中村壱太郎×尾上眞秀インタビュー 「錦秋十月大歌舞伎」「夜に歌舞伎が楽しめる貴重な機会なので、気軽に観ていただけたら」(前編)
2026年10月20日(火)まで、東京・歌舞伎座にて「錦秋十月大歌舞伎」が上演中です。
第三部では、『義経千本桜』より「渡海屋・大物浦」に続き、舞踊二題『屋敷娘』『近江のお兼』を上演。恋の話を交わしながら艶やかに踊る娘たちの姿を描いた『屋敷娘』と、力自慢の娘・近江のお兼が長い布晒を使って踊る、華やかで躍動感あふれる『近江のお兼』が披露されます。
『屋敷娘』で娘お壱を、そして『近江のお兼』で近江のお兼を演じるのは中村壱太郎さん。尾上眞秀さんは、『屋敷娘』で娘お秀を演じます。
THEATER GIRLは、中村壱太郎さんと尾上眞秀さんにインタビュー。前編では、9月の舞台に続いて共演することへの思いや、お互いの印象、二人で踊る『屋敷娘』の見どころについてお聞きしました。さらに、踊りや所作を通して感じるお互いの魅力や、稽古を通じて受けた刺激、それぞれが大切にしていることなど、たっぷりと語っていただきました。
歌舞伎に向き合う姿勢を知ることができてよかった
――お二人は、9月まで上演されていたマルコス浄瑠璃『金閣寺』に続いての共演になりますが、なにか印象の変化などはありましたか。
眞秀: マルコス浄瑠璃『金閣寺』で初めて共演させていただいたときに、これで終わりなのかな・・・と思っていたので、またすぐに一緒にお仕事ができてうれしいです。『金閣寺』では未知のダンスという挑戦する要素がありましたが、今回は歌舞伎に向き合う姿勢を近くで見ることができて、とても勉強になりました。
壱太郎: 今月の歌舞伎公演での共演は夜だけなので、『金閣寺』の方がお稽古も長く一緒にいる時間も多くて、共有する時間が多かったですね。同じ歌舞伎俳優で外部のお仕事で歌舞伎公演よりも先に初めて一緒になるというのは、僕自身も初めての経験でした。
本当にかけがえのない経験ですし、何年経っても『金閣寺』に出演したことは忘れないと思います。カンパニーの皆さんとは次にいつ会えるかわからないので、少し寂しいですね。歌舞伎俳優同士で外部の舞台に出演するのはなかなかないことなので、あの共演が始まりになってよかったと感じています。
――それを経て、お二人の相性やお仕事のしやすさも感じられていますか?
眞秀: はい!
壱太郎: でも歌舞伎に戻ってくると、まったく違うなと改めて感じました。先輩方もたくさんいらっしゃる中で、チラシに2人で役の写真を載せていただけるのはとてもうれしいですが、それと同時に緊張感もすごくあります。
年が離れているので、どう見えるかと思った
――お二人で『屋敷娘 』に出演すると聞いた時の印象はいかがでしたか。
壱太郎: 年が離れているので、どう見えるかなとは思いました。どうやったら眞秀くんより可愛くなれるかなと日々考えています(笑)。やっぱり可愛いからずるいですよね(笑)。しかも化粧もご自身でやっていて、30分ほどで仕上げてしまうということで、今の歳で本当にすごいと思います。
僕は中学の頃はまだ1人で化粧ができるかできないかの時期で、本番に出られるような化粧はできていなかったと思うので。化粧がとても上手だなと感じるのですが、どこで習得したの?

眞秀: 尾上右近さんに教わりました。『春興鏡獅子』で共演した時にもずっとお化粧を見ていました。
壱太郎: 右近くんは化粧が上手な人ですからね。女方の化粧もできるのはすごいです。小学生の時からやっていたんだっけ?
眞秀: はい、そうです。初めて自分でやり始めたのは2年前くらいで、『春興鏡獅子』で胡蝶の精を演じた少し前からです。

壱太郎: それが今回にも生かされていますし、とてもいいなと思います。 僕が本格的に自分でやり始めたのは中学3年生か高校生くらいで、中学生の頃はあまり舞台にも出ていませんでした。

――今回『屋敷娘 』で、お二人で踊るからこそ生まれる空気感についてはどうお感じですか?
眞秀: 意外とラフな感じがします。
壱太郎: 格式張った踊りでもないですし、屋敷娘というのは屋敷に勤めている娘さんが屋敷から出て「今日からお休みだ」という踊りなので、楽しい雰囲気があります。年齢差があるので、お姉さんと妹というような感じが出たらいいなと思いながら踊っているので、ほんわかしたラフな空気感はあるかもしれないですね。
眞秀くんがこれまでやってきたものでいうと、例えば“胡蝶の精” はきっちり合わせる踊りで、『連獅子』は親獅子、仔獅子を描いていて厳しさもある。でも屋敷娘はそういう意味ではラフで、緩やかな踊りなので。振りがバチッと合うところは合わせますが、いい意味でのどかさがある踊りだと思います。

――壱太郎さんは『近江のお兼』にもご出演されますが、こちらの見どころや新たに挑戦している部分についてもうかがえますでしょうか。
壱太郎: 挑戦していることは、眞秀くんも出ている『屋敷娘』を観てお客様が帰ってしまわないようにすることですね(笑)。とにかくテンポよく早く出ていくことを意識しています。
踊りの前の演目が2時間ほどあるので、お客さまもあまり長いと疲れてしまうと思うので。『屋敷娘』がお嬢さんのイメージなのに対して、『近江のお兼』はキャピキャピした田舎娘という感じを出そうとしています。
どうですか? 眞秀くんは『近江のお兼』を踊ってみたいと思いましたか?
眞秀: 踊ってみたいです。でも晒を使うのが難しそうだと思いました。
壱太郎: お祖父様も踊っていますし、きっといつかやることになるでしょう。お馬さんも出てきますし、立廻りもあって楽しいよ!

まっすぐ踊っているところがとても魅力的
――壱太郎さんから見て、眞秀さんの踊りにはどんな魅力がありますか?
壱太郎: まっすぐ踊っているところがとても魅力的ですね。僕より振りを早く覚えて、教わったことをきちんと続けていく。その日に指摘されたことをその日のうちに直せるというのは、本当に素晴らしいことだと思います。
『金閣寺』でも感じていたことですが、子供だからとかではなく、大人たちがたくさんいる環境の中でそういうことが自然にできているのが素敵だなと思います。
ちゃんと先輩方をリスペクトしていますし、お祖父様(七代目尾上菊五郎)も今月ご出演されているので、休みの日でも朝から舞台を観に来ている。その姿一つひとつが、眞秀くんの成長に繋がっているのだろうなと感じています。
――眞秀さんは、壱太郎さんの踊りを間近で見て「ここがすごい」と感じるのはどんなところでしょうか。
眞秀: 裾捌きがとても上手だなと思います。あと、首の表現など身体の使い方がよくわかっていてすごいなと感じました。『金閣寺』でも壱太郎さんからいろいろな身体の使い方を習ったので、今回それも生かせたらいいなと思っています。
壱太郎: ありがとう。
――お稽古を通じて、お互いに刺激を受けた部分はありますか?
壱太郎: 眞秀くんがさっき裾捌きや身体の使い方についてお話ししてくれましたが、僕も玉三郎のおじさまに「踊りがすべての基本だから」と教わったんです。歌舞伎の芝居をするときも、所作というのは踊りが基本ですし、裾の扱いの大切さも言われてきたことを思い出しました。それを眞秀くんが見て感じてくれていると聞いて、こうして教わったことが次の世代へ繋がっていくものだなと思いました。
眞秀: 壱太郎さんが振りや直すところを全部紙に書き留めているのを見て、書き留めるのは良いことだなと思いました。
壱太郎: 見られていたのか(笑)。かなり汚い字なので後で読めなかったりするのですが、今はありがたいことに映像で自分たちの舞台を観ることもできるので、それを見て気づいたことを眞秀くんに伝えたいとも思っています。
毎日舞台をやることで最初は気づかなかったことに気づくこともあるので。そんなことを書き留めながら日々やっていますね。

取材・文:THEATER GIRL編集部
公演概要
『錦秋十月大歌舞伎』
2026年10月2日(金)~20日(火)
歌舞伎座
料金:
特等席 17,000円
1等席 16,000円
2等A席 13,000円
2等B席 12,000円
2等C席 8,000円
3階A席 6,000円
3階B席 4,500円
1階桟敷席 17,000円
公式サイト:https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/985/
