ミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』脚本・演出 西川大貴さん特別インタビュー
スウィング制度を取り入れた理由
――今回は試みとしてスウィング(※)制度を取り入れられていますが、ここに至った理由はなんだったのでしょうか?
(※キャストが急なアクシデントや故障などによって、本番に出演しないことが最善だと判断された場合、代役を務める俳優のこと)
海外の演劇シーンではスウィングというのは当たり前にあって、キャストに何かトラブルがあった場合にも中止せずに済むよう、全パートをフォローしているんです。公演を円滑に最後まで成功させるための歯車のような役割をするという面では、俳優とスタッフのハーフな立ち位置なので、今回スウィングを頼んでいるのはスタッフとしての喜びを理解しているような、クリエイティブ側の経験がある俳優ばかりなんですよ。
――演技の実力だけでなく、裏方としてのマインドも必要になるんですね。
日本ではスウィングが一般的ではないので、ダブルキャストという形式が多くなるんですが。単純に一人当たりの稽古時間が半分になってしまうし、同じ役に全く違う個性の2人をキャスティングしているわけなので、演出家としての理想はそれぞれに稽古をイチからしてあげたいくらいだけれども、そうもいかない。役者は役者で、やっぱり人間なので、お互いに意識し合ってしまう。それが相乗効果になって上手くいく場合もあれば、どんどんナーバスになっていってしまう場合も少なくはないんです。
そうなると、シングルキャストで稽古を進めながら、カバーキャストも控えにいるという形が、絶対的な正解というわけではなくとも、ひとつの理想形ではないかと僕は思っていて。それで今回、スウィングを取り入れるという試みをすることにしました。
プレビュー公演でさらなるブラッシュアップを
――今作では、二度のプレビュー公演(トライアウト)を経て本公演に臨むというスケジュールが組まれていますが、現時点で見据えている目標地点はどんなものでしょうか?
日本で一般的なプレビュー公演というと、本公演の前にちょっとあるものっていう感じだと思うんです 。海外では、プレビュー公演と本公演の間でソロナンバーがカットされたり、配役が変更になったり、シーンによってステージに出る人数が減ったりということが普通にあるんです。より良いものを作るための、失敗と修正を繰り返す期間であるというか。
公演期間が迫ってくると、クリエイター側も俳優側も、どうしても安パイに手が伸びてしまう心理状態になったり、失敗が許されない状況になったりしてしまうんです。例えばA〜Eくらいまで浮かんでいる演技プランのうち、リスキーなものやアバンギャルド過ぎるものを除いて「じゃあA〜Cの枠で考えよう」と、トライする前に限界を決めてしまったりする。でも、失敗できるんだったら「これも一度試してみよう」ということが可能になるんですよ。
――可能性を狭めず、より挑戦の自由度が上がるんですね。
失敗できるという心境でいられるからこそ、一歩先に進めたり、新たな可能性が見えてくることってあると思うんです。観客の目に触れることで初めてわかることや、見えてくるものって沢山ある。だからプレビュー期間のうちは、クリエイター側も俳優も、もっと先を狙って大いに失敗していきたいなと。もちろん無責任に「失敗していいや〜」という事とは全く違う意味で。
それから、今回はそれぞれのプレビュー公演の後に稽古日があるので、ブラッシュアップするための時間が取れるんです。これはとても理想的でありがたいことですし、それを経た変化を、お客様にもぜひ楽しんでいただけたらと思います。
――作品の作り手サイドとしても、楽しみながら有意義な挑戦ができそうですし、ミュージカルファンとしても作品が磨かれていく過程を目撃できるという、日本ではまだ滅多にない機会になりそうですね。
本当に、ぜひ。初めて観たお客様が楽しめるものを作るのが僕らの役目だと思っているので、いつもは「リピートして観てください」みたいなことを言うのがあまり好きじゃないんですけど、今回はそうやって変化を見てもらう楽しみ方もできると思うので、プレビュー公演、本公演と、足を運んでいただけたら嬉しいです。
西川大貴さんから読者の方へメッセージ
今回の試みは、みなさんにはどう見えているんでしょうか。実験的に思える企画に見えているかもしれないし、もしかしたら「少し難しそうだ」と思っている方もいるかもしれません。けれど、音楽面でもとてもキャッチーな曲がいくつも生まれてきていて、ジャンルで言うならこれはポップソング・ミュージカルだと思うんです。だから、初見の方でもきっと楽しんでいただけますし、ミュージカルに馴染みがなくて「ミュージカルってこう、キラキラした王子様やお姫様が出てくるやつでしょ?」と思っている方がいたとしたら、そうじゃない作品もあるんだなと感じてもらえると思いますので。ミュージカルファンの方も、ミュージカルが苦手な方も、ぜひ劇場にお越しください。
公演概要
ミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』
<脚本・演出>西川大貴
<音楽>桑原あい
<振付>加賀谷一肇
<スーパーバイジング・ディレクター>ダレン・ヤップ
<出演>
天羽尚吾/猪俣三四郎/上田亜希子/梅田彩佳/岡村さやか/奥村優希/
風間由次郎/加藤梨里香/塩口量平/四宮吏桜/関根麻帆/寺町有美子/
橋本彩花/深瀬友梨/溝口悟光/宮島朋宏/吉田要士 (※五十音順)
〈会場〉
DDD青山クロスシアター
〈公演日程〉
1stプレビュー公演:2019年11月15日(金)〜18日(月)
2ndプレビュー公演:2019年11月23日(土祝)〜26日(火)
本公演:2019年11月30日(土)〜12月15日(日)
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取材・文:古原孝子
Photo:青木早霞(PROGRESS-M)