中村壱太郎×尾上眞秀インタビュー 「錦秋十月大歌舞伎」「夜に歌舞伎が楽しめる貴重な機会なので、気軽に観ていただけたら」(後編)
2026年10月20日(火)まで、東京・歌舞伎座にて「錦秋十月大歌舞伎」が上演中です。
第三部では、『義経千本桜』より「渡海屋・大物浦」に続き、舞踊二題『屋敷娘』『近江のお兼』を上演。恋の話を交わしながら艶やかに踊る娘たちの姿を描いた『屋敷娘』と、力自慢の娘・近江のお兼が長い布晒を使って踊る、華やかで躍動感あふれる『近江のお兼』が披露されます。
『屋敷娘』で娘お壱を、そして『近江のお兼』で近江のお兼を演じるのは中村壱太郎さん。尾上眞秀さんは、『屋敷娘』で娘お秀を演じます。
THEATER GIRLは、中村壱太郎さんと尾上眞秀さんにインタビュー。後編では、今回の舞台を通して伸ばしたいことや、歌舞伎の舞踊ならではの魅力、初心者の方にもおすすめしたい楽しみ方についてお聞きしました。さらに、舞台を重ねる中で感じる変化や、お互いから受けた刺激、意外な一面が垣間見える「〇〇自慢」のお話など、たっぷりと語っていただきました。
きちんと踊り分けることを意識している
――眞秀さんは今回の舞台を通して伸ばしたいことや新しく身につけたいことはありますか。
眞秀: 手首の柔らかさですね。僕、めちゃくちゃ硬いんですよ。
壱太郎: 今回踊りで使用している鈴太鼓は、手首の動きがとても大事なんです。
眞秀:今はお風呂でずっと柔軟をしています。
壱太郎: それは大事なこと。僕はもうおじさんだから、腱鞘炎が心配です(笑)。
――壱太郎さんは今回の公演全体でさらに伸ばしたい部分はありますか?
壱太郎: 踊り分けですね。30分という短い時間の中でも、『屋敷娘』は最初に傘と扇子の踊りがあって、その後に手の踊り、前にも述べました鈴太鼓と呼ばれる小道具を手にしての踊り、という流れがあります。『近江のお兼』も同様に、1曲の中に起承転結がしっかりあるので、その変化をきちんと踊り分けることを意識しています。
最初は踊りや舞踊から観ていただいた方が入りやすい
――歌舞伎をご覧になったことがない方もいらっしゃると思うのですが、そういった方に向けても本作の楽しみ方を教えていただけますか。
眞秀: 『屋敷娘』と『近江のお兼』は芝居ではなく踊りなので、内容がわからなくて困るということはなく、初めての方でも楽しんでいただけると思います。
壱太郎: 本当にそうですね。歌舞伎の女方としての美しさはもちろん、舞台背景もまさに秋という感じで綺麗だし、音楽も言葉がわからなくても素敵だなと感じられると思います。
海外のミュージカルもそうですが、すべてを聞き取れなくてもいい曲だなと感じるのと同じような感覚で楽しめる舞台だと思いますね。
後半の『近江のお兼』は動物が登場したり、立廻りといって激しい動きもあったりするので、観ていて飽きないのではないかなと。『屋敷娘』と『近江のお兼』を合わせても30分ほどとコンパクトなので、歌舞伎初心者の方にも入りやすい内容になっていると思います。
――歌舞伎初心者の方に向けて、歌舞伎自体の魅力についてもうかがえますでしょうか。
眞秀: 最初は踊りや舞踊から観ていただいた方が入りやすいと思います。まずは踊りから入ってだんだんとコアな演目へ進んでいくのも面白さの一つだと思います。
壱太郎: わからないとつまらなく感じてしまったり眠くなってしまったりするので、短いお芝居や踊りから入るのがいいと思います。あの人が綺麗だな、かっこいいな、衣裳が素敵だな、舞台の背景が美しいな、といったことで気になることから入ってもらって構わないと思っていて。
美術館の絵を見るような感覚で、わかろうとしなくてもいい。そういう導入から始めてもらえると入りやすいのではないかと思います。

だから何日もやる意味があって、日々変化していく
――お二人にとって、歌舞伎の舞踊だからこそ面白いと感じる瞬間はどんな時ですか。
眞秀: どういう踊りの魅せ方をしたら拍手が来るのかというのは面白さの一つです。いかにも拍手をとりにいくような動きはあまり好きではなくて。
壱太郎: 偉い。僕はずっと拍手があった方がいいと思っていたので(笑)。
眞秀:実は『連獅子』のときには拍手が来ないと不安に思ってたりもしていたのですが、最近梅幸(七世尾上梅幸/眞秀さんの曽祖父)さんの本を読んでから、拍手が来ない方がいい場合もあるんだとわかって。
壱太郎: すごい!この数ヶ月で本当に成長している!確かになんでもかんでも拍手が来ればいいというものではなくて。煽るのではなく、自然と拍手が起こったらいいなと思います。特に『屋敷娘』のような流れの中で踊る演目はそういうものだと思うので、今のお話を聞いてとても素敵な心構えだと感じました。
ただ、自分が芯で踊らせてもらうことがあると、拍手が来ないとお客さまが楽しくなかったのかと不安になるのも正直なところで(笑)。『近江のお兼』でも最初のうちはやりすぎてしまいそうになるのですが、日が経つにつれて落ち着いてくる。これが歌舞伎の面白さだと思います。日々変化していくんですよね。
――前半と後半で見せ方や心境も変わってくるのでしょうか?
壱太郎: 変わりますね。お客さまも変わりますし、もちろん僕らの心境も変わってくる。前半でも後半でも、それぞれ違う楽しみ方ができると思います。
――『近江のお兼』にちなみ、お二人が「意外と〇〇自慢」というものがあれば教えてください。
眞秀: 僕は、球技自慢ですかね。野球もサッカーもドッジボールもハンドボールも得意です。ただ、長距離走など走るのはまったくダメで…個人スポーツよりも団体競技の方が好きで、合間の気分転換にそういったスポーツをしたりしています。
壱太郎: さっき眞秀くんが褒めてくれたので、メモ魔自慢にしておいてください(笑)。とにかく何かしらメモしているので。やっぱり忙しい時ってメモしないと大事なことを忘れてしまうんですよ。
もちろん先輩から教わったことは書かなくても覚えているのですが、ふと気づいたことや「今日これを誰かに言わなきゃ」とか「今日これを忘れていた」とか、そういうことを書き留めておく癖があるんです。
本番期間中も、気づいたことはすぐにメモしたり、近くにいる人に取ってもらったりして、忘れないようにしています。
――最後に、本作を楽しみにされている皆さまへメッセージをお願いします。
眞秀: この踊りは見やすい演目だと思いますし、小道具がたくさん出てきたり、舞台の転換や引き抜きもあるし衣裳が変わったりと、いろいろな要素があって飽きない踊りだと思います。
壱太郎: 一幕だけ観られるというのも楽しみ方の一つだと思います。歌舞伎の夜の部は大体16時頃に始まることが多いのですが、今月の第三部は18時開演。夜遅くに歌舞伎が楽しめる貴重な機会で、踊り自体は始まるのが20時30分ごろなので、一幕見であれば夕食の後に気軽に観ていただくこともできます。
歌舞伎座にはお好きな幕だけを気軽にお楽しみいただける一幕見席という鑑賞方法もあるので、今回の公演ではそういった楽しみ方でぜひ歌舞伎に触れていただけたらうれしいです。

取材・文:THEATER GIRL編集部
公演概要
『錦秋十月大歌舞伎』
2026年10月2日(金)~20日(火)
歌舞伎座
料金:
特等席 17,000円
1等席 16,000円
2等A席 13,000円
2等B席 12,000円
2等C席 8,000円
3階A席 6,000円
3階B席 4,500円
1階桟敷席 17,000円
公式サイト:https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/985/
