• HOME
  • topic
  • INTERVIEW
  • ミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』脚本・演出 西川大貴さん特別インタビュー

ミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』脚本・演出 西川大貴さん特別インタビュー

INTERVIEW

西川さんが思う「今の日本らしさ」とは?

――今作は“「今の日本らしい」ミュージカル作品を創る試み”ということですが、西川さんにとっての“今の日本らしい”とは、どういうことなのでしょうか?

先ほども少し触れましたが、音楽の話だとヒップホップ以降、新しいジャンルの音楽は世界的にも生まれていない、なんて話を聞いて。 そういう状況での今っぽとはどういうことかを考えていく必要があるな、と。

だから今回の作品の音楽は、オールディーズなスタイルのミュージカルをオマージュしたようなシーンや世界観をかなり取り入れています。なのに不思議とどこか今っぽいなと感じてもらえたらと思うので、そのバランスを探りながら、現在稽古を進めているところです。

――では、ストーリーにはどのように反映されているのでしょう? スーパーバイジング・ディレクターとして迎えたダレン・ヤップ氏のコメントには「世代間や親子間で生じるギャップやすれ違いなど、世界共通のテーマを盛り込んだものになりそうです」とありましたが……。

ひとつのテーマとして“妙な閉塞感”があります。これは作中に歌詞としても出てくるんですが。今の日本って、何かものすごくひどいことがあるわけじゃないですよね。戦争があるわけでもないし、あらゆる意味で劇場に関わっている人にとっては、明日の食べ物に困っているという状況でもない。だけど、どこか漠然と漂う閉塞感のようなものがある気がしていて。「これはどういうことなんだろう?」というところが、そもそもこの作品の構想のスタートなんです。でも、それをそのまま形にすると、かなり暗い話になってしまうので(笑)、いろいろと工夫をしてミュージカルとして成立するよう作り上げている最中です。

テーマのひとつには、ダレンのいうように「世代間ギャップ」があります。例えば、戦争を知っている世代、戦争は知らないけれど日本が元気だった頃を知っている世代、そしてざっくりではありますけど僕らの世代、それぞれがぜんぜん違う感じがするんです。

――肌感覚として、それは分かる気がします。

これは余談で、西川調べによる単純な僕の感覚なんですけど。最近、高度経済成長期あたりの日本が元気だった時代を知っている人に「いつの時代が一番よかったですか?」みたいな質問をするのにハマってるんです。テレビでもそういうインタビューをやっていたりしますし。この前タクシーに乗って、二十歳の頃からずっと渋谷近辺で運転手を務められている方に、この質問をしてみたら「やっぱり10代20代の頃の、渋谷が変わろうとしている頃がよかった。まだあの当時は目黒川で洗濯している人がいたり、その辺で普通にかけっこをしていたんだよ」と言っていて。しかも、その頃の渋谷にはロープウェイがあったんですって! 信じられなくないですか?

――ちょっとすぐには想像できないです。

ですよね。そして、その世代のほかの人に聞いてみても「やっぱりあの頃が」って言うんですよ。一方で、僕らの周りでこういう話題になると、漠然と「昭和がよかったよね」みたいな話になったり、レトロなものに憧れたり。そうやってセピア調に色褪せたり、キラキラして見える過去を思い描く人って少なくないと思うんです。もちろん、今がいいって言う人もいるとは思いますけど。

――うーん……なるほど。身に覚えがありますね。

それで、戦争を知っている世代の人はというと。先日、テレビで介護施設に入られている方へのインタビューを見ていたんですけど、「今が一番いい」って答える人がかなり多かったんです。「みんなでロビーに集まって、人生ゲームをやるのが楽しみなんだ」っていう方もいたりして。「こんなに平和でいい時代ないわよ」「うんうん」ってやりとりが、すごく印象的でした。多分、この世代の方々からすると、ひとつ前の世代がよかったっていう感覚がないんですよね。ひとつ前は戦争なわけだから。

こうやって、ひとつの問いにもこれだけギャップがあると、同じものを見たり聞いたり話したりしても、ギャップが生まれるのは当然だなと思います。世代間ギャップって悪い意味で捉えられたりしますけど、僕は面白いと思うし、何だか愛おしいと感じるんですよね。あんまり上手くいえないんですけど(苦笑)。

ミュージカルの楽しみ方「虚構の中にあるひと匙のリアリティ」

――読者の中にはミュージカルに触れたことがない人もいるかと思うのですが、西川さん流のミュージカルの楽しみ方を教えてください。

演劇が描くのは嘘の世界なんですが、特にミュージカルは虚構性が高いと思うんです。その虚構性の中に、ひと匙のリアリティや自分との共通点が見えた瞬間が、僕はとても好きで。だからこそ、ストレートプレイよりもミュージカルを作りたいと思うし、単なるおとぎ話のミュージカルより、そこにひと匙のリアリティが見えるものを作れたらと思います。観に来た方にも、それを感じ取っていただけたら嬉しいですね。

たとえばダンスを観て「楽しいな」「現実を忘れていられるな」という時間と、観た後に感じたことを家に持ち帰ってもらって、お風呂に入ったりしながら考える時間。その両方を提供できる作品にできるよう、今取り組んでいます。

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

プロフィール

PICK UP

関連記事一覧