菅井友香インタビュー 『赤ひげ』 「“その役になれた”と思えた瞬間に、一番感情がこみ上げてくる」(前編)
2023年10月28日(土)~11月12日(日)に、明治座にて『赤ひげ』が上演されます。
明治座創業150周年を記念した公演の本作は、山本周五郎の小説「赤ひげ診療譚」を原作とし、江戸・小石川養生所が舞台となって物語が展開していきます。演出は、故・蜷川幸雄作品を中心に演出助手を務め、近年は『鋼の錬金術師』、『オイディプス王』などミュージカルからストレートプレイ作品までさまざまな作品を手掛けている石丸さち子さんが務めます。
小石川養生所の医長・新出去定(通称・赤ひげ)役を演じる船越英一郎さんを主演に、新木宏典さん、崎山つばささん、猪野広樹さん、高橋健介さん、河相我聞さん、菅井友香さん、山村紅葉さんらが脇を固めます。
THEATER GIRLは、女中・お杉を演じる菅井友香さんにインタビュー。前編では、本作への出演が決まったときのお気持ちや、共演者とのエピソードなどを語っていただきました。
光栄に思うと同時に大きな責任を感じた
――『赤ひげ』への出演が決まったときの気持ちを教えてください。
『赤ひげ』は長年愛され続けている名作ですし、今回は明治座創業150周年という記念すべきタイミング。それに加え、主演が船越(英一郎)さんということで、とても光栄に思うと同時に大きな責任を感じました。お杉という役に選んだいただいた期待にお応えできるよう、全力で挑もうと身が引き締まりました。
――本作は山本周五郎の小説「赤ひげ診療譚」が原作で、過去にはドラマ化や映画化もされています。ご覧になったものはありますか?
全部見ました。自分が生まれる前のお話ですが、実在した養生所がモデルになっているということで、新たな世界に触れて、たくさんの発見がありました。
――発見とは、例えばどんなことでしょうか。
生きていくのも大変な時代のなかで、医師の方々が情熱と愛情を持って治療されていたという部分です。人と人とが手をとりあって、現代まで時代をつないでくださったんだなと、グッと胸にくるものがありました。
――それを踏まえて脚本を読んだときは、どんな感想を抱きましたか?
原作や映像作品ではとてもたくさんの出来事が描かれているので、舞台にするときに、どの部分がピックアップされるのか気になっていました。脚本を読んでみると、長屋で生活をされている方や、医師の方々の葛藤などいろいろなところに焦点を当てて描かれており、“こうやって作っていくんだ”と感動しました。同時に、たくさんの要素がギュッと濃縮されているからこそ、舞台では描かれない部分もちゃんと自分で考えていかなければいけないとも感じました。
芯の強さをしっかり表現していかなければいけない
――菅井さんが演じるのは、とある患者を献身的に看病する女中・お杉ですが、どんな人物だととらえていますか?
貧しい家に生まれたことで世間からやさしくされることなく育ちましたが、いろいろなことを乗り越えてきているからこそ、生き抜く泥臭さもちゃんと持っている健気でやさしい女性です。お杉は特別な患者さんを親身になって献身的にお世話している女中なので、養生所の女中さんたちとはまた少し違う立ち位置なんです。演出の石丸(さち子)さんには、“仕事をするうえでの心の強さやたくましさを持っているのがお杉の核となるところ”だと助言をいただいたので、芯の強さをしっかり表現していかなければいけないと感じています。
――石丸さんの演出を受けてみて、いかがですか?
稽古初日、お杉の“芯のある深い声”というのが私の中でなかなか見つけられず、悩んでいたのですが、石丸さんが、「この舞台でアイドルとは違う友香の新たな扉を開こうよ」と言ってくださったんです。石丸さんの指導は厳しいですが、キャスト一人ひとりのキャリアも考慮したうえで、みんなに同じように厳しく愛情を持って指導してくださっていることを感じて。石丸さんの熱意に応えられるよう、最後までがむしゃらについていきたいと思いました。
――石丸さんがXで「菅井さんは稽古で目覚ましく進化中」とポストされていましたね。
自分はまだまだだと感じる毎日ですが、石丸さんは注意点を明確に言ってくださるので、努力すべき道筋が見えやすいです。
――まだまだだと感じながらも、お稽古を重ねて自分なりに進化を感じる部分もありますか?
正直、まだたりないなと思うことばかりで……進化したなと思えるのは、浴衣を早く着られるようになったことぐらいですね(笑)。稽古前に自分で着付けをするのですが、最初は40分くらいかかっていたのが、今では10分で着られるようになりました。やっぱり、毎日続けることって大事ですね。
――和装だと所作なども普段とは違うと思いますが、どんなところに難しさを感じますか?
歩き方や立ち姿、ふとした仕草まで、すべてが現代とは違うので、不自然な所作になってしまったり、ふとしたときに素の自分が出てしまう部分に難しさを感じます。なので、お辞儀や走り方など、そういう細かい点まで気をつけて練習しないといけないなと。でも、(山村)紅葉さんや船越さんが「その仕草は不自然だから、もっとこうしたほうがいい」というように、すごく丁寧に教えてくださるので、そういったありがたい環境で稽古できることに本当に感謝しています。
――山村さんは制作発表の記者会見で、菅井さんのことを「本当の娘か妹のように感じています」とおっしゃっていましたね。
うれしいです。私、初日は足袋を履いて稽古をしていたんです。そうしたら紅葉さんが、「女中は裸足になるから、裸足に草履で練習したほうがいいんじゃない?」と教えてくださって。それからずっと裸足で稽古をしていたら、昨日「最近、寒くなってきたから」って足袋ソックスをプレゼントしてくださったんです! うれしすぎて今は家でそれを眺めているだけなんですが、せっかくなので、どこかのタイミングで履かせていただきたいなと思っています。
船越さんは「本当に赤ひげ先生のような方」
――座長の船越さんは、稽古場ではどんな存在ですか?
ドシンと構えていらして、稽古中もみんなをしっかりと見て、一人ひとりに気づいたことをアドバイスしてくださる、本当に赤ひげ先生のような方です。稽古中は厳しいこともおっしゃられるのですが、最後に「よくなったよ」って肩をポンとしてくださったりして、そのひと言にすごく救われます。時にはダジャレを言って場を和ませてくれるところも大好きです。
――船越さんからのアドバイスで、特に心に響いたものは?
お杉と自分の共通点があまり見つからなくて悩んでいたときに言ってくださった、「お杉と友香は一緒だと思ってやっていいんだよ。(櫻坂46という)グループでキャプテンとしてやってきて、人の心を動かす力が絶対にあるんだから、自分を信じてやっていいんだ」という言葉ですね。
――それは心強いですね。
私はアイドルとして7年半やってきたけれど、役者としての経験はまだまだで、『赤ひげ』のようなすごい作品に入れていただくと、ほかのキャストの方が積み重ねてきた経験との違いに直面する瞬間がいっぱいあります。そのたびにみなさんへの尊敬と、“もっとがんばらなければいけない”という思いが増すんです。その繰り返しなので、息苦しさを感じることもあるのですが、たぶん船越さんはそれに気づいてそういう言葉をかけてくださったのかなって…。とてもありがたいですし、自分の今までの経験で出会った気持ちを、お芝居にのせられるようになりたいなと思いました。
――制作発表の記者会見では、「船越さんが初めて見るような差し入れをたくさんしてくださる」と菅井さんがコメントされていました。
この作品の稽古は、みなさん和服で行うんですが、船越さんが「和服で食べる和菓子はおいしいんだよ」って、どら焼きやお団子をたくさん差し入れしてくださるんです。それを共演者の方々と食べている時間が、すごくほっこりします。しかも本当に全部(差し入れが)おいしいので、私は差し入れをいただくたびに、全部のお店をメモしています。今後、自分が差し入れするときはこういうものが喜ばれるかなと、日々勉強になります。
取材・文:林桃
Photo:MANAMI
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公演概要
明治座創業 150 周年記念 『赤ひげ』
原作:山本周五郎『赤ひげ診療譚』より
脚本:堤泰之
演出:石丸さち子
出演:船越英一郎 新木宏典 崎山つばさ 猪野広樹(W キャスト)高橋健介(W キャスト)/菅井友香/山村紅葉
【東京公演】
期間:2023 年 10 月 28 日(土)~11 月 12 日(日)
会場:明治座
料金(税込):S 席(1・2 階席)12,500 円 / A 席(3 階席)6,000 円
チケット発売中: 明治座チケットセンター 03-3666-6666(10:00~17:00)
インターネット予約「席とりくん」 https://web.meijiza.com
【大阪公演】
期間:2023 年 12 月 14 日(木)~12 月 16 日(土)
会場:新歌舞伎座
料金(税込):S 席(1・2 階)12,500 円 / A 席(3 階)6,000 円
○チケット発売:一般発売 <インターネット・電話予約>10 月 7 日(土)10:00~
新歌舞伎座テレホン予約センター:06-7730-2222
公式サイト:
https://www.meijiza.co.jp/info/2023/2023_10/(東京公演)
https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20231214.html(大阪公演)
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