小日向星一インタビュー『お月さまへようこそ』「演じ分ける楽しみを感じながら演じられたら」(後編)
7月28日(木)から東京都多摩市の複合文化施設「パルテノン多摩」のリニューアルオープン企画として『お月さまへようこそ』が、上演されます。
本作は、6名の俳優が「赤いコート」「どん底」「星降る夜に出かけよう」「西部劇」「喜びの孤独な衝動」「お月さまへようこそ」の6篇の短篇の各役を複数演じる、詩情に満ちた心に響く作品です。出演者は、白井晃氏演出『マーキュリー・ファー Mercury Fur』での鮮烈な演技も注目された小日向星一さん、舞台・映像作品共に清新で繊細な表現力に定評がある南沢奈央さん、ミュージカル『ヴェラキッカ』、ミュージカル『ネクスト・トゥ・ノーマル』など話題作への出演が続き、劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」団員でもある大久保祥太郎さん、近作「毒薬と老嬢」で軽快な関西弁と演技が注目された納谷健さん、ミュージカル「テニスの王子様」で注目され、石丸さち子氏演出作はミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』への出演がある久保田秀敏さん、元宝塚歌劇団トップスターで実力派舞台女優として進境著しい大空ゆうひさんと表現力豊かなキャストが集結しました。
演出は、「キオスク」、ミュージカル「マタ・ハリ」、ミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』など数々の注目作の演出を手掛ける石丸さち子さんです。
THEATER GIRLは、小日向星一さんにインタビュー。後編では、普段の息抜き方法や本番中の“やってしまった”エピソードなどを赤裸々に語っていただきました。
インタビュー前編はこちら
すごいものが生まれた瞬間が楽しい
――俳優のお仕事全てを通して、一番好きな瞬間はどんな時でしょうか。
いっぱいあるんですけど……。舞台でも映像作品でも、まずは役をいただけた瞬間はすごく嬉しいです。その瞬間に「これから、どんな人とどんな風に作っていけるんだろう」というワクワクが始まります。それがすごく好きだし、演じている時は絶対に一人ではできない仕事だと思うので。相手とセリフを交わしている時に、しっかり相手のセリフを受け取って、相手の方も僕のセリフを聞いた上でセリフを返してくれている時の「あ、今すごいものが生まれた」みたいな瞬間はすごく楽しいなと思います。
――今回のように別の作品を観に来ていた方からのオファーであったり、オーディションで勝ち取った役であったり、きっかけはなにであれ役をいただいた時はやっぱり嬉しいものなんですね。
はい、もうめちゃくちゃ嬉しいですね。舞台を観に来ていただいた方からのオファーでもオーディションでも「この子を使ってみたい」と思ってもらえたのは、すごく嬉しいです。
地元にはたまに帰るくらいがいい
――今回の6篇の中の一つ『お月さまへようこそ』では、昔の仲間が数年ぶりに集まるという内容になっていますが、小日向さんが地元に帰った時の好きな過ごし方を教えていただけますでしょうか。
僕、地元の友達とは今でも仲が良くて、よく会っているんです。気を許せるというか、羽を伸ばせるというか。いつも決まったメンバーの男だけで集まるんですけど、安いお酒を飲んで、「よし、カラオケ行くか!」っていうのがすごく楽しいです(笑)。最近は、コロナ禍でなかなかできないですけど、落ち着きますね。でも、その落ち着くのがいい時もあるんですけど、心地良すぎて、ずっといたら良くないっていう気持ちもあります(笑)。だからたまに帰るのがいいのかなって。
――地元に帰ること以外でも、なにか普段の息抜きとしてやっていらっしゃることはありますか?
僕はもともと出不精というか、家からなかなか出ないタイプなんですけど。つい最近までやっていた舞台で、メイクさんがけん玉を持ってきていたんですよ。
メイクが終わって、本番前の30分間にけん玉をやるっていう習慣が共演者内でできあがっていて。やり始めたらハマっちゃって、そのあと一緒にマイけん玉を買いに行きました(笑)。
――すごいですね。今も、お仕事の合間にけん玉をやられているんですか?
これからもやっていきたいなって思うんですけど、さらに家から出なくなっちゃいますね(笑)。
――けん玉のように、各現場での流行りがマイブームになることも多いのでしょうか?
いや、現場中にハマったものができたのは今回が初めてですね。
自分と真逆の役をやってみたい
――本作ではお一人で何役も演じられますが、今後小日向さんが演じてみたい役柄はありますか?
僕が演じる役って、大雑把に言うと優しい人や同じ年齢くらいの役が多い気がしているんです。でも、舞台であれば、ちっちゃい子からおじいちゃんまでできるし、自分と年齢が違う役とか悪い人の役とか。自分と真逆の役を演じてみたいなと思っています。人間じゃなくても演じられるし。舞台はそこが自由だと思うので、どんな役でもやってみたいですね。
――本番中でも稽古中でも良いのですが、必ずやっているルーティンなどはありますか?
本番前には絶対に柔軟体操をするようにしています。 それと発声と滑舌も。皆さんやっていて、当たり前のことかもしれないですが。 あとは、稽古場や劇場にある神棚に「よろしくお願いします」と毎回手を合わせるようにもしていますね。何にでも、できるものは全てすがりたいっていう気持ちです(笑)。
たくさん練習して自信をつけることが一番
――先ほど初日は緊張されるとお話されていましたが、緊張を和らげるためになにか意識してやっていることはありますか?
本番直前に深呼吸をすることですね。それと、前回の現場で、全身にグッと力を入れてフッと抜くのを3セットぐらいやると緊張が一気に緩和すると教えていただいて。何回もやっていると、脳が勝手に緊張を解くモードに入るらしいです。先輩から教えてもらって、やってみたらすごく良かったので、今後も使っていきたいと思っています。
あとは、稽古中にたくさん準備をして自信をつけていくっていうのが、一番だと思います。「これだけやったんだから、大丈夫」っていう自信が緊張を和らげることになると思うので、それも大事だと思っています。
――今まで本番で、“やってしまった”というエピソードはあったりしますか?
シンプルにセリフが飛んじゃったことは何回かありますけど、なんとか切り抜けています(笑)。
以前出演した作品でみんなでパートを分けて歌うシーンがあって。もうすぐ自分の番っていう緊張と、元からあまり歌が得意じゃないということもあって、僕だけ全く違う音程で歌ってしまったんです。後から「一人だけ全然違う曲みたいだった」と言われました(苦笑)。その場でもみんな歌いながら気付いていて、僕自身も分かってはいるんですけど、もう止められないし。あれは、やっちゃったなと思いました。
――たしかに、苦手なことは特に緊張しそうですよね。ちなみに、セリフが飛んでしまった時は、どのように切り抜けるんでしょうか?
同じことをもう一回言ってみたりしますね。勢いで「あ、止まっちゃった」っていう間ができてしまうのが一番良くないので、「こういうシーンですよ」って思われるように、なんとかして繋げるようにはしています(笑)。
――裏側を教えていただき、ありがとうございます(笑)。それでは、最後に本作を楽しみにされている方に、メッセージと意気込みをお願いできますでしょうか。
この作品は、人と人とが心を通わせ合った時の喜びや逆にそれが叶わなかった時の悲しさなどが、ジョン・パトリック・シャンリィの素敵な言葉で描かれている作品です。登場人物たちは、みんなそれぞれがお互いを分かり合おうとしていて、愛し愛されたいという思いで必死に生きているんですが、その姿がどこか面白く滑稽だったりします。そういった面白さがある作品なので、世代問わず、いろんな方に観に来ていただけたら嬉しいです。演劇は観に来てくださるお客様がいらっしゃって初めて完成するものだと思っているので。リニューアルしたばかりのピカピカなパルテノン多摩でお待ちしております。
取材・文:THEATER GIRL編集部
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公演概要
リニューアルオープン企画『お月さまへようこそ』
7/28(木)~31(日)
パルテノン多摩 大ホール
作:ジョン・パトリック・シャンリィ
翻訳:鈴木小百合
演出:石丸さち子
出演:小日向星一 南沢奈央 大久保祥太郎 納谷健 久保田秀敏 大空ゆうひ
チケット:A席¥8,000 B席¥7,000 (全席指定・税込)