喋ってしまうというか。例えば、「渡邉さんの方をなんで今見たんだろう」とか、意味が出ちゃうことをしてしまうみたいな(笑)。「それは言わなくていいよ」と思うセリフがありながらも、拓也という人間に少し共感もしました。
この作品は「派手ではないけど、なにか考えることができる映画」
――酔っ払い方のグラデーションがものすごくリアルだったのですが、あれはモデルがいたのかご自身から出た自然なものだったのでしょうか。
これはよく言うのですが、酔っ払いの演技は普段酔わない人の方がうまいそうなんです。僕は酔っていてもほぼ変わらないタイプで。どちらかと言うと、飲み会でも酔って崩れていく人を客観的に見る側ですね。なので、これまで見てきた方々がモデルなのかな(笑)。でも、順撮りというわけではなかったので、バランスを話し合いながら進めていたということもあると思います。
――ワークショップ受講生の方々とのやり取りも印象的でしたが、現場はどんな雰囲気でしたか。
いい意味で、クセ者が多かったですね(笑)。すごく素敵で「こんなふうになれたらよかった」と思える方がたくさんいました。僕は、良くも悪くも“普通”というところから抜け出せない人間なんですよね。抜け出そうともがきはするのですが、あの現場には、いるだけで目を引く方がたくさんいましたし、アドリブもとても多いシーンでしたね(笑)。
――具体的に印象に残っている方はいましたか。
高木ひとみ〇(ぽんぽこ)さんは声だけでも面白いのに、芸人さんということもあって、アドリブとなると楽しくなっちゃっていました。高木さんが話すと全員笑ってしまっていましたね。ギスギスしたきまずいシーンでも、現場の空気はあたたかかったですね。
あと、チャンス(大城)さんです。チャンスさんだけ本番とテストでやることが毎回違って、持ちネタを披露するというアドリブっぷりでした。でも、脚本に書かれていることをちゃんと話した上でアドリブをやられていたので、みなさん、すごく丁寧にやってくださったのですごくありがたかったです。
――最後に、本作を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
この映画は、特別なファンタジーでも派手な物語でもないのですが、すごく身近な話かと言われると、人によってはそうではないとも思っています。予告を観てなのか、こうやって取材していただいた僕の言葉を通してなのかは分かりませんが、目の前にあるものとしてこの映画を観ていただけたらうれしいですし、どんな方に観てもらえるのか楽しみです。
僕個人としては出し切ったつもりでいますが、それは映画を観る方には関係ないので。登場人物それぞれを観るでもいいし、物語の展開を観るのでもいいのかなと。派手ではないけれど、きっと観終わった後になにか考えることができる映画だと思います。ぜひ、見ていただけたらうれしいです。
取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:野田涼
ヘアメイク:ゆきや(SUN VALLEY)
スタイリスト:臼井 崇(THYMON Inc.)
公演概要
『ありきたりな言葉じゃなくて』
12月20日(金)より全国公開
出演:前原滉
小西桜子 内田慈 奥野瑛太 那須佐代子 小川菜摘 山下容莉枝 酒向芳
池田良 八木光太郎 沖田裕樹 敦 士 鈴政ゲン 加藤菜津 佐々木史帆 高木ひとみ◯ 谷山知宏 今泉マヤ 根岸拓哉
チャンス大城 土屋佑壱 浅野雅博 外波山文明 玉袋筋太郎
脚本・監督:渡邉 崇
原案・脚本:栗田智也
製作・エグゼクティブプロデューサー:若林邦彦 企画:陣代適 統括プロデューサー:阪本明 粟井誠司 安田真一郎
プロデューサー:丸山佳夫 キャスティングプロデューサー:山口良子 脚本協力:三宅隆太
音楽:小川明夏 加藤久貴 撮影:長﨑太資 照明:後閑健太 録音:山口満大 助監督:吉田至次 畑山友幸
スタイリスト:網野正和 ヘアメイク:渡辺真由美 制作担当:岩下英雅 編集:鷹野朋子 カラリスト:長谷川将広
音響効果:佐藤祥子 配給統括:増田英明 宣伝プロデューサー:橋本宏美 スチール:柴崎まどか
制作プロダクション:テレビ朝日映像 配給:ラビットハウス 宣伝:ブラウニー
2024年/日本/カラー/アメリカンビスタ/DCP/5.1ch/105分/G
©2024テレビ朝日映像
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