眞島秀和×吉高由里子インタビュー『クランク・イン!』「舞台は役者をやっている上でいちばん純度の高い仕事」(前編)
2022年10月7日(金)より10月30日(日)まで本多劇場にて、M&Oplaysプロデュース『クランク・イン!』が上演されます。
今作は劇作家・演出家の岩松了さんが手がける新作舞台。映画製作の現場で繰り広げられる、ある女優の死を巡った映画監督と女優たちの愛憎と葛藤を悲喜劇として描きます。
ベースとなるのは2020年に上演された岩松さん作・演出の二人芝居『そして春になった』。ある映画監督の妻と、その監督の愛人であった女優という、かつてひとりの男を巡って憎みあったふたりが、時を経て共感とも友情ともとれる感情を抱いていくさまを、モノローグによる回想ドラマとして描きました。
物語はある新人女優の死により暗礁に乗り上げていた映画の製作が、全員の映画を完成させようという使命感によりクランクインの時を迎えたことから動き始めます。亡くなった女優は監督の別荘の湖での事故で溺死したということになっているものの、事故当時に持っていたはずのお気に入りのポシェットが見つからないなど、本当に事故死なのか状況はあやふやなまま。撮影のため世間から隔絶された現場は緊張感に満ち、主演女優にも容赦ないダメ出しが飛ぶ中で、プロデューサーの紹介で配役された女優・ジュンが徐々に存在感を増してきて――。女優陣それぞれの思惑と、監督への愛憎が次第に彼を追い詰めていきます。
出演者には、女たちに追い詰められる映画監督役に眞島秀和さん、強烈な存在感を放つ女優・ジュン役に吉高由里子さん、ジュンの存在に追い込まれていく主演女優に秋山菜津子さんが抜擢されるなど、豪華キャストが集結しました。また眞島さんは、今作唯一の男性出演者とのこと。
今回THEATER GIRLがインタビューしたのは、眞島秀和さんと吉高由里子さん。前編では岩松作品の魅力や、舞台稽古に向けて楽しみにしていること、これまでの舞台出演で得られたものなどについてたっぷり語っていただきました!
演出家としての岩松さんとついに仕事ができる
――まずは、今作への出演が決まった時の気持ちを聞かせてください。
眞島:岩松さんの作品はこれまで何度か観させていただいていて。役者同士として共演する機会も多かったので、俳優としての岩松さんはよく知っているんですが、演出家としての岩松さんとついに仕事ができるんだなという楽しみな気持ちがひとつと。あとは「岩松さんの演出は厳しいよ」といろいろな役者から聞いているので、ちょっと緊張もしています(笑)。
吉高:私は舞台を観に行った時の楽屋挨拶で岩松さんとお会いする機会があったり、もちろん共演したこともあったんですけど。(岩松さんが演出する舞台への出演については)冗談半分で仰ってるのかなと思っていたんです。だから今、実際にやるということになって、本当にやるのかまだフワフワしていますね。
眞島:(笑)
吉高:「ポスターは撮ったけれど、これ、本当に始まるのかな?」っていう感じで、まだ全然実感がなくて。今後また部活動のような日々が来るかと思うと楽しみでもあるんですけど、まだ信じられません。「え、本当に!?」って気持ちです。
眞島:すごく分かる。(手元にある分の台本も)まだほんの触り程度だしね。
――今のところはお手元に台本のさわり部分があるということですが、目を通してみての感想をうかがえますでしょうか。
眞島:本当にごくさわりの部分だけなんですが、会話が面白いので。やはり会話劇になっていくんだろうなと、僕は思ったんですけど。続きが楽しみです。
吉高:眞島さん演じる映画監督が、最低な人なんじゃないかって私は予想してます。実は(出演者の女性)全員と関係を持ってて。
眞島:あはは! ひどいな(笑)。
吉高:で、誰かに言い寄って誰かを殺させたっていうような、最低な人だったら面白いなって(笑)。そういう感じを想像して読んでましたけど。自分の役どころはまだほんの少しだけしか出てきていないので、どういう性格なのかなと。ただ、思っていたのとは違ったので、どうしていこうかと考えている最中です。
岩松作品の魅力とは「人間の汚い部分まで描かれている」
――おふたりとも、岩松さんが手掛けた舞台作品はこれまでにご覧になっていると思うんですが、その魅力について聞かせてください。
眞島:岩松さんの舞台には人間の本性というか、人間の汚い部分までちゃんと描かれているという印象があって。それに、セリフがすごく計算されているんですよね。どうやって本を作っていらっしゃるのかなと思ったことがあります。
吉高:私は、岩松さんは言葉の人だなと思っているんです。その一言のフレーズでどれだけ風呂敷を広げられるんだろうっていうくらい、想像もつかないような物語が進んでいく感じがして。きっと岩松さんが意地悪なんだと思いますけど。
――意地悪、ですか(笑)。
吉高:ひとつの言葉の揚げ足をどれだけ取って伸ばせるかっていうところで、人が考えられないような意地悪さを持っている人なんじゃないかなと思います。
――そんな岩松さんの作品世界に入りこむためには、ご自身にはどんなことが必要になると思われますか?
眞島:うーん。まずはどれだけフラットな感じでいけるかなと。今の段階ではどう入っていけばいいのかも分からないので、とにかく柔らかく入っていけたらいいなと思っています。
――それは普段とはまた違ったアプローチになるのでしょうか?
眞島:基本的にはおよそいつでもそうですね。大抵すごく達者な方がいるので、いつも「お世話になります」っていう気持ちで入っていきます。
吉高:私は舞台経験が少ないので、先輩方に引っ張ってもらって。丸投げしたいなと思います(笑)。
眞島:ははは。
――岩松さんの稽古場は怖いという印象をお持ちとのことですが、ほかにも噂話はあったりするのでしょうか。
眞島:どうでしょうねぇ(笑)。役者同士として現場で会う岩松さんはとても楽しい方なので、どれくらいギャップがあるのかなと楽しみでもありますけど。
吉高:私は余計な発言を控えようと思います。「君の今の言葉の意味は、どうしてそうなったんだ?」みたいに、理詰めされても困るので。何となくでしゃべるのはやめようって思います(笑)。静かにこう、時が立つのを待とうかなって。
眞島:僕もなるべく余計なことは言わないようにしようかな……。
――岩松さんの稽古は返し稽古が多いと伺っていますが、それについては?
眞島:もうそこは自分の運命だと思って頑張ります(笑)。
――吉高さんはいかがですか? 『レディエント・バーミン』に出演された時に演出をされていた白井晃さんも、粘り強い稽古をされる方だったとは思いますが。
吉高:そうですね。でも白井さんは私が「長いなぁ」と思っているのを察してくれて「ごめんね、早く言うからね!」っていう優しさがあったんですけど。岩松さんは、もしかするとそんな様子を見せたらさらに長くなるタイプなのかもしれないなって(笑)。
眞島:うーん、あまり出さないほうがいいかもしれない(笑)。
吉高:そうですよね。しれーっとしときます(笑)。