輝馬が持つ役者としてのまなざし「日常すべてが役作りのヒント」【シアダン vol.04】(前編)
役者としての喜び「日常生活すべてが楽しい」
――役者をしていて喜びを感じる瞬間はどんな時ですか?
常々ですね。稽古に行く前も楽しいですし。僕、お風呂に入ってる時なんかは基本的に仕事のことを考えていて「あのシーンはこうしてやろう、このシーンはああやってみよう」なんて思いを巡らせていると、もう日常生活すべてが楽しいんです。板の上に立っているときはもちろん、袖で待機している間も楽しい。それにこの仕事は、さまざまな人といろいろな場所や関わり方で出会えるのが、デスクワークなどにはない楽しさなのかなと思ったりもしますし。
――作品ごとに座組が組み上げられては、また別れていくわけですから、そのたびに新しい出会いがありそうです。それに、日常全てが楽しいって、なかなか言えないことのような気がします。
僕にとっての役者の楽しみは常々いろんな場面にあって、電車の移動中なんかにも……僕、家であまり仕事をしないタイプで、電車の移動中にだいたいやっちゃうんです。台本を覚えたり、書かなきゃいけない文章を書いたり。移動中にそうやって考えごとをするのも楽しんでやってます。
――となると、日常的に稽古場以外でもお芝居のことを考えていることが多いんですね。
あぁもう、全然考えますね。考えすぎるとよくない作品というのもあるので、その時にもよるんですが。でも、考えずに演じると、その場しのぎの付け焼き刃になってしまうので。いろいろなことを考えて、膨らませて、それを一度ぐっと固めて削ぎ落としてから形にしたいと思ってます。これは役者だけじゃなくて、ほかの職業でも同じだと思うんですけど。だから、お風呂でもトイレでも、寝て起きた時も、だいたいずっと考えてますね。
――日々のさまざまな場面で、役のためのヒントを探したりもするのでしょうか?
探します、探します。僕は前に老人役をやったことがあるんですが、それも死期の迫ったおじいさんの役で。その時には、その辺の街のベンチでコーヒーを飲んだりしながら、ずーっとおじいさんの姿を見てましたね。歩き方を観察したり、何を考えているのか想像してみたり。そこからいろいろ考えていると、すごく面白いですね。おじいさんに限らず、男性にもいろんな男性がいるし、女性にもいろんな女性がいるし。中華料理屋さんの役をやるとしたら「中華料理屋さんってどうやって料理を作ってるんだろう?」って考えながら見てみたり。日常生活が役のヒントに直結してます。
――人間観察をしながら、演じる役のタイプの人の特徴を自分の中に落とし込んでいるんですね。
それに全く演じたことのないタイプの人だとしても、普通にいろいろな人を見てます。どうでもいいところだと「この人はどっちの足から靴を履くんだろう?」とか「脚を組む時はどちらの脚が上なのかな?」とか、左利きなのか右利きなのかとか、そういう細かなところも見ますね。
――それが「こういう雰囲気の人は、こういう仕草をするんだな」という分析に繋がっていったりするんでしょうか?
そうです。「こういう人は末っ子だな」とか「実家暮らしでしょ?」とか。いろいろ観察をしながら、自分の中で勝手に統計をとって、そういうのを考えているんですけど。
――思考回路が理系ですね(笑)。
理系です(笑)。もともと研究職だったのが、こういうところに残ってるのかなって。人間観察は面白いです。
またの共演を願う、気のおけない役者仲間はあの人
――では次に、同士として刺激を受けたり、励まし合ったりできる役者さんについて聞かせてください。
佐々木喜英さんという、2歳年上の方がいらっしゃるんですが。6〜7年前くらいから、いっしょにいくつもの作品を演らせていただいていて、共演作は10作品を超えてるんじゃないかと思います。1年のうちの半年同じ現場なんてこともよくありましたし。ここ数年はお仕事はごいっしょしてないんですけど、今でもよく連絡をとってますし、けっこうよく会ってるんです。佐々木さんはすごく大好きな役者さんですね。といっても、特に仕事の話をしたりはしないんですけどね。
――どんな話をされるんですか?
もう、くだらない話ばっかりです(笑)。「最近どう?」とか「仕事は順調?」とか話しながら、おいしいものを食べたり、お酒を飲んだりして、だらっとした時間を過ごすっていう。会った時の挨拶も、よく会い過ぎてて「久しぶり」とかじゃないんですよ。先にお店で待っていたりすると「輝馬、オス!」みたいな感じで入ってきますから。それくらい親しくさせてもらってます。
ヒデくんは脚のケガやそのリハビリでお休みをしていたんですけど、復帰されるそうなので、またどこかでいっしょにお仕事をしたいねって、この前会った時にも話してたんです。叶った時には、同じ現場で楽しくやれたらと思いますね。
「どうにかして出られないかなと思っていた」念願作へ出演への意気込み
――これから出演予定の作品についても伺わせてください。まずは9月に控えている舞台『メサイア―黎明乃刻―』。ガラ役として舞台『メサイア トワイライト―黄昏の荒野―』に引き続きの出演となりますが、意気込みはいかがですか?
まだ台本をいただいていないのですが、何となく前作の続きになるのかなと思っているので、どうなるのかが楽しみですね。脚本の毛利(亘宏)さんがどういったイメージを持っているのかも気になりますし、前回初めて『メサイア』シリーズのカンパニーに参加させていただいて感じたのが、役者のみんなが演出家の西森(英行)さんと相談しながら、いい意味で脚本とはちがう形に変えていくんですよ。聞いたところだと、以前からそうやって作品作りがされているそうなんです。だから、現状分かっているのは、脚本の毛利さんでも想像できない仕上がりになるんじゃないかということですね。だから、僕なんて余計に想像もつかないです(笑)。 (※取材は7月末に行いました)
――脚本と実際のお芝居で、そこまでがらりと変わるとは驚きですね。
キャストも演出家も、いろいろな意見を持ち寄って作ってます。役同士の関係性を一番理解しているのはやっぱり役者なので、みんなで矛盾点なんかを一度洗い出して、改めて繋げていったり。だから、面白いことが起きるんですよ。シーンの順番が入れ替わったりするし、「自分がこのシーンにいると矛盾が出ちゃうから、ここでは僕はいないほうがいいですよ」って、役者が自ら出番を減らす意見を出したりするっていう(笑)。役者は舞台に出てナンボなんで、普通はこういうことは起こらないんですけど。逆もまた然りで、「ここで出ていないとおかしいです」って自分が出ていなかったシーンに付け加えてもらったこともありますし。そうやってみんなで擦り合わせをしながら作っていく作品です。
――役者さんがそこまで役を把握して作品作りに臨んでいると知ると、本当に役が生きているんだなと感じます。演じ手としてもやり甲斐がありそうですね。
ありますね。今回初めて参加される役者さんもけっこういらっしゃいますし、僕も前回から加わったばかりでまだまだ新参者なので、また新しいカンパニーができるんじゃないかなと思って、そこもかなり楽しみです。
――10月にはライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」~暁の調べ~のペイン役での出演が決まっていますが、こちらについてはいかがでしょうか?
2.5次元作品に携わる役者さんがよく言うことだとは思うんですけど、あえて言います……原作から大好きな作品なんです、本当に!(笑) ナルトも好きだし、サスケも好きだし。「NARUTO-ナルト-」の舞台があるのは以前から知っていたので、正直なところ「どうにかして僕も出られないかな」って、3年前くらいからずっと思ってました。それくらい好きです!
――念願が叶いましたね!(笑)
出演させていただけることになって、すごく嬉しかったです。決まったことを知らされた時には、マネージャーも念願だったことを知っているので、電話越しに焦らされましたから(笑)。しかもいただいたのはナルトと戦う敵役、もう最高じゃないですか! 悪役ですよ! ガッツリ戦うシーンもあるので楽しみですし、僕は歌やミュージカルが好きなので、音楽がある作品に参加できるという意味でもとても嬉しいです。
今回の作品は2017年に上演された作品の再演になるんですが、ほぼ前回と同じ顔ぶれのキャストの中に、ペインという新しい役として僕が投入されるんですよ。緊張やプレッシャーもありますけど、胸を張って堂々とやれたらと思っています。早く稽古がしたいですね。
プロフィール
輝馬(てるま)
1989年6月6日生まれ、島根県出身。ミュージカル『テニスの王子様』6代目青学 乾貞治役で俳優デビュー。以降主な舞台出演作品に、超歌劇『幕末Rock』土方歳三役、ミュージカル『薄桜鬼 黎明録』山南敬助役、『SHOW BY ROCK!! MUSICAL』アイオーン役、舞台『刀剣乱舞~虚伝 燃ゆる本能寺』江雪左文字役、ミュージカル「黒執事」〜NOAH’S ARK CIRCUS〜ウィリアム・T・スピアーズ役、『七つの大罪 The STAGE』 ヘンドリクセン役、舞台『文豪ストレイドッグス 三社鼎立』 国木田独歩役など。
出演情報
舞台『メサイア―黎明乃刻―』 ガラ役
東京:2019年9月5日(木)~8日(日)東京ドームシティ シアターGロッソ
大阪:2019年9月14日(土)~16日(月・祝)大阪メルパルクホール
ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』~暁の調べ~ ペイン役
大阪:2019年10月25日(金)~11月4日(月・休)大阪メルパルクホール
東京:2019年11月8日(金)~11月10日(日)TOKYO DOME CITY HALL
東京:2019年11月15日(金)~12月1日(日)天王洲 銀河劇場
取材・文:古原孝子
Photo:青木早霞(PROGRESS-M)
ヘアメイク:YUZUKI合同会社