北山宏光インタビュー 『醉いどれ天使』「“ライブ感”の尊さや儚さも味わってもらえたら」(前編)
2025年11月7日(金)より東京・明治座を皮切りに『醉いどれ天使』が上演されます。
日本のみならず世界中に大きな影響を与えた名匠・黒澤明氏と、その多くの作品で主演を務めた三船敏郎氏が初めてタッグを組んだ映画『醉いどれ天使』。この作品は、映画公開から約半年後に舞台版として上演されたという記録が残っています。その当時の上演台本が近年、偶然発見され、2021年に再び舞台化。そしてこのたび、新たに「2025年版」として上演されます。
脚本は前回に続き蓬莱竜太氏、演出は、ジャンルを越えて活躍の場を広げている深作健太氏が務めます。
そして、闇市を支配する若いやくざ・松永に挑むのは6年ぶりの主演舞台となる北山宏光さん。
また、共演には渡辺大さん、横山由依さん・岡田結実さん(Wキャスト)、阪口珠美さん、佐藤仁美さん、大鶴義丹さんと、日本のエンターテインメントシーンを牽引する錚々たる顔ぶれが揃いました。
THEATER GIRLは、主演の北山宏光さんにインタビュー。前編では、6年ぶりの主演舞台に挑む思いや役柄への取り組み、稽古で感じている手応えなど、たっぷりとお聞きしました。
6年ぶりという感覚はあまりなかった
――本作は6年ぶりの主演舞台となりますが、出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか。
6年ぶりという感覚は、正直あまりなかったですね。「そういえばそんなに経っていたんだ」と思うくらいでした。実はこのお話をいただいたのが2年ほど前で、そのタイミングが自分にとってもちょうど転機の時期だったんです。だからこそ「これもご縁だな」と感じて、ぜひやらせてくださいとお返事しました。
この歴史ある作品に携われることもうれしかったですし、題材としても戦後の闇市を描いた物語で、時代を超えて令和の今に再び上演されるということがとても興味深く挑戦としてもすごく面白いと感じたんです。
作品としてこれまでつながれてきた“歴史のパス”を受け取ったからには、それを自分の体を通して最大限に咀嚼し、新しいものとして表現することにとても魅力を感じたのが最初の気持ちでした。
――本作は戦後の日本を舞台としていますが、もし北山さんが当時の時代に生きていたとしたら、どんな人生を送っていたと思いますか?
生きていられる自信はないですね。あの時代を生き抜ける根性やスタミナ、メンタル……全部持っていないと思います。考えただけでもキツいです。でも当時はそれが“当たり前”の時代だった。きっとみんな、生き抜くために必死だったのだと思います。
――即答でしたね。
でも、きっとその中にも幸せはあったと思うんです。“幸せのハードル”は、時代や生き方で違うとは思いますが、花が咲いているだけで「きれいだな」「幸せだな」と思えるような人生だったのかもしれないなと。そう考えると、あの頃の人たちはもっとピュアに物事を感じられていたのかもしれません。

「キャストがすでに生きている」と感じた
――現在、稽古に入って2週間ほどとのことで(取材時)、製作発表では「ようやく掴めてきた感覚がある」とお話しされていましたが、具体的にどのような手応えを感じられたのでしょうか。
最初に台本を読んだときと今とでは、“読み方”が変わってきたんです。たとえばセリフ一つにしても、これを縦軸で言うとセリフの言い回しが変わるなとか、エンディングで自分がどんな表情をしているのか、といったところが立体的になって、よりディテールが感じられるようになってきた気がします。
それから、深作(健太)さんの演出がとても丁寧で、それぞれのキャラクターに対して「このセリフの裏にはこういう想いがある」というように、サブテキストを共有してくださるんです。それを稽古場で全員が聞いているので、自然と人物像の厚みが増していく。そうすると、僕自身の“受け”も変わってくるし、自分が発する言葉のトーンや間も変わってくる。結果的に、台本全体の読み方が変化していくんです。今はまさに、その軸がみんなの中で少しずつ固まりつつある段階だと思います。

――最初に台本を読んだときは、率直にどんな印象を受けましたか?
全体を通して「キャストがすでに生きている」と感じました。読んでいて自然に情景が浮かぶというか、「このセリフは、ちょっと違うな」と思うことが一切なかったんです。改めて“本の力”ってすごいなと思いました。なので、いざ稽古が始まって「じゃあ動いてみよう」となったときも、みんなすぐに動き出したんです。
――それはすごいですね。
真田役の渡辺大くんとも、どこでどう動くか細かくは決めていなかったのですが、セットの位置だけをざっくりと決めて、「じゃあ始めようか」と言ったら自然と動きが生まれて。そこで深作さんが、「この場面の前にこんなことがあったかもしれないね」「こういう側面も持っておいたほうがいい」とアドバイスをくださる。その言葉でまたリアリティが増して、芝居の呼吸が変わっていくんです。
演出家さんによってやり方はまったく違いますが、深作さんの演出は“見せたい画”や“聞かせたい音”が明確なんです。それを感じ取って、「こう動いてみてもいいですか?」と提案すると、「そう、それ!」と返してくれるので。

やくざ役を演じるのは今回が初めて
――今回、北山さんは闇市を支配する若いやくざ・松永役を演じられますが、現在の役への取り組みや、新たにチャレンジされていることなどはありますか?
僕のこれまで演じてきた役って、だいたい誰かが死ぬか、もしくは自分が死ぬんです。もう“恒例”といってもいいくらい(笑)。ただ、やくざの役というのは今回が初めてなんです。少し不良っぽい役はあっても、こういったやくざ役は今までにやったことがなくて。しかも今回は戦争を経た時代背景の中に生きている人物でもあるので、そういった意味では新しい挑戦になっているのかもしれません。
深作さんにも「やくざ役やったことあるの?」と聞かれたのですが、「いや、初めてです」と答えました(笑)。だから、自分の中で新しい引き出しが増えているのかもしれないですね。

――映画版では印象的なダンスシーンもあり、フィジカルな見せ場もある本作ですが、身体表現の部分ではどんなところが見どころになりそうでしょうか?
僕自身、もともと音楽やダンスの世界からきていますし。時代背景は戦後で重いテーマを扱っていますが、劇中ではすごくロックな音楽が使われていたり、エレキギターの音が「ガチャーン!」と鳴って始まったりするようなシーンもあるんです。だから、当時の空気感を持ちながらも、作品全体としてはとてもショーアップされている印象ですね。
物語としては重い部分があるけれど、観る人にとってはエンターテインメントとして楽しめるような構成になっている。ショーの要素がしっかりあるというのが、本作の一つの魅力であり、僕自身としても楽しい部分だと思っています。
――そういったショーアップされた部分も見どころになりそうですね。
そこはしっかり見どころになると思います。そういったことを“やらない”という選択肢もあったと思うのですが、あえて“やる”という深作さんの演出がすごく面白いなと思っています。
――本番を間近に控える中で、現在、北山さんが感じていることや楽しみにしていることを教えてください。
何を楽しみにするかというのも、作品の“固まり具合”によってまったく違うんです。たとえば、何度も稽古を通して精度が上がってきて「早く見せたい」と思うこともあれば、逆に固まりすぎてしまうと、それ以上、上に行けないこともある。
本番に入ると、お客様がいることでまた空気がガラッと変わると思うので、そこは楽しみでもあり、不安でもあります。時間があればいいというものでもないので、フレッシュさと冷静さ、本番に向かう準備と程よい緊張感。そのバランスがこの数週間でどう整っていくのか、自分でもまだまったくわからない状態ですね。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:梁瀬玉実
ヘアメイク:大島 智恵美
スタイリスト:柴田 圭
・ジャケット \96,800-
・パンツ \59,400-
2点ともMAHITO MOTOYOSHI(JOYEUX)
※全て税込価格
問い合わせ先
・JOYEUX
tel:03-4361-4464
公演概要
『醉いどれ天使』
【東京公演】
2025年11月7日(金)~23日(日)
明治座
【名古屋公演】
2025年11月28日(金)~30日(日)
御園座
【大阪公演】
2025年12月5日(金)~14日(日)
新歌舞伎座
原作: 黒澤明 植草圭之助
脚本: 蓬莱竜太
演出: 深作健太
出演:
北山宏光
渡辺 大 横山由依・岡田結実(Wキャスト) 阪口珠美 / 佐藤仁美 大鶴義丹
堀野内 智 神農直隆 生津 徹 宮地大介 葉山 昴 松井朝海 桑畑亨成 / 荒井洸子 片岡正二郎
西川裕一 八木橋華月 浅倉智尋 奥富夕渚 夕希奈
